多様な年齢・体力レベルの中高年者を対象とした集団型運動教室の試み

多様な年齢・体力レベルの中高年者を対象とした集団型運動教室の試み

Attempt of an exercise class at middle-aged and elderly groups 
with different body strength levels

金子 嘉徳(女子栄養大学)
kaneko@eiyo.ac.jp
鞠子 佳香(女子栄養大学)
大竹 佑佳(女子栄養大学)
長谷川 千里(東京女子体育大学)

Yoshinori Kaneko (Kagawa Nutrition University)
Yoshika Mariko (Kagawa Nutrition University)
Yuka Otake (Kagawa Nutrition University)
Chisato Hasegawa (Tokyo Women’s College of Physical Education)

[Abstract]

 We hosted events where light exercise was infrequently implemented, once every 2 weeks, for 4 months. The events were held as a class for group exercise “Session 25 in new sports college” aiming at middle aged and elderly persons with a wide spectrum in age and body strength, in which participants without much body strength could safely join because only a low burden was required in the activity. We measured and investigated the body strength and ADL before and after the events for the subjects comprised of 56 persons (men 9 and women 47). According to the results, we grouped the subjects into 3 cohorts in accordance with age, and 3 cohorts in accordance with the body strength at the time of starting, and compared the results for each cohort. At the completion time, for women, the cohort with higher age tended to be lower in grip strength, one-leg standing time with eyes open, and gripping bar reaction time (p<0.05, p<0.001, p<0.01).
The grip strength for women was found to decrease as a whole irrespective of the results at the starting time (p<0.05, p<0.001), but as for the anteflexion in the legs-straightened seating posture, one-leg standing time with eyes open, and gripping bar reaction time, the cohort which was lower in body strength at the starting time tended to increase in ability, whereas the cohort which was higher in body strength at the starting time tended to decrease in ability. As for ADL, in women, the cohort with higher age tended to be lower in ADL, and both in men and women, the cohort which was higher in one-leg standing time with eyes open tended to be significantly higher in ADL (p<0.05, p<0.01, p<0.001).

Keywords : middle aged and elderly persons, a class for group exercise, light exercise, body strength, ADL

