新しい運動プログラムとしての水中竹馬の試案

A Proposal of Aquatic Stilts-walking

As a New Activity Program

水野良美(三重大学教育学部生涯教育課程スポーツ健康科学コース)
中尾恵理(三重大学教育学部生涯教育課程スポーツ健康科学コース)
重松良祐(三重大学教育学部保健体育講座)
   rshige@edu.mie-u.ac.jp

Yoshimi MIZUNO(Department of Kinesiology Science, Course for Continued Education, Faculty of Education, Mie University)
Eri NAKAO(Department of Kinesiology Science, Course for Continued Education, Faculty of Education, Mie University)
Ryosuke SHIGEMATSU(Department of Health and Physical Education, Training Course for School Teachers, Faculty of Education, Mie University)

 

  1. 緒言
  2. 研究課題1 スポーツ施設における質問紙調査
  3. 研究課題2 素材・プログラムの作成と試行
  4. まとめ
  5. 付録I. 研究課題1で用いた質問紙
  6. 付録II. 研究課題2で用いた質問紙
  7. 付録III プログラム作成のための水中竹馬の素材集
Abstract

 Aquatic activities are said to be beneficial in many respects, however, the problem is the fewness of them. Although there are many people who take up the activities to keep and promote fitness, there seems to be a limitation in keeping up the activities only for the sake of the promotion of fitness. To continue an activity, joyfulness is an important factor. To be joyful, the activity should have a large variation of movements. Taking these into accounts, the author devised 63 kinds of movements (in this paper referred to as activity elements) based on an inquiry investigation shedding light on the activity of aquatic stilts-walking. By applying these activity elements, an activity program of aquatic stilts-walking, which focuses on joyfulness, can easily be constructed. With a suitable combination of activity elements, an activity program that suits the degree of fitness of each participant can be set up. The author thus has been able to propose aquatic stilts-walking as an activity which can be easily continued.

キーワード:水中運動;水中竹馬;竹馬;プログラム;楽しさ

Key words: aquatic activity, aquatic stilts-walking, stilts, activity program, joyfulness

緒言

 健康ブームと言われる昨今、健康づくり運動に対する関心が広い世代で高まってきている。そのなかでも、水の物理的特性である浮力、水圧、水温、水の粘性抵抗の影響を受けることで運動実践者に身体への負担の軽減や静脈還流の促進などの多くの利点をもたらすとして、水中運動が注目を集めている1),2),5)。さらに、温水プールを保有する民間スポーツ施設が普及したことやテレビ、雑誌で水中運動が取り上げられるようになってきたなど、水中運動はより身近なものになってきている1),2)。しかしその一方で、水中運動は水中ウォーキングやアクアビクスなどしか散見されず、運動の種類の少ないのが現状である。

 近年、水中運動が盛んにおこなわれるようになった背景には健康志向そのものの高まりが一番大きな動機として存在している1),6)。その他の運動に目を向けても、運動を始めたきっかけとしては健康の維持・増進のためという理由が多くみられる6)。しかし健康のためという目的のみを追求した場合、運動の普及や継続には限界があると考えられる。実際に、参加者も楽しい運動をしたいと考えていたり、運動を継続するには楽しさが重要な要素になる6)といわれていたりするように、楽しむことにも強く焦点をあてる必要があると思われる。そこで、水の利点を生かしながら運動自体に興味を引かれ、楽しめるような新しい水中運動はないだろうかと思い、着目したのが水中竹馬である。

 竹馬は昔ながらの遊びである。多くの中高齢者にとっては子どもの頃に経験したことのある懐かしいものであり、一方で若い年代の人にとっては名前を聞いたことがあっても、実際にはあまり経験したことのない遊びと思われる。それに加え、竹馬に乗ることで普段の目線よりも高い位置から周囲を見るなどの非日常的な体験ができるので、多くの人の興味や関心をひくことができると考えられる。しかし陸上で竹馬に乗ることは難しく、練習が必要となる。中高齢者にとっては転倒するという恐怖心や危険性があるためにおこないにくい状況である。それに比べ水中竹馬は水の粘性を利用することで、未経験者でも比較的簡単に竹馬に乗ることができ、バランスを崩したとしても容易に立て直すことができるので、転倒に関する恐怖心を和らげられると考えられる。また、たとえ転倒しても水中ということもあり、傷害につながりにくいという利点も挙げられる。このように水の利点を生かした運動は、対象年齢層を広げたり、安全性を高めたりすることができるため、これまで陸上でおこなわれることの多かった体操の領域をさらに拡大することにつながると思われる。

