「体つくり運動」に関連する授業内容についての意識調査
−体育系大学生を対象として−

Consciousness Survey on Educational Contents Concerning 'Fitness'
--- Targeting College Students Majoring in Physical Education ---

青木和浩(順天堂大学 スポーツ健康科学部)
  kazuhiro@sakura.juntendo.ac.jp

河村剛光(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士後期課程) 

Kazuhiro Aoki (School of Health and Sports Science, Juntendo University)
Yoshimitsu Kohmura (Doctoral Program, Graduate School of Health and Sports Science, Juntendo University)
 

 

[Summary]

This research aims at making clear the present status of exercise contents concerning 'Fitness', in order to investigate on educational tools for 'Fitness', based on consciousness survey targeting collage students majoring in physical education (189 males and 97 females). In the questionnaire, the following items were required to answer in description: consciousness and the degree of experiences of 'Fitness' in high school, scope and contents of exercises which were practiced in the course of physical education in high school as 'the exercise for enhancing physical fitness' to strengthen 'muscular strength', 'speed', 'endurance', 'flexibility' and 'coordination'.
The following results were obtained.
1. The degree of experiences in 'Fitness' was high, but consciousness was low.
2. Concerning the exercises to enhance 'muscular strength' and 'endurance', though the degree of experiences was high, the contents of the exercises were simplex.
3. Concerning the exercises to enhance 'coordination' and 'exercise for releasing the body and mind', the contents of the exercises were wide-ranging, and the results showed a further investigation would be necessary in the future.
4. In each item, the degree of experiences was higher for female students (p<0.05).

Keywords: Fitness, exercise for enhancing physical fitness, exercise for releasing the body and mind


〔緒 言〕

 平成15年度から施行された高等学校における学習指導要領では、「体操」領域は、心と体を一体としてとらえる指導が重要となり「体つくり運動」領域に名称が変更された。さらに、その内容には、従来の「体力を高める運動」に加えて、「体ほぐしの運動」が新しく設けられた。高等学校における内容の取り扱いについて、「体力を高める運動」では、力強さとスピードのある動きに重点を置いて指導することに留意するとしている。また、「体ほぐしの運動」では、各運動領域と関連を図って指導することや運動の苦手な者に対しての配慮が必要となった5)
 しかし、先行研究においては、「体操」領域の教育現場の実態として、本来必修であるべき領域であるが小・中・高等学校へ進むにしたがって「体操」領域の項目に対する経験割合が低下する傾向を示している10),13)と報告している。特に、高等学校における「体操」領域の経験割合(授業実施率)は極めて低率であり1),4)「体つくり運動」への名称変更に伴い授業での完全実施が求められている。新しい指導要領が施行されてから5年が経過し、「体つくり運動」の経験割合は増加していると考えられるが、その実態は明らかではない。
 一方、「体つくり運動」の「体力を高める運動」では、「筋力」「スピード」「持久力」「柔軟性」「調整力」の各要素を高める運動を実施することが望ましいと考えられている。そのため、実際に生徒が各要素を高める運動をどのような運動領域で経験したと意識しているか調査することは、体育授業だけでなく、「体つくり運動」の教材を検討する上での基礎的資料となると考えられる。また、「体ほぐしの運動」に関する問題点としては、体力を高める運動に比べて、固有の運動形式が示されておらず2)、現場の教員にとっても教材研究が最も重要であるとされている11)
 そこで、本研究では、「体つくり運動」に関わる運動教材の検討を進めるため、「体力を高める運動」「体ほぐしの運動」について体育の授業に対する意識の高い体育系大学生を対象としたアンケート調査から、「体つくり運動」に関わる運動内容の現状を明らかにし、今後の「体つくり運動」の教材づくりへの基礎資料を得ることを目的とした。

〔方 法〕

 質問紙法による集団記入の形式で平成19年5月〜10月にアンケート調査を実施した。対象者は「体つくり運動」を受講している体育系大学の男子学生190名、女子学生97名とした。そのうち、有効回答数は、男子学生189名(99.5%)、女子学生97名(100%)であった。
 アンケート調査では、高校時における「体つくり運動」の認識・経験割合、そして、高校時の体育授業において「体力を高める運動」の関連項目として実施した、「筋力」「スピード」「持久力」「柔軟性」「調整力」を高める運動の運動領域及び具体的な運動内容、そして「体ほぐしの運動」の運動領域及び具体的な運動内容について記述させた。各種運動の認識・経験の有無及び学生が経験した運動の領域を男女別に集計して比較することとした。
 統計処理にあたっては、各調査項目を単純集計し、その後、各群における運動内容についてクロス集計を行った。さらに、性と運動領域・運動内容についてカイ二乗検定を実施し、統計的有意水準は5%未満とした。