I .序論

 我が国の65歳以上の高齢者人口は,平成26(2014)年に過去最高の3.300万人となり,高齢化率26.0%という超高齢社会を迎え,厚生労働省・平成26年簡易生命表によると平均寿命は男性 80.50 歳,女性 86.83 歳となった。しかし健康寿命は平均寿命よりも約10年短く,そのことが大きな課題となっている。これに対して,国や各自治体をはじめとしたさまざまなところで健康寿命の延伸に向けての取り組みが進められ,平成18年度からは介護保険法の改正にともない,要支援・要介護状態等となる前に食い止める介護予防事業にもいっそう力が入れられるようになった。介護予防の運動についても,厚生労働省による「介護予防マニュアル」に従った運動機能の低下がみられる高齢者に向けた運動教室が各地で実施されるようになっている。
平成26年国民健康・栄養調査結果(厚生労働省)によると,男女とも65歳以上の高齢者の運動習慣者の割合は,20~64歳よりも多い。健康長寿の延伸のために自分の健康の維持増進に関心を持ち,毎日の食事や運動に気を配るような高齢者は,地域の運動教室への参加意欲も高く,運動の継続にも意欲的である。現在,多くの介護予防の運動教室で実施されている運動は,介護予防マニュアルの運動器の機能向上マニュアルで示されているようなロコモティブシンドロームやサルコペニアの防止を目的としたトレーニングが中心であり,理論に基づいた運動であることから意欲的に参加して継続することができれば成果が出やすい。しかし,運動に対して関心を示さない高齢者も多く,このような人達は運動教室からの呼びかけにもなかなか反応せず,また筋力トレーニングのように単調になりがちな運動を継続して実践することも得意ではない。このような運動に対する意欲や関心の薄い高齢者を含めた健康づくりが今後ますます課題となってくると予想される。先行研究でも,檜皮(2011)は,高齢者の介入運動では反復形式のエクササイズが実施される傾向がみられることを指摘しており,代ら(2008,2010)は楽しみながら身体運動を実施できるようなプログラム開発の必要性を述べている。
さらに2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢期を迎え,高齢者を対象とした運動教室への需要はますます増えていくことが予想される。後期高齢者は体力的な個人差も大きく,それぞれの体力や運動能力に合わせたきめ細やかな指導が理想である。しかし,増え続ける高齢者に対応するためには,そのような少人数制の運動教室の数を増やすという取り組みだけでは,指導者や会場に限界があることからも対応しきれなくなるという問題が出てくることも予想される。指導者の数の問題については,運動サポーターの養成なども行われつつあるが,やはり専門的な知識を持った指導者による指導は必要であり,一人の指導者が対応できることには限界がある。今後は,少人数でそれぞれの体力に応じた筋力トレーニングや転倒予防トレーニングなど介護予防に重点をおく運動教室を増やしていくだけではなく,元気な高齢者には,大人数で実施する運動教室を増やすことで対応していく必要があると考える。しかし,元気であっても個人差の大きい高齢者が対象であるので,集団型運動教室を安全に実施し,体力の維持向上に効果を上げるためには課題もあるものと考える。さらに,一般を対象とした運動教室では,中高年を対象に開講することも多く,個人差がさらに広がる場合もある。健康日本21(総説)でも述べられているように,身体機能が徐々に低下し,疾病の罹患も増加する中年期は,高齢期への準備期として重要である。この中年期から運動教室に参加し,継続することができれば,高齢期になってからの運動継続にもつながりやすいと考えられる。
筆者らは,平成15年から地域の中高年者を対象とした健康づくり運動教室「ニュースポーツ大学」を開講している。最初は参加者16名でスタートしたが,現在は約120名の参加者がある。参加者の年齢は50代後半から80代までと幅があり,それぞれの体力もこれまでの運動経験も異なる人々が対象であるため,安全に運動してもらうために軽運動を中心のプログラムを実施している。これまで,高齢者に対する筋力向上を目的としたトレーニングの運動効果は,新井ら(2003)や橋立ら(2012)をはじめとした先行研究によって科学的な根拠がそろいつつあり,介護予防の運動介入についても深作ら(2011)や福川ら(2008)をはじめ多く報告されているが,一般の高齢者を対象とした楽しみながら実践する軽運動プログラムによる効果の検証はまだあまりみられない。
そこで本研究では,年齢と体力に幅のある中高齢者の集団を対象に,軽運動を実施した「ニュースポーツ大学第25期」の運動教室前後の体力とADLを比較することによって課題を明らかにし,これからの中高齢者の集団型運動教室の方向性について検討することを目的とした。

II .研究方法

1.「ニュースポーツ大学・第25期」の概要

「ニュースポーツ大学」は,埼玉県坂戸市J大学・実践運動方法学研究室が平成15年から開講している地域の中高年者を対象とした健康づくり運動教室である(図1)。

1)開講日 第25期:2015年4月11日(土)~7月11日(土) (3か月間12回を一期として毎週土曜日に実施)
2)場所 J大学体育館やトレーニングルーム等
3)指導スタッフ 体操専門指導者(3名)と学生ボランティア(6~8名)
4)参加者 129名(男性23名,女性106名)
5)プログラムの特徴 運動と食事を組み合わせたプログラムであること
・誰でも楽しく実施できるニュースポーツをはじめとした軽運動が中心。
・運動前に当日のキャフテリアの定食についての栄養的な説明がある。
・運動後,参加者はキャフテリアで昼食をとることができる。
6)運営方法
(1)交代制
第25期は129名の参加希望者があり,会場の広さやスタッフの数に限りがあるため,プログラムの内容や安全管理上の理由によりすべての回で全員が一緒に運動することは困難であった。そのため,参加者を白組と赤組の2グループに分け,一部のプログラムを二組(白組と赤組)に分けて交互に参加する交代制とした。
(2)組み分け方法
1回目の最後に,半々に用意しておいた赤組用・白組用の出席カードを配布し,参加者がその場で日程や一緒に参加したい仲間との都合等を調整しあってカードを交換することで,参加する組を主体的に決定できるように設定した。
(3)運動参加回数
2週間に1回の計8回