 水中竹馬を用いたプログラムは民間のスポーツ施設でも徐々に実施されるようになってきている。しかし、実際におこなわれている水中竹馬プログラムは、水中で竹馬に乗って歩くといった単調な動きが中心である。単調な動きを繰り返すだけでは参加者が飽きてしまうことが考えられる。参加者を飽きさせないプログラムにするための一つの方法として、動作の種類を増やすことが考えられる。動作を増やすことは個々の参加者にあったプログラムを組むことができるようになるだけでなく、さまざまな動きに挑戦するという楽しさを増大させられる可能性がある。参加者が運動に楽しさを感じれば、運動継続につながると考えられる。

 そこで本研究では、水の特性を生かしながら竹馬に乗ることのできる水中竹馬を多くの人が楽しめるように、さまざまな動作(本論では素材と表す)を考案し、その素材を難易度、動きの方向、動きの類似性などにより分類し、一つの水中運動の種目として充実させるとともに、それらの体系化を試みることとした。

 なお、本研究では以下の3用語を次のように定義する。

  1. 運動の種類:水中運動に含まれる一つ一つの運動(例:水中ウォーキング)。
  2. プログラム:準備運動や主運動となる素材、整理運動を組み合わせた一連のもの。
  3. 素材:水中竹馬の一つ一つの動作(例:しゃがんで歩く)またはその総称。

 

研究課題1 スポーツ施設における質問紙調査

I.目的

 今日では多くのスポーツ施設で水泳を含めた水中運動プログラムがおこなわれているが、参加者はなぜ水中運動に関心を持ち、実践しようと思うのか、また反対に参加しない人にはどのような理由があるのか、さらに参加者が継続しようと思うプログラムにはどのような要素が含まれていれば良いのか、などがプログラムを提供する側にとって重要な情報と考えられる。

 また、水中竹馬は聞き慣れない言葉であるため、この言葉から受けるイメージも聴取し、その言葉を聞くことで実際に水中竹馬をおこなおうと思うかどうか、また、おこないたくないと思う人にはその理由を聞くことで、プログラムを充実させる要素を得ることができると考えた。このことから、今後の素材とプログラム作成の参考にするために、水中運動を実施しているスポーツ施設で質問紙調査をすることとした。また、水中運動には水中で立位姿勢のままおこなう水中ウォーキングや、水面に浮いた状態でおこなう水泳、酸素補給システムを備えて長時間潜水するスキューバダイビングなどが含まれるが3)、本研究で扱う水中運動はプールにおいて立位姿勢でおこなう運動とした。

II.方法

1)対象施設

 水中竹馬という言葉から受けるイメージを調査するために、屋内プールにて水中運動プログラムを提供するものの、水中竹馬プログラムを提供していないスポーツ施設(株式会社ジャパンスポーツ運営アドラー千里:三重県安芸郡河芸町上野)にて調査した。このスポーツ施設で調査した理由は、(1)水泳の教室だけでなくアクアビクスダンスや水中ウォーキングなどの水中運動プログラムがおこなわれていること、(2)スタジオで実施されているエアロビクスダンスやダンベル体操などの運動プログラムよりも水中運動プログラムが多いこと、(3)最も目立つところにプールがあることから、水中運動に注目する人が多いと推測したためである。調査期間は2004年6月の1ヶ月間とした。

2)対象者

 対象者は当該スポーツ施設の会員とした。男性27名(41.4±19.8歳)、女性67名(43.7±18.8歳)の計94名(43.1±19.0歳)から回答を得た。協力を依頼した対象者のなかには時間がないという理由や、視力が低下しており質問紙を読むのが困難、ただ面倒だから、などの理由で回答を拒否した人が4名いた。回答者の年齢層別内訳は次の通りである。男性10歳台2名、20歳台8名、30歳台4名、40歳台3名、50歳台3名、60歳台5名、70歳台2名、女性同5名、17名、4名、12名、9名、13名、5名(未回答者2名)。

3)質問紙(付録I

 回答にあたっては当該スポーツ施設利用に訪れた対象者に筆者らが協力を依頼し、その場で自記式にて回答してもらうようにした。質問紙における種類とは1回のプログラムでの動作の種類を指し、強さはプログラム全体を通しての運動強度を指している。さらに、当該スポーツ施設でおこなわれている水泳以外の水中運動プログラムの時間は30分もしくは45分(準備運動と整理運動を含む)である。ここでいう時間とはは、この30分もしくは45分を指した回答である。また、種類に関しては当該スポーツ施設において最も人気のあるプログラムの一つであり、本研究でおこなう水中竹馬プログラムに一番近いと思われるアクアビクスを参考にした。アクアビクスダンスでは動作の種類が18〜24種類程度であることから、種類は18〜24種類を指した回答である。その他、おこなったことのある水中運動プログラムに関して満足している点と不満足な点を自由記述により調査した。

