J女子大学生の日常生活歩数の実態に関する研究
−健康づくり実技科目との関連より−

Study on the Reality of the Number of Steps Taken Daily by Female Students
at J-Women's University
--- In Relation to Fitness-Enhancement Exercise Course ---

長谷川千里(女子栄養大学)
hchisato@eiyo.ac.jp
金子嘉徳(女子栄養大学)
鞠子佳香(女子栄養大学)

Chisato Hasegawa(Kagawa Nutrition University)
Yoshinori Kaneko(Kagawa Nutrition University)
Yoshika Mariko(Kagawa Nutrition University)

[Abstract]

  The object of this study is to shed light on the reality of the number of steps taken daily by female university students in relation to the practice course on fitness-enhancement exercise, and to get suggestions for achieving the goal value of steps recommended in Healthy Japan 21.
 Objective persons were 217 of first-year students in 4 classes (Department of Nutrition Science) at J-Women's University who took the course "Practice Course I on Fitness-Enhancement Exercise" given in the first semester in 2008. The students were asked to wear a pedometer (FB-720-BK: TANITA) from rising to bedtime, and the number of steps taken was recorded for 4 months from April to the end of July in 2008. According to the day of the week when the course "Practice Course I on Fitness-Enhancement Exercise" was given, the students were divided into two groups, "Exercise-on-Tuesday Group" (classes A,C, and D; 158 students) and "Exercise-on Friday Group" (class B; 59 students). Analyses were made for each of these groups and results were compared. The number of daily steps averaged over 4 months was, 7,420 (±2,054) steps for "Exercise-on-Tuesday Group" and 6,579 (±2,154) steps for "Exercise-on-Friday Group". Both of the values were higher than the averaged value of steps in daily life , 6,267, for women given in the results of "National Survey on Health/Nutrition in 2007". Furthermore, the number of daily steps taken during the days when the course "Practice Course I on Fitness-Enhancement Exercise" was given was, 8,187 (±1,816) steps for "Exercise-on-Tuesday Group" and 8,542 (±2,166) steps for "Exercise-on-Friday Group", both of which were as high as, or nearly as high as the goal value of daily steps for women, 8,300 steps, recommended in "Healthy Japan 21". The results suggest that participation in the course "Practice Course I on Fitness-Enhancement Exercise" guarantees some number of steps taken in the campus, which becomes a cause to increase activities. On the other hand, it is generally observed that the number of steps is smaller in weekdays when only lectures are given or in weekend days. So, we think it a problem to be solved how to increase the number of steps taken in these days. Furthermore, when the tendency of the number of steps is observed in monthly base, school events, such as campus festival or the examination period, seem to give some influence on it. We, therefore, think it a task in the future to think over the way to instruct students by taking it into consideration to secure the necessary number of steps taken during the period when daily activities tend to decrease, such as the examination period.

Keywords: the number of steps taken in daily life, female university students, practice
course on fitness-enhancement exercise.

I .緒言

 超高齢少子社会を迎えた今日の日本では,国民の健康の維持増進と健康長寿が大きな課題となっている。平成12(2000)年の厚生労働省「健康日本21」1)、平成18(2006)年の「健康づくりのための運動指針2006−身体活動・運動・体力−」2)では生活習慣病の一次予防と健康づくりのための行動について目標値が示めされている。運動については、ウォーキング3)‐8)の歩数が目標値としてあげられており、女子は8,300歩である。しかし、平成16年度の「『健康日本21』中間評価報告書」9)の結果は6,446歩であり、平成12年の「健康日本21」策定時のベースライン値7,282歩よりもさらに低い値であった。さらに「平成19年国民健康・栄養調査結果」10)でも女子の日常生活の平均歩数は6,267歩であった。また、文部科学省の平成19年度「体力・運動能力調査報告書」11)では、女子の体力の低下がより著しいことが報告された。このことは、女子の体力に対する警鐘と受け取ることができる。そこで、女子の体力改善の方法を探る一助とするために、女子大生の日常生活歩数の実態を把握することは意義のあることと考える。特に大学生では科目履修と生活全体の活動量の関係について、これまでにも研究がなされてきており、体育実技科目が大学生活全体の活動量(歩数)と関係するのではないかと報告されている12)‐16)。しかしこれら研究では、測定期間が一週間程度、対象者が20名程度と、多人数の被験者による長期に渡る調査ではない。このことから、200名以上を対象とした4ヶ月の長期にわたる女子大生の歩数の実態調査は、実態把握のために意義のあるものと考える。