〔結果及び考察〕

1.「体つくり運動」の経験割合について

 表1は、体つくり運動における認識・経験割合を示したものである。調査では、「体つくり運動」の授業を行っていたと認識して授業を経験した者の割合は、男子6.9%、女子11.3%と低かった。しかし、経験していないと回答した被験者の分析を進めると体つくり運動に関する運動が行われていた領域を「フィットネス」「トレーニング」「筋力トレーニング」「体操」「体力づくり」などの本来の運動領域に属さない回答をする者が多くみられた。そこで、本研究では、これらの回答については「体つくり運動」領域で実施されていたものの、生徒が認識していなかったものと考えることとした。上記のような回答を含めると、男子では68.3%、女子では60.8%の経験割合であった。先行研究1),4)の「体操」では20〜30%の経験割合であったことと比較すると、本研究における「体つくり運動」の経験割合は高い結果であった。この点は、「体操」から「体つくり運動」への名称変更に伴う効果であったと言える。しかし、今回の調査では、「体つくり運動」の認識はしていないものの、「体つくり運動」が実施されていた可能性が高かった者が多く存在した点も特徴的であった。このことは、高校の体育の授業において、教員が「体つくり運動」の授業を行っていると思っていても、生徒には「体つくり運動」という名称の認知度が低い可能性がうかがわれ、大学において、将来教員を目指す、学生に対して「体つくり運動」という名称への理解度を高める必要があると言える。

2.「体力を高める運動」「体ほぐしの運動」における経験割合について

 高等学校における学習指導要領では、「体力を高める運動」について、a)大きな力を発揮する能力を高めるための運動(筋力)、b)スピーディーなあるいはパワフルな動きができる能力を高めるための運動(スピード)、c)動きを持続する能力を高めるための運動(持久力)、d)体の柔らかさを高めるための運動(柔軟性)、e)動きの巧みさを高めるための運動(調整力)、f)総合的に体力を高めるための運動などによって構成されている6)
 これらの分類のもと、表2は、高校時の授業における「体力を高める運動」の中から「筋力」「スピード」「持久力」「柔軟性」「調整力」を高める運動、「体ほぐしの運動」に関する経験割合を示したものである。

 「筋力」を高める運動の授業経験は、男女におけて差は見られないものの、男子73.0%、女子71.1%と7割の者が経験していた。「スピード」を高める運動の授業経験は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.01)。男子の経験割合が39.2%に対し、女子は55.7%と高い経験割合であった。「持久力」を高める運動の授業経験は、男女における差は見られないものの、男子84.7%、女子85.6%と8割以上の者が経験し、男女における体力を高める運動で一番実施されていた内容であった。「柔軟性」を高める運動の授業経験は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.01)。男子の経験割合が54.5%に対し、女子は86.6%と女子において最も高い経験割合であった。「調整力」を高める運動の授業経験は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.05)。男子の経験割合が18.5%に対し、女子は30.9%と高い経験割合であったものの全体には低い割合であった。
 体力を高める運動において、男女とも「筋力」「持久力」「柔軟性」において高い経験割合がみられた。このことは、体育の授業の中に体力の基礎となる筋力・持久力を中心とした体力づくりが十分に実施されていたことが明らかである。また、「調整力」においては、小学校段階での課題として重点が置かれているため、経験割合は低く、高校では、筋力に重点を置いた学習課題が行われていることが確認された。
 各経験割合において、男子よりも女子の方が高い傾向がみられた。この理由については、女子の方が授業における運動目標の認識が高いことや女子の授業の方が明確な目的のもとで授業されていることなど様々な要因が考えられるが、本研究では明らかにすることができなかった。(図1)

 「体ほぐしの運動」の経験割合は、男女による差が見られた(p<0.05)。男子の経験割合が25.4%に対し、女子は38.1%と男子よりも高い経験割合であったが全体には低い割合であった。「体ほぐしの運動」は現行の学習指導要領で新たに設けられた項目である。この背景として近年の児童生徒の体力の現状として、運動の行い方の二極化や運動遊びの減少などが心と体の発達に大きな影響を及ぼしていることがあげられ、心と体を一体とした指導が求められている。そして、そのねらいはa)体への気付き、b)体の調整、c)仲間との交流となっている5)。本来、体ほぐしの運動は、各領域全般にわたって行うものとされて、今回の学習指導要領で重要視されている12)。しかしながら、授業を受けた学生にとっては、その認識度が低かったと考えられる。大窄ら8)による教育実習生を対象とした調査においても「体ほぐしの運動」への認識度は低く、同様の課題が見られた。このことは、従来から指摘されているように「体つくり運動」と同様に「体ほぐしの運動」における運動内容や理解度を高めることが重要であることがうかがわれた。