図1 「ニュースポーツ大学」活動の様子
(左上から順に)①健康チェック②演歌による体操
③ニュースポーツ④カフェでの昼食
⑤第25期ニュースポーツ大学修了式

7)プログラム内容
(1)体調チェックと事前運動
運動開始前に必ず血圧測定を含む体調チェックを実施し,安全に運動できる体調であることを確認した。このため参加者には少し早めに体育館に来てもらっているが,先に体調チェックの終わった者は,映像による体操「エンカサイズ」,バドミントン,エアロバイク,バランスボール,お手玉,など自分の体力に合わせた運動ができるようにして余分な待ち時間をなくすようにした。
ニュースポーツ大学で毎回取り入れている「エンカサイズ」は,中高年者になじみの深い演歌を使った体操である。本研究室が株式会社テイチクエンタテインメントと共同で開発したDVDは,画面を見ながら体操を覚えることができるようになっており,体育館の大きなスクリーンに映すことで,指導者が前にいなくても体操をすることできる。また高齢者になじみの深い演歌なので,口ずさみながらリラックスして体を動かすことができ,あまり運動経験のない高齢者でも健康づくりの体操を楽しく実施することができる。体調チェック後の待ち時間中にも,「エンカサイズ」をプロジェクターに映し各自で体操できるようにした。
(2)主運動(参加者全員での運動)(表1)
11時から12時まで,ウォームアップとしてストレッチを行った後,今日の運動としてニュースポーツ,「エンカサイズ」,レクリエーション等全身をバランスよく動かすような運動を全員で行い,最後にクールダウンとして体操を行った。

表1 平成27年度 「ニュースポーツ大学」(第25期)

2.測定・調査方法

1)測定・調査日
開始時: 4月18日,終了時:7月11日
2)対象者
開始時と終了時の測定・調査に両方とも参加した男性9名(67~81歳,平均年齢74.0±4.39歳),女性47名(58~83歳,平均年齢69.0±5.56歳)の計56名。
3)測定項目
(1)身体計測
身長,体重,ウエスト周囲径の3項目,BMIを算出。
(2)体力測定
握力,長座体前屈,開眼片足立ち,棒反応の4項目で,測定方法は新体力テスト(文部科学省)に準じた。
①握力(筋力の指標):
握力計(T-1780,トーエイライト株式会社)を用いて左右を測定し良い方の値。
②長座体前屈(柔軟性の指標):
デジタル長座体前屈計(T.K.K5112,竹井機器工業)を用いて2回測定し良い方の値。
③開眼片足立ち(平衡能力の指標):
最長180秒として1回測定。
④棒反応(敏捷性の指標):
測定棒を用いて3回測定し平均値。
4)ADL調査
65歳以上の新体力テストのスクリーニングで使用されているADL(日常生活活動テスト)を実施し,合計点を求めた。
5)群間の比較
(1)年齢による3群の比較
対象者の年齢による違いを知るために,64歳以下を「中年群」,65歳から74歳以下を「前期高齢群」,75歳以上を「後期高齢群」の3群に分け,運動教室前後の身体計測,体力測定,ADL調査の結果を比較した。
(2)各体力要素の低・中・高群の比較
体力測定の結果を,性別・年齢による影響を除いて比較するために,文部科学省の「平成25年体力・運動能力調査結果」の性別・年齢区分別の全国平均値と標準偏差から5段階の評価表を作成して評価した。なお80歳以上の対象者に対しては,全国平均値の年齢区分の上限である75~79歳の値を用いた。
棒反応については,新体力テストで実施されていないため,東京都立大学体力標準研究会(2000)による「新日本人の体力標準値」を基に,同様の5段階の評価を行った。
握力,長座体前屈,開眼片足立ち,棒反応それぞれについて,運動教室開始時の5段階評価に基づいて,1,2を「低群」,3を「中群」,4,5を「高群」の3群に分け,運動教室前後の結果を比較した。
6)統計解析
統計解析にはSPSSVer.23(IBM)を使用し,2群間の比較には独立したt検定,3群間の比較には分散分析,運動教室開始時と終了時の比較は対応のあるt検定をそれぞれ実施して比較を行った。p<0.05を有意水準とした。
7)倫理的配慮
倫理的配慮については,対象者に同意を得た上で,「香川栄養学園実験研究に関する倫理委員会」(第92号)で承認を得た。