 水中運動をおこなわない人に対しては、その理由を尋ねた。また理由で「他に運動をしているから」と答えた人にのみ、他にどのような運動をしているかを尋ねた。

 さらに全員に水中竹馬という言葉から、どのようなイメージをもつかを調査した。調査項目には、「楽しそう」「効果がありそう」「難しそう」「危なさそう」の4項目を設定した。ここでは数直線上に印をつけるという方法を用い、数直線上の左端を「まったくそう思わない」、右端を「とてもそう思う」、中央を「どちらでもない」とした。これらの項目は、筆者らが今まで運動を継続してきた経験や、スポーツ施設などでさまざまな人と接するなかで得た経験から、多くの人に支持されるプログラムを作成するために重要な要素であると仮定して設定した。さらに水中竹馬という言葉を聞いて実際にプログラムを試してみようと思うかを尋ねた。それまでの陸上での竹馬の経験の有無も調査した。

 竹馬経験の有無によって水中竹馬プログラムに参加したいかどうかについての回答はχ2乗検定を用いた。有意水準は5% とした。

III.結果

 「水泳以外の水中運動をやったことがありますか」の問いに対して、「はい」と答えた人は57名(61%)、「いいえ」と答えた人が36名(38%)、無回答が1名であった。

(a)水泳以外の水中運動をおこなったことのある対象者にのみ尋ねた項目

 水泳以外の水中運動をおこなったことがある対象者(57名)に「おこなった水泳以外の水中運動は何ですか」(複数回答可)と尋ねたところ、アクアビクスまたは水中ウォーキングを実践したことがあると回答した者はそれぞれ全体の68.4% を占めた。流水中の運動(機械でプールに水流をつくり、その中でウォーキングをおこなうプログラム)を実践したことのあるのは全体の43.9% であった。

 「実践したきっかけは何ですか」(複数回答可)の問いに対しては、「健康のため」と答えた人が最も多く71.9% を占めていた。次いで「楽しそうだから」21.1% であった。その他に「泳げないため」「減量」「リハビリテーション」という意見があった。

 水中運動プログラムの時間を「長い」と答えた人は7.2%、「短い」1.8%、「普通」90.9% であった。種類については「多い」12.9%、「少ない」7.4%、「普通」79.6% であった。強さについては「きつい」29.4%、「楽」13.7%、「やや楽」56.9% であった。

 「プログラムに関して満足な点、不満足な点」という自由記述の設問に対しては「疲れない程度に自分で運動量を調節できる点に満足」「動きが単純なものの繰り返しなので時間が長いと感じることがあった」「何の動きかを説明してくれると良い(一つ一つの動作が何を目的におこなわれているのかを説明してほしい)」という意見がそれぞれ1名よりあった。

(b)水中運動をおこなわない対象者にのみ尋ねた項目

 「なぜ水中運動をやったことがないのですか」(複数回答可)と尋ねたところ、「特に意味はない」が33.3%、「水泳の方が好きだから」「他に運動をしているから」がそれぞれ22.2% であった。「他に運動をしているから」と答えた人の多くは、エアロビクスダンス、自転車駆動、ウエイトトレーニングを実践していた。

(c)竹馬・水中竹馬について対象者全員に尋ねた項目

 「水中竹馬と聞いてどんなイメージを持ちますか」という設問では、数直線上に印をつける方式を用いた。数直線の左端を0「まったくそう思わない」、右端を100「とてもそう思う」とした(50が「どちらでもない」に相当)となる。0から印までの長さを測り、最長(右端)を100として換算した。その結果を図1に示した。データの分散が大きいため一意には解釈できないが、平均値のみに着目すると水中竹馬に対するイメージは「難しいうえに効果があるようにはあまり思えないが、その一方で、危なさそうとは思わない。楽しそう」というものであった。

 

 「水中竹馬というプログラムがあるとしたら試してみようと思いますか」の問いに対しては「はい」と答えた人が52.1%、「いいえ」と答えた人が47.8% であった。また「いいえ」と答えた人に「なぜやってみたくないのですか」(複数回答可)と尋ねたところ、「難しそう」と答えた人が最も多く36.4% であった。次いで「危なさそう」と答えた人が27.3% であった。その他に「水着になるのが面倒なので」「高年齢のため」などがあった。

 「陸上で竹馬に乗ったことがありますか」に対しては、「はい」と答えた人が65.9%、「いいえ」と答えた人が34.1% であった。また竹馬の経験別にみると、竹馬の経験があり、水中竹馬プログラムを試してみようと思うと答えたのは60名中39名(65.0%)で、プログラムを試してみようと思わない人が20名(33.3%)であった。逆に竹馬の経験がなく、プログラムを試してみようと思った人は31名中8名(25.8%)で、試してみようと思わない人が22名(71.0%)と、竹馬経験の有無によって水中竹馬プログラムの体験希望に差のあることが認められた(χ2 = 12.7、P < 0.001)。 