3.「体力を高める運動」「体ほぐしの運動」に関する運動を経験した領域について

 表3は、体力を高める運動の「筋力」「スピード」「持久力」「柔軟性」「調整力」に関する運動、体ほぐしの運動に関する運動がどの運動領域で行われていたのかを示したものである。運動領域については、学習指導要領に示されている「体つくり運動」「器械運動」「陸上競技」「水泳」「球技」「武道」「ダンス」の7領域の他、「体育全般(帯状学習)」「その他(スポーツテストや体育理論など)」の2項目を追加し、9分類とした。

 「筋力」を高める運動の経験領域は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.01)。男女ともに、「体育全般」で実施している割合が高くみられた。そして、特に男子においては「武道」での経験割合が31.9%と高いことが特徴的であった。具体的な運動内容を示すと、「体育全般」において、準備運動での腕立て、腹筋、背筋などを行う補強運動、「体つくり運動」において男子ではバーベルやマシーンでのウエイトトレーニング、女子では補強運動をサーキット形式で実施などであった。また、特徴的であった男子「武道」では、補強運動の実施が多くみられた。先行研究8)では、学校現場における準備運動での補強運動などを用いた筋力づくりの実施は高く、教育現場において、子どもの体力向上が強く意識されている可能性が示されており、本研究においても同様の結果であった。しかし、その手段は補強運動を中心とした筋力トレーニングに終始しており、運動内容の工夫も必要であるかもしれない。
 「スピード」を高める運動の経験領域は、男女による経験割合の差は見られなかった。男女ともに、「陸上競技」で経験している者が多く、次いで「球技」であった。具体的な運動内容を示すと、「陸上競技」において、短距離走・ハードル、「球技」において、ダッシュ、フットワークなどの実施、「体つくり運動」では、変形ダッシュの実施であった。本研究で示された内容は、単に走るという運動であっても、各運動領域において、スピードを高めて走る運動内容において、種類の異なる走りが行われており、各運動領域において工夫されていることがうかがわれた。
 「持久力」を高める運動の経験領域は、男女による経験割合の差は見られなかった。男女ともに、「体つくり運動」で経験している者が多く、次いで「陸上競技」でであった。具体的な運動内容を示すと、「体つくり運動」において、持久走、「陸上競技」においても、持久走が多く実施されていた。ここで注目できる点は、「体つくり運動」で行われた持久走の多くは、マラソン大会やそれに向けた学外のロードやクロスカントリーを用いた持久走であった。また、「陸上競技」においては、マラソン大会こそないものの、ロードや校内での持久走の実施と運動内容は変わらないものであった。持久力を高める運動については、持久走以外にも教材の検討が必要ではないかと思われる。
 「柔軟性」を高める運動の経験領域は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.01)。男女ともに、「体育全般」で実施している割合が高く、次いで「器械運動」であった。また、特に女子においては「ダンス」での経験割合が17.9%と高いことが特徴的であった。具体的な運動内容を示すと、「体育全般」において、準備運動でのストレッチ、「器械運動」において、柔軟運動、マット運動、「体つくり運動」では、ペアストレッチの実施であった。また、女子においては「ダンス」においてストレッチの実施が多くみられた。柔軟性を高める方法として、多くがストレッチを用いているが、「体つくり運動」において、ペアストレッチと複数人でのストレッチを挙げていることが特徴であり、学習目標に沿った内容が実践されていた。
 「調整力」を高める運動の経験領域は、男女による経験割合の差は見られなかった。男女ともに、「体つくり運動」で経験している者が多く、次いで「球技」でであった。具体的な運動内容を示すと、「体つくり運動」において、コーディネーション運動を行っている者が多く、その種類はラダー、クレジーボール、トランポリン、縄跳びなどと多岐にわたっていた。また、「球技」においても、ボールを用いたコーディネーション運動が行われていた。「調整力」については特に小学校段階での動きづくりや体の動かし方の重要性が言われており、続く、中学・高等学校においても巧みな動き高めることが必要である7)。そして、近年では、これらの能力高める運動としてコーディネーション運動と呼び、特に子供に対する遊び(運動)の体験からの運動が注目されている3)。本研究結果からも、少なからずコーディネーション運動を経験している者がみられ、学校現場においてもこの運動が広がっていることが確認できた。今後は、「体つくり運動」とコーディネーション運動を連動させ、このような運動を広く定着せさることも必要ではないかと考えられる。

