JPクッションを用いた体操が下肢の筋電図活動と運動感に及ぼす効果 

Effects of Exercises with JP-cushion on Lower Extremity Electromyographic Activity and Exercise-induced Feeling States

 

板谷 厚(筑波大学 人間総合科学研究科)

Atsushi Itaya (Department of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba)

I.緒言
II.方法
III.結果
IV.考察
V.結論
VI.文献
Abstract

 JP-cushion is an exercise material that provides unstable, compliant support surface as well as foam. Additionally, JP-cushion has distinctive moderate elasticity. This study was conducted to test two following hypotheses. First, use of JP-cushion induces over-load into neuromuscular system during exercises as well as use of foam surface. Second hypothesis is that use of JP-cushion adds the feeling of fun and reduces subjective load during exercises.

Eighteen healthy male subjects participated in this study. Root-mean-square electromyography (EMG) amplitudes from the tibialis anterior, gastrocnemius, rectus femoris, vastus lateralis, biceps femoris and gluteal maximus muscles were measured during bi-pedal stance, uni-pedal stance, single-leg-squat, stepping-in-place and hopping, all performed on firm surface, foam surface and JP-cushion. Questioners were conducted to analyze exercise-induced feeling states of each task except for bi-pedal and uni-pedal stance. EMG activities and exercise-induced feeling states were compared between three surfaces.

Broadly, results of EMG analysis showed that use of JP-cushion increased EMG activities during exercises as well as use of foam surface. Therefore, the first hypothesis was supported. The analysis of exercise-induced feeling states revealed that use of JP-cushion could make additional fun, in particular during hopping. The differences between subjective load during exercises with and without JP-cushion were not significant. Despite the increments of neuromuscular load during exercises with JP-cushion, subjects performed exercises with the subjective load equal to on firm surface. Hence, the second hypothesis was also supported. These results suggest that JP-cushion is an effective material of increasing neuromuscular load and fun of exercises.

キーワード:JPクッション,不安定な支持表面,筋電図,下肢

Key words: JP-cushion, Unstable surface, Electromyography, Lower extremity

 

I.緒言

 体操においては,手具・器具・用具を効果的に用いて,動きの変化や新しい動きを誘発する多様な場づくりが重要である11)12).また,手具・器具・用具を用いることで,動きをよくしたり,楽しみを加えたりすることで,楽しみながら体つくり,動きつくりを達成することができる18)

トレーニング体操や転倒予防体操においても用具を使用することは頻繁に行われる.中でも,Gボールやバランスボード,発泡性素材のマットなど,不安定な足場や環境を提供する用具は,リハビリテーション4)23),コンディショニングやトレーニング1)10)25)28),スポーツ障害の予防4)25)29)33),高齢者の転倒予防2)14)17),幼児の身体能力向上13)32)や,幼児の運動能力テスト16)21)など,様々な場面で使用されている.

 これらの用具は神経筋系の機能維持・向上を主な目的として使用される.関節の機能的な安定性を向上させるために,神経筋系への負荷を高め,神経筋系制御の再生や動的安定性を促進することが目指される3)4).円滑な動作獲得のために,力の損失や過剰な同時収縮の減少を目指して行われることもある1)

用具の使用については,目的がトレーニング効果の向上にあることから,どのようにトレーニング効果が変化したか,という観点からの言及に偏りがちになる.しかし,それに加えて,このような用具を用いることで,課題の難易度を調節し,動きに変化をもたらし,面白みを付加して運動への意欲や,継続性を高めることができるともいわれている11)12)14)18)24)27)

 JPクッション(サンハーズ社;写真1)は,酢酸ビニル樹脂(polyvinyl acetate)を射出し,網状構造をもつ直方体に成型したもので,「弾性」,「動揺性」,「柔軟性」,を特徴とする運動補助具である14)19)


写真1 JPクッション

 不安定な支持面を作り出し,バランスや運動制御に必要な体性感覚情報を変化させ,通常の床で行うよりも課題の難易度を上げる22)31),発泡性素材のマットと同様の効果が得られると考えられる.加えて,その上に乗ると,独特の弾性を感じることができる.

 本研究は,JPクッションを用いることが,日常動作や,リハビリテーション,トレーニング体操や,転倒予防体操などで用いられる動作遂行時の,神経筋系および被験者の主観的な負担や楽しさにおよぼす影響を明らかにすることを目的とした.そのために,JPクッションを用いた場合と,通常の床および動揺性を提供するために用いられている発泡性素材のマットを用いた場合とで,動作課題遂行中の筋電図と運動感を比較した.