 

IV.考察

1)水中運動の実施状況

 回答した約6割の人が水泳以外の水中運動をおこなったことがあるということは、当該スポーツ施設内での水中運動への関心の高さを示している。その中でどのような種類をおこなっているかの問いに対してはアクアビクスと水中ウォーキングが多かった。施設スタッフの話によると、アクアビクスは歩くだけのウォーキングと違って、全身を使ったさまざまな動きをすることが支持されやすいのであろうとのことであった。また、水中ウォーキングはアクアビクスのような動きを含んでいないものの、棒状の浮き具(ヌードル)などの道具を使って歩いたり、上半身を動かしながら歩いたりするなどの工夫をしており、さらにアクアビクスよりも運動強度の低い全身運動になっているため、高齢者や膝などの関節に痛みを有している人にも取り組みやすいことから支持されているということであった。

2)実践したきっかけ

 実践したきっかけでは「健康のため」と答えた人が7割以上を占めていた。これは先述したように健康のために運動に対する関心が高く、中でも水中運動が注目されていることを表す結果となった。しかし継続につながると考える「楽しそうだから」はわずかに2割程度であった。この結果、対象者の多くは運動を楽しむものというよりも、健康のための手段として位置づけていると考えられる。

3)水中運動のプログラムの内容について

 時間の観点では「普通」という回答が最も多かった。「普通」ということは長くも短くもなく、広く一般に支持されると捉えることができる。多くのスポーツ施設でも水中運動のプログラムは30〜60分のものが多く、それ以上に長かったり、短かったりするものはあまり見られない。30分より短い場合は準備運動と整理運動の時間を確保すると主運動をおこなう時間がなくなってしまい、60分より長いと疲れや飽きなどがでてくると考えられる。そこで、プログラムを作成する際には、準備運動と整理運動を含め30〜60分程度のものが最も支持されると考えられる。

 種類の観点でも同じように「普通」という回答が最も多く、8割近くを占めていた。参加者は1回のプログラム中の動作の種類に対して、多くも少なくも感じていないと解釈できる。「普通」ということは、広く一般に支持されやすいと考えられるので、水中竹馬プログラムも同様に18〜24種類程度の動作を含めて作成すれば支持されやすいということになる。自由記述の回答にもあったように、1回のプログラムに含まれる動作の種類が少ないと繰り返しの多いものになってしまい参加者を退屈させることがある。そこで、プログラムを作成する際に同じ動きの繰り返しが多くなってしまわないように、動作の種類を増やすなど、組み合わせを工夫したプログラムを作成する必要がある。しかし一方で、種類が多すぎると一つ一つの動作を理解できないうちに次の動作に移ってしまい、参加者の混乱を招くことも考慮する必要があろう。

 強さの観点では5割以上が「やや楽」という意見であり、きつすぎず、楽すぎないプログラムが支持されやすいという結果になった。長期の運動継続につなげるためには健康状態や体力レベルに配慮し、その向上の程度を実感できるように工夫することが非常に有効である5)とされており、運動強度は強すぎても弱すぎても運動継続につながりにくいと考えられる。このことから、参加者に合った運動強度を与えられるプログラム作成が必要になる。運動強度は運動や動作の種類、インストラクターによって異なり、また参加者の体力水準によっても異なるため、今回の調査の回答からはどの程度の運動強度が最も適切であるかを明確にできなかった。しかし「楽すぎず、きつすぎない」程度が支持されやすいということが示唆されたため、運動強度の低い動作(素材)から運動強度の高い動作まで幅広く考案することが重要であると考えられる。

4)水泳以外の水中運動をおこなわない理由

 おこなわない理由として「特に意味はない」が最も多い回答であった。これは水中運動のプログラム名称や内容に参加者をひきつける要素がないと捉えることができる。「水泳のほうが好きだから」「他に運動をしているから」などという意見も同様に、水中運動に水泳や他の運動以上の魅力を感じないと捉えることができる。さらに、当該スポーツ施設のスタッフの話から、エアロビクスやウエイトトレーニングをおこなっていて、さらに水中運動をおこなおうとする人は少なく、また逆に水中運動をおこなっていて、さらにエアロビクスやウエイトトレーニングもおこなおうとする人は少ないということから、一つの運動をしている場合はその運動だけで満足してしまう可能性も考えられる。また、他の理由として、「水着になるのが面倒」というものがあった。このような意見や水着になることに対して抵抗を感じるという意見も、水中竹馬プログラムを含め、水中運動全般がおこなわれない理由に相当すると考えられる。そこで、他の運動プログラムをおこなっていても、さらに水中竹馬プログラムをおこないたいと思わせるような魅力のあるプログラムを作成する必要があると考えられる。魅力のあるプログラムにする一つの方法として、先述したような水中竹馬でしか味わえない楽しさを伝えていくことが考えられる。