III .結果

1.年齢群による比較

1)対象者の年齢群
男性は「前期高齢群」6名(71.5±2.59歳),「後期高齢群」3名(79.0±2.00歳),女性は「中年群」11名(62.0±2.05歳),「前期高齢群」27名(69.0±2.38歳),「後期高齢群」9名(77.4±2.60歳)であった。
2)身体計測結果の比較(表2)
開始時の身長,体重,BMIについて,男女とも群間に差はみられなかった。終了時の体重,BMIについても年齢群の間では差が認められなかったが,全体に開始時よりも減少する傾向がみられ,女性の「前期高齢群」の体重と「中年群」のBMIでは開始時と終了時の間に有意な差が認められた(p<0.01・p<0.05)。

表2 年齢群による身体計測結果の比較

3)体力測定結果の比較(表3)
握力は,女性の終了時では年齢群が高くなるほど有意に低くなる傾向が認められた(p<0.05)。開始時と終了時の値を比較すると,男女とも終了時の方が低下する傾向がみられ,女性の「前期高齢群」「後期高齢群」で有意な差が認められた(p<0.001・p<0.05)。
長座体前屈は,男女とも年齢群の間に差は認められなかった。開始時と終了時の値を比較すると,男性はわずかに低下,女性はわずかに向上の傾向がみられたが,いずれも有意差はなかった。
開眼片足立ちは,男性は年齢群の間に差がみられなかったが,女性では年齢群が高くなるほど有意に低くなる傾向が認められた(p<0.001)。また,女性の「前期高齢群」で終了時に有意な低下が認められた(p<0.05)。
棒反応は,女性の終了時で年齢群が高くなるほど有意に低くなる傾向が認められた(p<0.01)。

4)ADLの比較(表3)
女性は年齢が高い群ほど有意に低くなる傾向が認められた(p<0.001)。開始時と終了時を比較すると,女性の「中年群」「後期高齢群」で有意な向上が認められた(p<0.05)。

表3 年齢群による開始時と終了時の体力・ADLの比較

2.体力の低・中・高群の比較

1)握力(表4)
男性は「低握力群」3名(33.3%),「中握力群」3名(33.3%),「高握力群」3名(33.3%),女性は17名(36.2%),14名(29.8%),16名(34.0%)であった。男女とも3群の間に年齢の差は認められなかった。
開始時と終了時を比較すると,男性は「低握力群」ではやや向上し,「中握力群」「高握力群」ではやや低下する傾向がみられたが有意差はなかった。女性はすべての群で有意な低下がみられた(p<0.05 ・p<0.01・p<0.01)。
ADLについては群間に差はみられず,女性の「中握力群」のみ終了時に有意な向上が認められた(p<0.01)。

表4 握力による3群の年齢・開始時と終了時の握力・ADLの比較

2)長座体前屈(表5)
男性は「低長座体前屈群」5名(55.6%),「中長座体前屈群」1名(11.1%),「高長座体前屈群」3名(33.3%),女性は22名(46.8%),14名(29.8%),11名(23.4%)であった。男女とも3群の間に年齢の差は認められなかった。
開始時と終了時を比較すると,女性の「低長座体前屈群」では有意な向上がみられたが(p<0.05),「高長座体前屈群」(5段階評価)は有意な低下が認められ,その他については,有意差は認められなかった。
ADLについては群間に差はみられず,女性の「中長座体前屈群」のみ終了時に有意な向上が認められた(p<0.05)。

表5 長座体前屈による3群の年齢・開始時と終了時の長座体前屈・ADLの比較

3)開眼片足立ち(表6)
男性は「低開眼片足立ち群」4名(44.4%),「中開眼片足立ち群」3名(33.3%),「高開眼片足立ち群」2名(22.2%),女性は8名(17.0%),12名(25.5%),27名(57.4%)であった。男性では群間に年齢の差は認められなかったが,女性では「高開眼片足立ち群」の方が有意に若い傾向がみられた(p<0.01)。
開始時と終了時を比較すると,女性の「高開眼片足立ち群」で有意な低下がみられたが(p<0.05),その他について有意差は認められなかった。
ADLについては,群が高くなるほど高くなる傾向が認められた(p<0.05・p<0.01・p<0.001)。また女性の「中開眼片足立ち群」「高開眼片足立ち群」では終了時の方が有意に向上する傾向が認められた(p<0.05)。