 筆者は,次の二つの仮説を検証するために実験を行った.第一に,JPクッションの使用は,発泡性素材のマットと同様の効果,すなわち下肢の神経筋系への過負荷をもたらす.第二に,JPクッションの使用は,動作課題遂行に「楽しさ」を加えて,被験者に主観的な負担を軽減する.

II.方法

1.被験者

 健常成人男性18名を対象とした.平均年齢±標準偏差は,年齢:27.1±8.9才,身長:171.4±3.7cm,体重:66.2±9.8kgであった.全ての被験者には,筋骨格系および神経系に自覚された疾病や傷害はなかった.また,全員が右利きであり,利き足も右であった.なお,事前に,被験者に実験内容について口頭による説明を行い,実験参加への了承を得た.

2.実験手順

 被験者は,通常の床,JPクッション(50×50×11cm),運動用マットとして市販されている発泡性のPVC(polyvinyl chloride;塩化ビニル樹脂)を素材とするバランスパッド(AIREX Balance-pad,Alcan Airex AD社,50×41×6cm)のそれぞれの上で,五種類の動作課題;両足立ち(Bi-pedal Stance: BS),片足立ち(Uni-pedal Stance: US),片足スクワット(Single-leg Squat: SS),その場歩き(Stepping in Place: SP),両足跳び(Hopping: H)を行った.これらの動作課題は,日常生活,リハビリテーションの臨床やバランストレーニングなどの場面で行われる動作である28).全ての被験者は,両足立ち,片足立ち,片足スクワット,その場歩き,両足跳びの順に動作課題を行った.片足スクワットについては,試技に先立ち,3回程度の練習を行った.動作課題は,前述した三種類の床面でそれぞれ一度ずつ行われた.被験者への床面の提示は,被験者間および課題間でランダマイズした.被験者には各試技が完了する毎に約1分間の休憩が与えられた.被験者は,その間に,直前に行った課題の運動感についての質問紙に回答した.

 動作課題の行い方は次の通りであった.上肢の肢位は,その場歩きを除く全ての動作課題において,手を腰に当てた姿勢で行った.その場歩きについては,肘を約90度屈曲させ,腕を振ることを許された.両足立ちは,正面を向いて,被験者の好ましい足幅(およそ腰幅)にて行った.正面を向き,片足立ちは右足を支持脚とし,左膝をおよそ90度屈曲した肢位で行った.両足立ちおよび片足立ちは10秒間行った.片足スクワットは,右足を支持脚としたハーフスクワット(膝角約90度)を,自分のペースで5回行った.その場歩きは,自分のペースで30歩を行った.両足跳び連続は,自分のペースで20回行った.

3.筋電図

 筋電図を導出する筋は,右脚部の前頸骨筋(tibialis anterior: TA),腓腹筋(gastrocnemius: GA),大腿直筋(rectus femoris: RF),外側広筋(vastus lateralis: VL),大腿二頭筋(biceps femoris: BF),大殿筋(gluteal maximus: GM)とした.

 筋電位計測システムは,電極にプレアンプ内蔵のアクティブ表面電極(DE-21,Delsys社),増幅器にBagnoli-4(Delsys社)を1000倍・ハイカット:OFFにて用い,増幅器から出力されるアナログ信号をデータレコーダ(PC208Ax,SONY社)に入力した.また,動作との同期をとるために,加速度計を右足首に取り付け,加速度の変化信号をデータレコーダに入力した.

 データレコーダに記録された筋電位信号を,A/D変換(サンプリング周波数:1000Hz,解像度:16bit)し,PCに入力した.分析には波形解析ソフト(SuperScope,National Instruments社)を用いた.

 各運動課題において,分析に供した筋電位信号は次の通りである.なお,分析の開始と終末は加速度信号を視認して決定した.

両足立ちおよび片足立ちについては,姿勢を保った10秒間のうち,後半の,安定して立っていた5秒間の筋電位信号を分析した.片足スクワットは,安定して実施できた3回を分析対象とした.その場歩きでは30歩(右側15歩)のうち,後半の安定した歩行10歩(右側5歩)を分析した.両足跳びにおける分析対象の筋電位信号は,20跳躍のうち,後半の安定した跳躍5回分とした.

 筋電位信号は全波整流した後,各動作課題における筋活動量として,RMS(Root Mean Square)を計算した.