5)水中竹馬のイメージについて

 「水中竹馬という言葉のみでどのようなイメージを持ちますか」の設問では、数直線から求めたデータの分散が大きいため一意に解釈することは困難であるが、平均値で判断すると多くの対象者が水中竹馬を難しそうと感じている結果となった。これは水中竹馬という言葉を、聞きなれないために難しいというイメージを抱く場合と、単に竹馬に乗ることに対して難しいというイメージを抱く場合とが考えられる。また「楽しそう」「危なさそう」に関しては、平均値より判断すると「楽しいと思う」「危ないと思わない」に印がついていたことから、水中竹馬という言葉のみでも楽しさが高く、危険性が低いというイメージを与え、人をひきつけることができると考えられた。また、「実際に試してみようと思いますか」という問いに対しては、「はい」と答えた人数が「いいえ」と答えた人数を若干上回る結果となった。また、おこないたくないという理由には「難しそう」「危なさそう」の2つの回答が多かった。「危なさそう」に関しては、水中竹馬のイメージを数直線で調査したときには危険性が低いという結果であったのに対し、実際に実施するとなると危ないのでおこないたくない人もいるという結果となった。これは、水中竹馬をおこないたくない人にのみ着目した場合、理由が危険だからと答えた人では、数直線でも「危なさそう」側に印がついている場合が多いことが影響したと考えられる。これらのことから、言葉から受けるイメージは、おこなおうと思うかどうかにも影響を与えていると考えられるので、名称を変更するなどの工夫をし、いかにそのようなマイナスイメージを払拭できるようにしていくかが今後多くの人に実施してもらえるかどうかの鍵になると思われる。

6)竹馬経験の有無が水中竹馬のイメージに与える影響

 竹馬経験がある人の8割以上がプログラムを実際に試してみようと思うと答えた。これは水中で竹馬に乗ることは初めてであっても、陸上での経験により竹馬に乗るということをイメージしやすいためであると思われる。さらに、「陸上で竹馬に乗ることが楽しい」と考えている人は「水中で乗っても楽しいだろう」と推測する可能性があり、水中竹馬に対して興味をひかれやすいと考えられる。一方で、竹馬の経験がない人のなかでプログラムを試してみようと思わないと答えた人は約7割を占めていた。これは竹馬の経験がないことで、竹馬に乗ることは難しく危険であるというイメージをもっているためであると思われる。また、実際に水中竹馬がどのようなものかをイメージしづらいこともあまり受け入れられない理由であると考えられた。

研究課題2 素材・プログラムの作成と試行

I.方法

 研究課題1で得られたプログラム作成における重要点を参考に、一つ一つの動作(素材)を集めた素材集を作成することとした。素材の作成にあたっては、アクアビクスダンスなどの動きを参考にしながら、前後左右上下の6方向の動きを含むようにした。素材集は素材ごとの動きの説明と写真または図を付けた。さらに素材を難易度、動きの方向、動きの類似性などにより分類し、プログラム作成の参考になるようにした。

 その後、素材集を元にプログラムを作成し、保健体育やスポーツ健康科学を専攻する大学生に提供した。これは、彼らが日頃から運動に慣れ親しんでいて、プログラムに対するさまざまな意見を聞くことができると考えたためである。参加者は男性16名(20.3±1.1歳)、女性25名(20.3±1.4歳)、計41名(20.4±1.3歳)であった。その後、研究課題1で得られたプログラム作成において重視すべき点が今回実施したプログラムに含まれていたか否かを再確認するとともに、プログラムの改善点を得るために質問紙による事後調査をおこなった。

 水中では浮力で体が浮いてしまい竹馬に乗りづらくなるので、竹馬にサンダルを付けたものを用いた(図2)。多くの人にとって水面が大腿部から横隔膜の間になるようにと考え、竹馬の足乗せ台の高さは地面から45 cmのところに設定した。これは水中歩行の先行研究より、横隔膜より上に水面があると浮力が重力を上回り、水中での歩行が困難になる3)とされており、さらに実際に水中竹馬を試した結果より、大腿部より下に水面がある場合、浮力がかかりにくく、浮力を生かした動きが難しくなると考えたためである。また、本研究では準備運動、整理運動等を含めて30分のプログラムを想定し、主運動である水中竹馬の実施時間を15分程度とした。

 質問紙(付録II)では水中竹馬プログラムをおこなった感想を自由記述式にて調査した。また、プログラム作成のために重要な要素であると考えられる、楽しさ、安全性、魅力度、疲労感の4項目を数直線上に印をつける方法を用いて調査した。さらに、もう一度水中竹馬プログラムを実施してみたいかどうか、またその理由などを自由記述式で調査した。