表6 開眼片足立ちによる3群の年齢・開始時と終了時の開眼片足立ち・ADLの比較

4)棒反応(表7)
男性は「低棒反応群」2名(22.2%),「中棒反応群」2名(22.2%),「高棒反応群」5名(55.6%),女性は5名(10.6%),15名(31.9%),27名(57.4%)であった。男女とも3群の間に年齢の差は認められなかった。
開始時と終了時を比較すると,女性の「低棒反応群」「中棒反応群」は有意な向上がみられたが(p<0.001・p<0.01),「高棒反応群」では有意な低下が認められた(p<0.01)。
ADLについては,男女ともに3群間に差はみられず,女性の「高棒反応群」で終了時に有意な向上傾向が認められた(p<0.01)。

表7 棒反応による3群の年齢・開始時と終了時の棒反応・ADLの比較

IV .考察

 終了時の体重計測の結果,全体に体重の低下傾向がみられた。これは運動教室後半の日程が6月7月の暑さが厳しくなってきた時期であったことから,多くの者に食欲の低下があったのではないかと考える。
開始時の体力の5段階評価の結果から,対象者の体力の特徴についてみてみると,どの体力項目についても評価にバラつきがみられ,全国平均に比べ体力のある者とない者が混在していることが明らかになった。特に握力は「低群」「中群」「高群」にほぼ同人数で分かれ,筋力に差のある集団であることが推察された。長座体前屈の結果からは,全国平均よりも柔軟性が低い者の多い集団であること,開眼片足立ちの結果からは,平衡能力が男性は全国平均よりやや低いものが多く女性は高い者の多い集団であること,棒反応の結果からは,敏捷性は全国平均よりも高い者の多い集団であることが推察された。
開始時と終了時の体力測定の結果から,今回のような体力の低い者でも安全に実施できるような軽負荷の運動を2週間に一回の低頻度で実施した場合,筋力(握力)については,女性では低下する可能性があることが推察された。特に前期高齢群と後期高齢群で有意に低下が認められることから,年齢が高くなるほど,若い世代よりも短期間で筋力が低下する可能性があるのではないかと考えられる。柔軟性(長座体前屈)については,低い者については向上の可能性があるが,元から高かった者は反対に低下の可能性があることが示唆された。平衡能力(開眼片足立ち)は年齢の影響が大きく,平衡能力が著しく低下する「後期高齢群」では向上の可能性が示されたが,やはり元から高かった者については低下する可能性が示唆された。敏捷性(棒反応)についても年齢の影響が強いことが示され,低かった者については向上する可能性が示されたが,「後期高齢群」については難しいかもしれないことが推察される。
これらの体力の低い群では向上の傾向がみられるのに,高い群では低下傾向がみられることについては,開始時の身体能力が低い方が,改善効果がみられたとする滝本ら(2009)や新井ら(2006)の先行研究の結果とも一致していた。これらの結果からも,「ニュースポーツ大学25期」で実施したような軽負荷で低頻度の運動は,初めから体力のある程度高かった者にとっては体力向上につがならず,体力の低かった者にとっては適度な運動負荷となり,体力の向上につながったのではないかと考えられる。
ADLについては,特に女性では年齢の影響が大きいことが示唆された。また体力要素では平衡能力による影響が大きいことが示唆され,高齢者の平衡能力の維持が重要であることが示された。しかし,すべての年齢群で,それぞれの体力要素の向上・低下に関わらず男性は維持,女性はやや高くなる傾向が認められたことから,運動教室の参加による日常生活活動の改善がみられた可能性があることが示唆されたと考える。

V .年齢と体力に幅のある集団型運動教室の課題解決への提案

 「ニュースポーツ大学25期」のような年齢や体力に幅のある集団型運動教室では,すべての参加者の体力に合わせた運動を実施することは難しい。しかし,体力の低い人に合わせた軽運動だけでは,筋力だけではなく,柔軟性やバランス能力,敏捷性についても,向上する者と低下する者がでてくることが推察された。そこで今後は,どのようにしてそれぞれの参加者のすべての体力要素の維持向上を図っていくのかが課題である。