4.内省調査

 「体への負担」,「楽しさ」,「不安定さ」について質問紙による調査を行った.

 体への負担に関しては,各条件について負担を感じた順に,順位を回答させる質問を行った.運動中の楽しさに関しては,各条件について運動中楽しい気分になったものの順に順位を回答させる質問を行った.不安定さに関する項目は,JPクッション,バランスパッドについて運動中,不安定さをより感じた方を選択し回答させた.順位を解答させる質問については,1位を3点,2位を2点,3位を1点として得点化した.

5.統計処理

 同一動作課題における床面間の筋電図および内省調査の結果を比較するために,Friedmanによるノンパラメトリック分散分析を行った.その結果,F値が有意であった場合にはNemenyiの方法による多重比較検定を行った.JPクッションとバランスパッドのどちらか一方を選択する「不安定さ」に関する質問については,適合度の検定(一様性の検定)を行った.有意水準はすべてp<0.05とした.

III.結果

 筋電図の測定機器の不具合によって,同一動作課題について3つの床面条件でのデータがそろわなかった被験者は,その後の分析から除外した.それらの被験者の内省調査結果も分析から除外した.その結果,両足立ち,片足スクワット,その場歩き,両足跳び連続について,分析対象となる被験者数は各17名となった.被験者全員の年齢,身長,体重および分析からデータが除外された分(表中の×印)について表1に示した.

表1 被験者の特性と分析から除外された被験者(×印)

1.筋電図の結果

 筋電図の分析結果を表2に示す.また,図15は,各条件における各運動課題の筋活動量を,床行った場合を1として相対値化したものの,被験者間での平均値を示したものである.

表2 筋活動量(RMS)の被験者間平均値
firm:床, foam:バランスパッド,JP:JPクッション.単位はmV.

 両足立ちについては,分散分析の結果,GA(F=11.70,p<0.001),RF(F=9.98,p<0.001)となり,床面間で有意差が認められた.多重比較検定の結果,GAではJPクッション,バランスパッドの場合がそれぞれ床で行う場合よりも有意に高く,RFでは,バランスパッドの場合が床の場合よりも有意に高かった.

図1 両足立ちでの下肢筋群の筋活動量(RMS)
                            ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)    

 片足立ちでは,分散分析の結果,全ての筋において有意差が認められた(TA:F=26.03,p<0.001,GA:F=22.01,p<0.001,RF:F=11.84,p<0.001,VL:F=15.60,p<0.001,BF:F=14.08,p<0.001,GM:F=5.12,p<0.01).多重比較検定の結果は,TA,VL,GMにおいて,床の場合よりも他の二条件の場合が高かった.GAでは,バランスパッドの場合が他の二条件の場合よりも高く,BFでは,バランスパッドの場合が,床の場合よりも高くなった.

図2 片足立ちでの下肢筋群の筋活動量(RMS)
                            ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)  

 片足スクワットでは,分散分析の結果,GA,VL,BFにおいて有意差が認められた(GA:F= 13.64,p<0.001,VL:F=9.60,p<0.001,BF:F=7.35,p=0.0024).多重比較検定の結果は,GA,BFにおいて,バランスパッドの場合で床の場合よりも高かった.VLではバランスパッドの場合が床の場合よりも有意に低い結果となった.

図3 片足スクワットでの下肢筋群の筋活動量(RMS)
                            ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)  

 その場歩きでは,分散分析の結果,GA,RF,VL,GMにおいて有意差が認められた(GA:F=21.01,p<0.001,RF:F=15.42,p<0.001,VL:F=18.83,p<0.001,GM:F=7.35,p=0.0024).多重比較検定の結果は,GAでは,床の場合よりも他の二条件の場合が低くかった.RFでは,JPクッションの場合が,床およびよバランスパッドの場合よりも高くなった.VL,GMでは,JPクッションの場合が床の場合よりも高くなった.

図4 その場歩きでの下肢筋群の筋活動量(RMS)
                          ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)  
                            ★:JPクッションとバランスパッド間に有意差(P<0.05) 

 両足跳び連続については,分散分析の結果,TAにおいて有意差が認められた(F=8.76,p<0.001).多重比較検定の結果,JPクッションの場合が他の二条件で行う場合よりも有意に高かった.

図5両足跳びでの下肢筋群の筋活動量(RMS)  
                        ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)      
                       ★:JPクッションとバランスパッド間に有意差(P<0.05) 

2.内省調査の結果

 表3に内省調査の結果を示す.また,各条件における各運動課題の内省調査結果を被験者間で平均値化したものを図6に示す.