 「体ほぐしの運動」の運動領域は、男女による経験割合の差が見られた(p<0.05)。男女ともに、「体育全般」「体つくり運動」で実施している割合が高くみられた。特徴的であったのは男子での「器械運動」、女子での「球技」の経験において男女の違いがみられた。「体ほぐしの運動」に関する運動内容は、各運動領域で様々なものが挙げられていた。それらを大きく3つに分類すると、a)体操、b)レクリエーション的な運動、c)コーディネーション運動であると考えられた。具体的な運動内容はa)体操において、「体育全般」で実施されており、ペアストレッチやラジオ体操、ブラジル体操、学校独自の体操など各種体操であった。b)レクリエーション的な運動では、「体つくり運動」で実施されており、鬼ごっこ、大縄跳び、遊びの授業、仲間づくりなど多岐にわたっていた。c)コーディネーション運動では、男女ともに「体つくり運動」女子では「球技」でボールを用いたコーディネーション運動が実施されていた。このことは、従来から言われている、体ほぐしの運動には、特別な運動様式がなく、教材の難しさが現段階でも問題である9),11)ことを反映した結果であるといえる。しかしながら、本研究で得られた3種類の運動内容は「体ほぐしの運動」への教材化を図る上で基礎となる内容であると捉えることが出来る。

〔まとめ〕

 本研究では、今後の「体つくり運動」の教材づくりへの基礎資料を得ることを目的として「体つくり運動」に関わる運動教材の検討を進めるため、「体力を高める運動」「体ほぐしの運動」について体育の授業に対する意識の高い体育系大学生を対象としたアンケート調査から、「体つくり運動」に関わる運動内容の現状を明らかにした。
 本研究結果は、以下の通りである。
1)高校時での「体つくり運動」の経験割合は高まったが、その認識度は低かった。
2)「体力を高める運動」における「筋力」「持久力」を高める運動においては、その経験割合は高いものの、運動内容は単一的であった。
3)「調整力」「体ほぐしの運動」においては、運動内容が多岐にわたっており、今後、更なる検討が望まれる結果であった。
4)各項目における経験割合は、女子の方が高い結果であった(p<0.05)。
 これらの結果から、今後の課題として、「体つくり運動」の名称への認識度を高めることが考えられる。また、「筋力」「持久力」を高める運動を多様化させるとともに、「調整力」を高める運動や「体ほぐしの運動」では、体系化していくこともあげられ、「体つくり運動」における充実した教材づくりの必要性が考えられた。

〔参考文献〕

1)青木和浩,飯塚浩史,須田柳治(2003),高等学校における「体つくり運動」に関する一考察.体操研究,1:1-8
2)青木和浩,木村博人,須田柳治(2003),「体ほぐしの運動」に関する運動内容の検討.日本体操学会第3回大会号:26-27
3)東根明人,平井博史(2002),キンダーコーディネーション,pp.18-22,全国書籍
4)飯塚浩史,横尾壮介,太田雅夫 ほか(1999),高等学校における体操領域の問題点に関する基礎的研究.スポーツ方法学研究第10回大会号:18
5)文部省(2000),体つくり運動 ―授業の考え方と進め方―,pp.10-19,東洋館
6)文部省(1999),高等学校学習指導要領解説 保健体育編 体育編,pp.26-27,東山書房
7)文部省(2000),体つくり運動 ―授業の考え方と進め方―,pp.30-35,東洋館
8)大窄貴史,六鹿由紀,家田重晴 ほか(2006),中学、高校の体育授業における「体つくり運動」等の指導内容.中京大学論叢,47(1):1-13
9)大塚 隆(2005),「体つくり運動」の教材研究―「体ほぐしの運動」と「体力を高まる運動」に関する意識調査―.東海大学紀要 体育学部,34:15-24
10)須田柳治,太田雅夫(1986), Gymnastikのとらえかたに関する研究.順天堂大学保健体育紀要,29:46-55
11)高橋健夫(2000),「体ほぐしの運動」Q&A.体育科教育,48(8):18-21
12)高松 薫(2004),「体ほぐし」の考え方と学習の進め方.高等学校学習指導要領の展開 保健体育科編,木村清人,戸田芳雄 編,pp.51-53,明治図書
13)山本麻子,富田公博,田村義男 ほか(1986),大学生の中学・高校時における体育実技授業内容に関する一考察.法政大学体育研究センター紀要,6:19-34