 

II.結果

 発案・試行・改善を繰り返し、最終的に延べ63種類の素材を考案することができた(付録III)。

 これらの素材をもとに作成した水中竹馬プログラム(図3)を対象者に実施し、その際の感想を自由記述にて調査した。肯定的な意見としては、「楽しかった(回答者数19名)」「陸上よりも乗りやすい(13名)」「転ぶ心配がないため、安心して動くことができる(6名)」というものが多く、「水中でおこなうことによって浮力が働き、陸上で竹馬に乗った状態ではできない動きができる点が楽しい(5名)」「水中で転ぶことがおもしろかった(1名)」という意見もあった。逆に否定的な意見としては、「水の抵抗があって思うように動けない(3名)」「大きな動作が難しい(1名)」という意見や、安全面に対する意見として「プール底のタイルで滑って危なく感じた(2名)」「竹馬の支柱が膝にあたって痛かった(1名)」「サンダルから足が抜けない時が怖かった(1名)」というものもあった。

 数直線上に印をつけ、0〜100のスコアで評価した結果、「楽しさ」は76.1±17.5、「安全性」は65.4±26.2、「魅力度」は65.1±18.8、「疲労感」は57.3±27.8であった(図4)。

 もう一度水中竹馬プログラムを実施してみたいかどうかの問いに対しては、プログラムを実施した90.0% の人が「はい」と答えた。その理由(複数回答可)として「楽しかったから(15名)」や「陸上で竹馬に乗ることは怖くてできないが、水中なら安心して乗れるから(5名)」「もっと他の動きをしてみたい(4名)」という意見が多かった。逆に「いいえ」と答えた人はわずか10.0% であった。その理由は「これからも続けたいと思えない」「水中での運動というのならば泳ぎたい」「水中で竹馬に乗れるようになったから」というものがそれぞれ1名ずつあった。

III.考察

 プログラム実施時間と動作の種類に関してはプログラムを作成する時に考慮したため、他の観点について考察する。

1)参加者が楽しいと感じられるプログラムになっていたか

 数直線で調査した楽しさの項目では数直線の右端(100)に近い箇所に印がついている結果となり、自由記述による感想においても「楽しかった」という意見が最も多かった。また、もう一度水中竹馬プログラムを実施してみたいかどうかの問いに対して「はい」と答えた人の理由にも「楽しかったから」という意見が多くみられ、参加者の多くが水中竹馬プログラムを楽しいと感じていたことが伺える。

 また、水中で転ぶことがおもしろかったという意見もあった。これはカイヨワの「遊びと人間」に記されている遊びの分類の一つであるイリンクス(渦巻)に相当すると思われる。イリンクスとは眩暈の追求にもとづく遊びであり、空中ぶらんこ、空間へ身を投げ出すこと、あるいは墜落、急速な回転、滑走、スピード、直線運動の加速、あるいはこれと旋回運動との組み合わせなどが含まれる4)とされている。陸上では転ぶ、倒れこむことは傷害につながる危険性があるために自分から倒れ込むことに抵抗があるが、水中では傷害につながる危険性が低いので積極的に倒れ込むこともできる。

2)継続しておこないたいと思えるような要素がプログラムにあったか

 もう一度水中竹馬プログラムを実施してみたいかどうかの問いに対しては約9割の人が「はい」と答え、水中竹馬が参加者に継続してもらえるようなプログラムになる可能性を示唆するものとなった。理由としては「楽しかったから」という意見が最も多く、先述したように楽しさは運動継続につながるということがここからも読み取れる。さらに、「もっと他の動きをしてみたい」「いろいろな動きをしてみたい」という意見もあり、次回への意欲的な姿勢として捉えることができる。しかしこの意見は逆に考えると今回実施したプログラム中の動作の種類が少なかったと捉えることもできる。今回実施したプログラムは、研究課題1での知見を参考に20〜24種類の素材を含むように作成した。研究課題1の対象者は中高齢者が多かった一方で、今回の実施での参加者は全員大学生であったことが影響しているとも考えられるが、若い年齢層にはさらに動作の種類の多い方が受け入れられやすいのかもしれない。

3)容易さ、安全面が考慮されたプログラムになっていたか

 感想のなかでの「陸上では乗れないが、水中でなら乗ることができ、嬉しかった」「陸上よりも乗りやすい」という意見からも伺えるように、陸上よりも簡単なため、多くの人に楽しんでもらうことができたと考える。また安全面に対しては、「転ぶ心配がないので安心して動くことができる」「転んでも痛くない」「転ぶ時もゆっくりで怖くない」という意見があった。もう一度実施してみたいかどうかに対する意見の中にも「陸上で竹馬に乗ることは怖くてできないが、水中なら安心して乗れるから」というものがあった。さらに数直線で尋ねた安全面の項目では「危険ではない」側にデータの平均値があり、水中竹馬は安全性の高い水中運動であることが示唆された。