II .目的

 本研究では女子大生の日常生活歩数の実態を健康づくりの実技科目との関連から明らかにし、「健康日本21」の目標歩数を達成するための示唆を得ることを目的とした。

III .方法

1.対象者
 対象は、J女子大学で平成20年度前期に開講された「健康づくり運動処方演習T(必修科目、1単位)」を受講した1年生(栄養学部)、4クラス217名とし、「健康づくり運動処方演習T」の履修曜日によって、「火曜実技履修群」(ACDクラス:158名)と「金曜実技履修群」(Bクラス:59名)の2群にわけた(表1)。なお、「健康づくり運動処方演習T」は、自己の健康維持・増進を目指し、自主管理できる能力を養うとともに、運動の必要な人々にあった処方ができる理論並びに技術を学習することを目標として実施され、授業の内容については表2に示すとおりである。


2.日常生活歩数測定方法
 日常生活歩数測定には、歩数計(FB-720-BK:タニタ社)を用いた。第1回授業時に歩数計の使用方法並びに記録方法を説明し、起床時から就寝時まで装着する旨を伝え、平成20年4月から7月末までの約4ヶ月間記録させた。各授業開始時に歩数記録を転記させ自己の歩数の現状を確認させた。
 最終授業時に4ヶ月間の記録をグラフにしたレポートを提出させた。

3.分析方法
 「火曜実技履修群」と「金曜実技履修群」それぞれの曜日別平均歩数、4ヶ月間の月別歩数変化を求め、平均歩数の比較はt検定を行いP<0.05未満を有意な差とした。また、その結果を「曜日別講義・実技実習科目割合」(表3)「平成20年度祝日と主な学校行事」(表4)と照らし合わせた。

IV .結果

 図1は、「火曜実技履修群」の曜日別歩数を比較したものである。火曜日8,187(±1,816)歩と金曜日8,214(±2,013)歩は、その他のすべての曜日に比べ有意に多い傾向がみられた(P<0.01)。

 図2は、「金曜実技履修群」の月別歩数を比較したものである。金曜日8,542(±2,166)歩は、その他のすべての曜日よりも有意に多い傾向がみられた(P<0.01)。

  

 図3は、「火曜実技履修群」の4ヶ月間の月別歩数変化を示したものである。月曜日では、4月6,654(±3,506)歩と5月7,100(±2,985)歩の間にP<0.05、4月と6月7,342(±2,982)歩の間にP<0.01の有意な差がみられた。火曜日では、4月7,065(±3,029)歩と6月8,769(±3,061)歩、4月と7月8,478(±2,883)歩、5月8,031(±3,017)歩と6月の間に有意な差がみられた(P<0.01)。水曜日では、4月7,800(±2,838)歩と7月6,785(±2,646)歩の間に有意な差がみられた(P<0.01)。木曜日では、4月8,143(±2,997)歩と6月7,335(±3,407)歩、4月と7月6,991(±2,934)歩、5月7,742(±3,242)歩と7月の間に有意な差がみられた(P<0.01)。金曜日では、4月8,952(±3,055)歩と6月8,197(±3,459)歩、4月と7月7,537(±2,945)歩の間に有意な差がみられた(P<0.01)。土曜日では、4月6,654(±3,506)歩と5月7,288(±4,677)歩、4月と6月7,280(±4,587)歩の間にP<0.05、5月と7月6,253(±4,136)歩、6月と7月の間にP<0.01の有意な差がみられた。日曜日では、4月6,385(±4,293)歩と6月7,697(±5,312)歩、5月6,762(±5,337)歩と6月、6月と7月5,571(±3,906)歩の間にP<0.01、4月と7月の間にP<0.05の有意な差がみられた。

 図4は、「金曜実技履修群」の4ヶ月間の月別歩数変化を示したものである。月曜日では、4月6,957(±2,936)歩と5月6,149(±3,400)歩、4月と7月6,106(±2,692)歩の間に有意な差がみられた(P<0.05)。水曜日では、4月7,027(±3,276)歩と7月5,998(±2,920)歩の間に有意な差がみられた(P<0.01)。日曜日では、4月4,858(±3,337)歩と6月7,096(±5,273)歩、6月と7月4,698(±3,492)歩の間にP<0.01、5月5,861(±4,661)歩と6月の間にP<0.05の有意な差がみられた。火、木、金、土曜日に有意な差はみられなかった。

 図5は、「火曜実技履修群」と「金曜実技履修群」の曜日別歩数を比較したものである。4ヶ月間の平均歩数は、「火曜実技履修群」7,420(±2,054)歩、「金曜実技履修群」6,579(±2,154)歩で、「火曜実技履修群」の方が有意に多い傾向がみられた(P<0.01)。曜日別にみると、金曜日以外は「火曜実技履修群」の歩数が多く、月、火、水、木、日曜日では有意な差がみられた(P<0.05、火曜日のみP<0.01)。