1.体力に合わせた小グループによる実践
運動教室の主プログラムの他に,小グループ別の運動時間を別に作ることによって,それぞれの体力に合わせて足りない運動を補うことが考えられる。
ニュースポーツ大学では,他の人が体力チェックを行っている待ち時間中を各自の好きな運動に当てる時間としているが,運動種目の選択は参加者の自由なので,自分に不足している体力要素を補うような運動をしているとは限らない。開始時の体力測定結果をもとに,こちらからプラスした方がよい運動をアドバイスするような取り組みも必要であると考える。
また主プログラムの後に,体力別の小グループによる運動時間をつくり,体力のある参加者にはより負荷の高い運動を,体力のない参加者には特に低下している体力要素を向上させることができるような無理のないミニプログラムを実施してもらうようにするなどが考えられる。ただし,主である集団での運動プログラム時間が短時間にならないようにするべきだと考える。確かに各自の体力の向上だけを目指すのであれば,教室の最初から最後まで体力グループ別で運動を行った方が効率的であるが,筋力の向上を目的にした筋力トレーニングなどは単調な動作のものが多く,健康づくりへの強い動機づけがないと継続が難しい。反対に,ニュースポーツやレクリエーションなど年齢や体力に関係なく行うことのできる集団での軽運動は,多くの仲間と楽しみながら交流できるので運動することに喜びを感じやすく,それによって健康づくりへの関心が高まれば,自然と単調なトレーニングにも取り組みやすくなると考える。先行研究でも,集団運動の精神的面への効果が報告されており,福川ら(2008)は,介護予防を目的にした場合,運動教室に参加することは1人で実施するよりも動機づけにおいて非常に有効であると述べている。横山ら(2003)も,集団実施運動プログラムは個別実施プログラムよりも,活動の自己評価,楽しさ,達成感,満足感等が増加し,中高年の運動の習慣化を促進する要因として,集団実施運動をプログラムに加えることの有効性を示唆している。さらに安永ら(2002)は,運動習慣は,特に後期高齢者において,社会的自立因子,健康度自己評価,主観的幸福感に有意に肯定的な影響を及ぼすとしている。また運動内容についても,井口ら(2007)が,低頻度の運動プログラムでも教育的要素やレクリエーションなどの心理的要素を加味した内容を含めることで,地域高齢者の心理状態及び身体機能に対する効果が得られたことを報告している。

2.運動プログラムの日常化への支援
一人でも簡単に実施できる運動を紹介し,日常生活に運動を取り入れてもらうことで不足する体力要素のトレーニングを補うことが考えられる。谷本ら(2010)は,筋肉量の加齢による特徴として,特に下肢筋肉量は早期より加齢に伴い大きく減少すること,高齢期では筋肉量の減少の割合が加速することが明らかにした。また金久(1990)によると,先行研究の結果から,筋力トレーニングは原則的に週3回の頻度で行うと効果が得られるとしている。したがって加齢による筋肉の減少を防ぐためには,定期的な筋力トレーニングは欠かせないものであるが,これを高齢者一人当たりの運動教室の回数を増やすことによって満たそうとしても難しい。そこで,参加者一人一人が運動教室以外でも,日常的に自分で運動を継続していけるようになるための支援が集団運動教室に求められている。

3.参加者の体重減少の早期発見による体力低下の予防
近年,高齢者の加齢による虚弱の状態のことを「フレイル」いう言葉で表すようになった。荒井(2014)は,フレイルとは高齢者においてよく認められる老年症候群であるとし,75歳以上の後期高齢者の要介護に陥る最も多い原因であると述べている。山田ら(2012)や葛谷(2014)によると,フレイルとサルコペニアと栄養の関係について研究が進んでおり,高齢者のサルコペニアと低栄養はフレイルティ・サイクルとして互いに影響しながらフレイル(虚弱)に陥る要因となることがわかってきている。高齢者を対象とした運動教室の場合,定期的に体重測定なども実施することで早期に体重の減少に気づくことができ,必要ならば食事等のアドバイスも可能である。これからの高齢者の運動教室では,サルコペニアの予防とともに,低栄養の危険も予防するというフレイルの予防という視点も求められていると考える。