 一方で、感想のなかに「サンダルから足が抜けない時が怖い」という意見を述べた人がいた。これは事前に予想しており、プログラムの始めにサンダルを脱ぎながら転ぶ練習を必ず含めていた。しかし、とっさの場合に足がサンダルから抜けなかったということが考えられる。さらに転ぶ練習の大切さが参加者に伝わってなかったことも考えられるため、サンダルから足を抜く練習を多く含めるとともに、着脱しやすくサンダルを工夫する必要があると思われる。さらに、プログラムの安全面とは別に、竹馬自体の問題点も明らかとなった。プール底の材質により、竹馬が滑ってしまうということがあった。竹馬が滑ってしまうと動作をおこないにくくなるとともに、思わぬところで転倒してしまうなどの危険性が増すことが考えられる。これは竹馬の底に滑りにくい材質のものをつけるなどの工夫をし、滑らないようにしなければならない。同様に、竹馬の支柱の部分に膝があたってしまい痛いという意見もあったので、あたらないように注意を喚起し、乗り方についてアドバイスをしたり、あたっても痛くないように支柱の部分の材質を工夫したりする必要があると考える。

4)参加者に合った運動強度でおこなうことができたか

 運動強度については、数直線で調査した疲労感の結果から考える。疲労感の項目では若干「あまり疲れない」側に印がついている結果になった。しかし標準偏差をみると、27.8と回答のばらつきの大きいことがわかる。同じプログラムを実施していても竹馬の技能面や体力面で個人差があり、疲労度が人によって異なると考えられる。

5)魅力のあるプログラムになっていたか

 数直線を用いて魅力度を尋ねたところ、「とても魅力がある」側に印が付いていた。また、感想のなかに「水中で竹馬に乗るというのが新鮮で興味をひかれた」という意見もあったように、水中竹馬プログラムは人をひきつける要素を有したプログラムであると考えられる。さらに、楽しいと感じた参加者が多く、9割の参加者がもう一度おこないたいと考えていることから、魅力のあるプログラムであると捉えることができ、多くの人に実施してもらえる可能性が示唆された。ただし、本研究課題の対象者は運動習慣があり、比較的高い体力水準を有している大学生を対象にしたため、これらの結果にはバイアス(偏り)のあることが考えられる。このことから、今後は中高年齢者や障害を有している者に慎重に適用し、水中竹馬プログラムを改善させる必要があると思われる。

まとめ

 研究課題1の質問紙調査の結果から、プログラム作成において重要な点として次のことがあげられた。

 まず、プログラムの時間は30〜60分程度で、動作の種類は18〜24種類程度のプログラムを作成するとよい。また、動きの組み合わせや繰り返しの回数を工夫するなどして、運動強度を参加者に合わせて設定しなければならない。そして参加者が楽しいと感じ、運動を継続しようと思えるように運動強度の低い素材から運動強度の高い素材まで幅広く考案し、参加者を飽きさせないことが重要となる。また、今まで水中運動をあまりおこなったことがない人を含め、多くの人に実施してもらえるように、比較的容易で、安全面を考慮した、魅力のある素材・プログラム作成が必要になる。

 プログラムの内容以外では、水中竹馬という言葉から受けるマイナスイメージを払拭するためにプログラム名称を変更したり、危険性が低いということを伝えたりする必要がある。

 研究課題2では水中竹馬の素材を考案し、実際に水中運動をおこなっている人の声を参考にしたプログラムを作成して実施した。その結果、陸上で竹馬に乗れる人だけでなく、陸上で乗れない人でも楽しめることがわかった。安全で、陸上ではできないさまざまな動きができることで多くの人に楽しんでもらえる運動プログラムであることも分かった。さらに水中竹馬を一つの水中運動として充実させ、体系化したことでプログラムを作成する手引きともなる素材集を作ることができ、簡単に水中竹馬プログラムを作成できるようになった。素材の組み合わせ方によって、参加者にあった運動強度を設定することができ、継続しやすい運動になる可能性が示唆された。

 解決すべき点には安全面に関するものが多かった。水中竹馬の改善点として、滑りにくく膝が支柱にあたっても痛くないように改良したり、サンダルの着脱を容易に改良したりする必要性、さらに転ぶ練習の重要性をしっかりと参加者に伝えていく必要性があげられる。今後これらを改善していくことにより、さらに安全性の高いプログラムになるといえる。