表3 内省調査の被験者間得点平均値
firm:床, foam:バランスパッド,JP:JPクッション.
Software: Microsoft Office

 

 片足スクワットでは,分散分析の結果,「負担」と「楽しさ」の項目で有意差が認められた(負担:F=5.87,p=0.0067,楽しさ:F=8.35,p=0.0012).多重比較検定の結果は,バランスパッドの場合が他の2条件よりも負担が大きく,JPクッションとバランスパッドの場合が床の場合と比較してより楽しいという結果となった.「不安定さ」についてはJPクッションとバランスパッド間に有意差は認められなかった.

 その場歩きでは,分散分析の結果,「楽しさ」の項目で有意差が認められた(F=31.69,p<0.001).多重比較検定の結果は,JPクッションとバランスパッドの場合が床の場合と比較してより楽しいという結果となった.「負担」および「不安定さ」については,有意差は認められなかった.

 両足跳び連続については,分散分析の結果,「楽しさ」の項目で有意差が認められた(F=18.83,p<0.001).多重比較検定の結果は,JPクッションの場合が床の場合と比較してより楽しいという結果となった.「負担」および「不安定さ」については,有意差は認められなかった.

図6 内省調査の結果(上:負担,下:楽しさ) 
                        ※:床の場合との比較において有意差(P<0.05)      

IV.考察

本研究は,次の二つの仮説を検証するために行った.第一に,JPクッションの使用は,発泡性素材のマットと同様の効果,すなわち下肢の神経筋系への過負荷を動作課題遂行中にもたらす.第二に,JPクッションの使用は,動作課題遂行に「楽しさ」を加えて,被験者に主観的な負担を軽減する.

実験の結果,筋電図の分析から,例外はあったものの,JPクッションとバランスパッドは,総じて床上で行う場合よりも神経筋系に負荷を与えており,両者間には一部(US時のGAとSS時のTA)を除いて差はなかった.このため,第一の仮説は支持された.次に,内省調査の結果から,JPクッションの使用は,バランスパッドを用いた場合と同様に,床で行う場合よりも課題遂行に「楽しさ」を加えることができる.主観的な負担は,JPクッションは床と変わらないが,神経筋系へ負荷が増していることを考慮すると,同程度の負担で高負荷の課題を遂行していることになる.よって,第二の仮説も支持された.

1.神経筋系への効果

 バランスパッドのような発泡性素材は,不安定な支持面を作り出し,バランスや運動制御に必要な体性感覚情報を変化させ,通常の床で行うよりも課題の難易度を上げる22)31).本研究の結果は,両足立ち課題におけるバランスパッドの使用は下肢筋群への負荷の増加を示唆しており,先行研究において述べられている発泡性素材による柔軟な支持表面の効果と一致した.JPクッションの使用でもバランスパッドの場合と同様の傾向を示し,JPクッションもバランスパッドのように,下肢筋群の神経筋系への負荷を高めることが示唆された.

 JPクッションの使用は,バランスパッドと同様に,片足立ちにおいて床の場合と比較して筋活動を高める結果となった.発泡性素材のマットやバランスボード,トランポリンなどの不安定な支持面上での片足立ちは,下肢のリハビリテーションにおいて,体性感覚を変化させ,骨格筋や感覚運動系に機能的な要求を増加させると主張されている3).本研究の結果は,通常の床面と比較して,足関節筋,膝関節筋,股関節筋の筋電図活動が増加し,JPクッションはこのような使用目的に適していることを示唆した.また,GMにも活動の増加が認められ,不安定な支持面上での片足立ちは,安定した支持面上での場合と比較してより近位の関節が重要な役割を果たすという,Riemann et al.(2003)30)の結果とも一致した.

 片足スクワットはアスレチックトレーニングの現場で広く行われている.ほとんどのスポーツスキルは,体幹固定と力発揮を組み合わせることを神経筋系に要求している.不安定な支持面上での,あるいは片足での動作の実施は,スポーツスキルと同様の要求を神経筋系に課す1)10).不安定な支持面や片足での動作は,神経筋系への過負荷となって,筋電図活動を増加させると考えられる.

 しかしながら,本研究の結果は,JPクッションを使用した場合と,通常の床上での実施での筋活動量との間に有意差を見出すことはできなかった.今回の実験では,練習を数回行ったものの,被験者が片足スクワットに十分習熟していたとはいえなかった.このために安定した床上で行っても,なお余剰筋活動が生じた可能性があり,このことが支持面の条件による差を見えにくくしたのかもしれない.