VI.結論

 年齢と体力に差のある中高齢者を対象とした集団型運動教室「ニュースポーツ大学・第25期」で,体力や年齢に関係なく安全に実施することのできるニュースポーツをはじめとした軽運動を2週間に1回の低頻度で4か月実施し,開始時と終了時に身体計測,体力測定,ADL調査を実施した。

1)年齢による3群の比較では,長座体前屈は差が認められなかったが,女性の終了時の握力,開始時と終了時の開眼片足立ち,終了時の棒反応については年齢が高い群ほど有意に低くなる傾向が認められた(p<0.05・p<0.001・p<0.01)。
2)開始時の握力による3群で比較した結果では,男性の「低握力群」のみやや向上する傾向が認められたが,女性はすべての群で有意な低下がみられた(p<0.05・p<0.01)。
3)長座体前屈は,女性の「低長座体前屈群」では有意に向上(p<0.05),「高長座体前屈群」(5段階評価)では有意に低下する傾向がみられた(p<0.05)。
4)開眼片足立ちは,女性の「高開眼片足群」で有意な低下がみられた。
5)棒反応は,女性では「低棒反応群」「中棒反応群」では有意な向上が認められたが(p<0.01・p<0.001),「高棒反応群」では低下がみられた(p<0.01)。
6)ADLは,女性では年齢が高い群ほど有意に低くなる傾向(p<0.001),また男女とも開眼片足立ちの結果の高い群ほど有意に高い傾向がみられた(p<0.05・p<0.01・p<0.001)。

年齢と体力に幅のある中高齢者を対象とした集団型運動教室で,軽負荷の運動を低頻度で実施した場合,女性の筋力については維持できない可能性があることが示唆された。また,開始時の体力が低い者は向上する可能性があるが,高かった者については低下する場合のあることが示された。

VII.今後の課題

 今後は,ニュースポーツ大学の中で,体力別の小グループ別での運動時間を設けてそれぞれの不足する体力要素のトレーニングを補う,家で続けられるような簡単な運動を紹介し運動の習慣化獲得を促すなどの働きかけを検討していきたいと考えている。また,定期的な身体計測の実施と運動後の昼食時間を活用し,体重減少による体力の低下を予防できるような方法についても検討していきたい。
今回はニュースポーツ大学参加者が,実際に安全に楽しく,運動強度の観点で心地よく実施できていたかどうかという側面での調査がされなかった。今後は,これらの観点とさらに集団型運動教室の参加における交流の促進や毎日の生活に対する気持ちの変化などの心理的な側面からも調査し検証していきたいと考えている。

VIII .引用文献

1)荒井秀典(2014),フレイルの意義.日老医誌,51:497-501
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3)新井武志,大渕修一,小島基永ほか(2006),地域在住高齢者の身体機能と高齢者筋力向上トレーニングによる身体機能改善効果との関係.日老医誌,43:781-788
4)代俊(2008),高齢者の動的バランス機能向上のための運動プログラム―プログラムの内容に着目して―.広島大学大学院教育学研究科紀要,第二部第57号:301-308
5)代俊,松尾千秋(2010),高齢者における動的バランス機能向上のための運動プログラムの開発.コーチング学研究,第24巻第1号:57-71
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7)橋立博幸,島田裕之,潮見泰藏ほか(2012),高齢者における筋力増強運動を含む機能的トレーニングが生活機能に及ぼす影響.理学療法学,39(3):159-166
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9)檜皮貴子(2011),高齢者の転倒予防運動に関する研究―先行研究の問題点に着目して―.駿河台大学論叢,第42号:149-168
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18)厚生労働省,健康日本21(第二次) .http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html(最終検索日2016/03/30)
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30)横山典子,西嶋尚彦,前田清司ほか(2003),中高年者における運動教室への参加が運動習慣化個人的要因に及ぼす影響―個別実施運動プログラムと集団実施運動プログラムの比較―,体力科学,52(Suppl):249-258

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