 また、1回のプログラムの中に何種類の動作が含まれていればよいのかという点も課題として残った。今回実施したプログラムは研究課題1のまとめを参考に作成したが、動作数が少なかったと回答した参加者もおり、さらに動作の種類の多い方が支持されやすい可能性が出てきた。水中竹馬プログラムと他の水中運動プログラムとでは、支持されやすい動作の数が異なることも考えられる。また、本研究では水中竹馬プログラムを実施した対象者が大学生であったことから、参加者の年齢などによっても異なる可能性が考えられるので、今後水中竹馬プログラムを実施していくなかでどの程度の種類を実施することが参加者にとって一番良いのかという点を調査する必要があると思われる。

謝辞

 本論文は多くの方々のご指導と、ご協力のおかげで完成することができました。質問紙調査や素材集作成のために快く場所を貸してくださったアドラー千里の支配人をはじめスタッフの皆様、忙しいなか質問紙調査にご協力いただいたアドラー千里の会員の皆様に心から感謝いたします。

文献

1)小野寺昇(2000)水中運動と健康増進. 体育の科学50: 510-516

2)小野寺昇, 宮地元彦(2003)水中運動の臨床応用−フィットネス, 健康の維持・増進.臨床スポーツ医学20: 288-295

3)太田壽城ら(1996)運動の動機づけと継続化の要因について. 臨床スポーツ医学13: 1213-1220

4)ロジェ・カイヨワ(1990)遊びと人間,講談社, pp. 60-62

5)鈴木洋児(2003)水中運動の生理学的基礎. 臨床スポーツ医学20: 261-270

6)田中喜代次ら(2004)高齢者の運動実践者と運動非実践者における日常の生活意識と生活行動の相違に関する分析的研究. (財)健康・体力づくり事業財団, pp. 38-41&116

 

付録I. 研究課題1で用いた質問紙

問1 水泳以外の水中運動をやったことがありますか。 はい・いいえ

(はい→問2、いいえ→問4へ)

問2−1 問1で「はい」と答えた方のみお答えください。

 おこなった水泳以外の水中運動は何ですか。あてはまるものすべてに〇をつけてください。 
 1.アクアビクス 2.水中ウォーキング 3.流水中での運動 
 4.その他(              )

問2−2 やりはじめたきっかけは何ですか。あてはまるものすべてに〇をつけてください。
 1.健康のため 2.コーチや友人に勧められた 3.楽しそうだから
 4.その他(                         )

問3 水泳以外の水中運動のプログラムについてお聞きします。今の内容で満足していますか。あてはまるものに〇をつけてください。

     時間(長い・ふつう・短い)

     種類(多い・ふつう・少ない)

     強さ(きつい・やや楽・楽)

     その他、満足な点、不満足な点がありましたらお書きください。

     (                           )

問4―1 問1で「いいえ」と答えた方のみお答えください。「はい」の方は問5に進んでください。

 なぜ水中運動をやったことがないのですか。あてはまるものすべてに〇をつけてください。 
 1.運動量が少ない 2.楽しそうではない 3.他に運動をしているから
 4.水に入るのがいやだから 5.水泳のほうが好きだから
 6.特に意味はない 7.やる機会がないから
 8.その他(                )

問4−2 問4−3で「3」とお答えした方にのみお答えください。他にどのような運動をしていますか。

     (                           )

問5 水中竹馬と聞いてどんなイメージを持ちますか。以下の項目について数直線上にご自身がそう思われる場所に縦線をいれてください。

問6 水中竹馬というプログラムがあるとしたら試してみようとおもいますか。

                                 はい・いいえ                        

問7−1 陸上で竹馬に乗ったことがありますか。 はい・いいえ

問7−2 それは何歳のときですか。    歳

問7−3 どのぐらい歩けましたか。    m・   歩

問8 問6で「いいえ」と答えた方にのみお聞きします。

   なぜやってみたくないのですか。あてはまるものすべてに〇をつけてください。

 1.おもしろくなさそう 2.効果がなさそう 3.難しそう 4.危なさそう
 5.単にやったことがないから 6.その他(              )

 

最後にあなたの年齢と性別を教えてください。   歳、 男・女                         

 

付録II. 研究課題2で用いた質問紙

問1 水中竹馬をおこなってみてどうでしたか。ご自由にお書きください。

 (                                     )

 

問2 以下の項目について数直線上の当てはまる箇所に縦線をいれてください。

 

問3 今日竹馬に乗ったり歩いたりしてどれぐらいの疲労感がありましたか。数直線上に表してください。

 

問4 今日は竹馬にどれだけ乗れましたか。       歩・  m

 

問5 この水中竹馬にはどんな効果があると思いますか。

(                                )

 

問6 また水中竹馬を実施したいと思いますか。 はい・いいえ

 

問7 問6で「はい」と答えた方にお聞きします。なぜそう思いましたか。

(                                   )

 

問8 問6で「いいえ」と答えた方にお聞きします。なぜ実施したくないのですか。

(                                   )

 

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