 その場歩きでは,JPクッションを使用した場合の筋電図活動は,RF,VL,GMで床上の場合と比べて有意に高く,さらにRFではバランスパッドの場合よりも有意に高かった.

 Ferris et al.(1999)8)は,ランナーが,柔らかいゴムでできた走路に,予期せず踏み込んだ場合でも,ランナーの身体重心の高さは,通常走路の場合と同様に保たれたことを示し,これについて,ランナーは脚のバネの固さ(スティフネス)を瞬時に高めて対応したとしている.またDietz et al.(1990)5)は,通常歩行の立脚期初期における大腿四頭筋のH反射の振幅は,同程度の随意収縮時に比較して大きいことを報告している.この現象についてDietz et al.は,立脚期初期の不測の事態(落とし穴や障害物)に対応するために伸張反射の利得を高めている,と説明している.

 これらの見解に従って考察するならば,本研究の場合は,立脚期に思ったよりも深く沈み込むJPクッションの特性のために,踵接地時に,身体重心を高く保とうとして膝関節(や股関節)を伸展させるように筋が活動したのかもしれない.

 GAでは,JPクッションやバランスパッドの場合が,通常の床上の場合よりも有意に活動が低下した.GAは,歩行の際に,体重を支え20),推進力を発揮し15)20)26),遊脚期を開始するために活動する15)26).本研究の場合では,JPクッションの弾性が,立脚期から遊脚期へ移行する際の蹴りを助けために,筋活動が減少したのかもしれない.

 両足跳び連続では,JPクッションで行った場合において,床およびバランスパッドの場合よりもTAの活動が有意に高かった.固さの異なる支持表面上で両足跳び連続を行う際に,ヒトは,脚のスティフネスを調節しており,柔軟な支持表面ほど脚のスティフネスが高まることが報告されている6)7).また,脚のスティフネスは足関節のスティフネスに大きく依存している9).JPクッションは,本研究で用いられた支持表面の中では最も柔軟だった.本研究の結果は,JPクッションの柔軟さへの適応として,足関節のスティフネスが高まったことを示唆した.すなわち,JPクッションを用いた場合には,着地の衝撃を和らげ,跳ぶ動作の主動筋となるGAと,その拮抗筋であるTAの同時収縮が,ほかの場合に比較して多く生じたと考えられた.

2.運動感への効果

 片足スクワットでバランスパッドを使用した場合が床の場合よりも負担が大きかったことを除き,主観的な負担は各動作課題で条件間に差は認められなかった.楽しさについては,JPクッションを使用した場合とバランスパッドを使用した場合がそれぞれ床で行う場合よりも高くなった.

 片足スクワット実施時のバランスパッドでの負担が高かったのは,比較的難しい片足スクワット動作を,神経筋系に負荷の高いバランスパッド上で行ったからだと考えられた.筋電図の結果はバランスパッド使用時にGAの活動が床よりも有意に高くなったことはこのことと一貫している.一方,筋電図の結果から,JPクッション使用時は,その場歩きおよび両足跳び連続では,床の場合よりも神経筋系への負荷が大きいと考えられるが,それにもかかわらず,JPクッションにおいては主観的な負担は,床上で行う場合との間に有意差は認められなかった.

 不安定な用具の使用が,運動課題に対して難しさや面白さを付加して被験者の課題への動機付けを強めることは,いくつかの先行研究で言及されている11)12)14)18)24)27).本研究においてもこれらの不安定な支持面を提供する用具の使用が「楽しい」という感じを被験者にもたらすことは確認された.興味深いことに,被験者は両足跳び連続において,JPクッションで行う場合が床上で行う場合より「楽しい」と感じていることでである.JPクッションの(バランスパッドにはない)独特な弾性が,被験者の運動感に効果を与えたのかもしれない.

V.結論

トレーニング体操や転倒予防体操,リハビリテーションなどの際にJPクッションを使用することで,神経筋系の負荷を高めることができる.このことは,各種体操のトレーニング効果を高めることを可能とする.また,JPクッションの使用は,単にトレーニング効果を高めるだけでなく,運動に楽しさを付加する.これによって運動への動機付けや継続性を高める可能性がある.

今後は,体操指導の現場やリハビリテーションの臨床での使用が,どのような効果をもたらすかを検証していく必要がある.

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