V .考察

1.「健康づくり運動処方演習T」履修日と歩数との関連
 4ヶ月間の平均歩数をみると「火曜実技履修群」7,420(±2,054)歩と「金曜実技履修群」6,579(±2,154)歩は、どちらも「平成19年国民健康・栄養調査結果」の女子の日常生活平均歩数6,267歩よりも多い値であったが、「健康日本21」で目標値として示された8,300歩には達しない値で、健康づくりのためにはさらに1,000から2,000歩の増加が望ましい。しかし曜日別平均歩数から「健康づくり運動処方演習T」履修日の歩数をみてみると、「火曜実技履修群」火曜日8,187(±1,816)歩と「金曜実技履修群」金曜日8,542(±2,166)歩であり、「健康日本21」目標値の近似値または達成値であった。本研究の対象者にとって、「健康づくり運動処方演習T」を履修することは、大学内においてある程度の歩数が確保され、活動量の増加につながる一因になっているものと推察される。

2.その他の曜日と歩数との関連
 曜日別平均歩数から1.以外の歩数の傾向をみてみると、「火曜実技履修群」における金曜日の平均歩数を除いた「火曜実技履修群」「金曜実技履修群」ともに、講義科目のみの曜日では、平均歩数が6,000歩から7,000歩台、土・日曜日については5,000歩から6,000歩台と少ない傾向であり、このような曜日についての歩数の確保が課題と考える。

3.祝日や主な学校行事と歩数との関連
 歩数を学校行事との関連からみてみると、各月間の歩数傾向として全体的に4月の歩数が多い傾向がみられたが、これは4月にガイダンスや健康診断など普通の講義以外の行事が比較的多いこと、また、歩数計による測定が始まったばかりであることから歩数増加に対する意識が高くモチベーション17)そのものも高かったのではないかと推察される。また6月の土曜日と日曜日の歩数増加については学園祭、7月の歩数減少には定期試験期間であったことが影響しているのではないかと推察される。

4.まとめ
 今回の調査で分かったJ女子大生の日常生活歩数の実態から、「健康日本21」の目標値(女性:8,300歩)に達するためには、健康づくり実技科目のない日の歩数確保をどのようにするか、土・日曜日についてどのように意識的に歩数の増加を促すか、また年間の学校行事による影響にも配慮し、活動量の少ない傾向のある試験期間中等の歩数増加への働きかけをどのようにしていったらよいかということの検討が必要であると考える。具体的な働きかけや指導方法についての検討を今後の課題としたい。

VI .要旨

 本研究では女子大生の日常生活歩数の実態を健康づくり実技科目との関連から明らかにし、「健康日本21」の目標歩数(女性:8,300歩)を達成するための示唆を得ることを目的とした。対象者は、J女子大学で平成20年度前期に開講された「健康づくり運動処方演習T」を受講した1年生(栄養学部)4クラス217名で、歩数計(FB-720-BK:タニタ社)を起床時から就寝時まで装着させ、平成20年4月から7月末までの約4ヶ月間の歩数を記録させた。対象者を「健康づくり運動処方演習T」履修の曜日によって「火曜実技履修群」(ACDクラス:158名)と「金曜実技履修群」(Bクラス:59名)にわけ、t検定による分析を行った結果、以下のことが明らかになった。

  1. 健康づくり実技科目である「健康づくり運動処方演習T」履修日の歩数は、それぞれ8,187(±1,816)歩と8,542(±2,166)歩で、他の曜日に比べて有意に多く、「健康日本21」の目標歩数(女性:8300歩)に近い値であった。

  2. 一週間の歩数を比較すると、講義科目が多い日は歩数が少なく、土・日曜日の歩数はさらに少ない傾向がみられた。

  3. 4ヶ月間の歩数変化をみると、学園祭のあった6月の土・日曜日の歩数増加や試験期間中であった7月の歩数減少など学校行事との関連性が推察された。

 以上の結果から、健康づくり実技科目のない日と土・日曜日、また年間の学校行事による活動量の減少時の歩数増加への働きかけの検討を今後の課題としたい。

VII .文献

1)厚生労働省(2000),21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」の推進について(平成12年3月31日付健医発第612号厚生省保健医療局長通知),http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/s0.html
2)厚生労働省,運動所要量・運動指針の策定検討会編(2006),健康づくりのための運動指針2006.厚生労働省
3)AHA(米国心臓病学会)監修(1997),ウォーキングブック−正しい知識と実践法−,総合医学社
4)小野三嗣(監修)(1995),ウォーキングエクササイズ,大泉書店
5)工藤一彦(2000),生活習慣病を予防する新ヘルシーウォーキング,女子栄養大学出版部
6)佐久間淳(1996),おしゃれにダイエットウォーキング,曜曜社出版
7)佐久間淳(1996),手軽にできるウォーキング処方せん,曜曜社出版
8)財団法人健康・体力づくり事業財団(2001),健康運動実践指導者用テキスト−健康運動指導の手引−改訂第3版,南江堂
9)厚生労働省(2007),「健康日本21」中間評価報告書,http://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/ugoki/kaigi/pdf/0704hyouka_tyukan.pdf
10)厚生労働省(2008),平成19年国民健康・栄養調査結果,http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1225-5.html
11)文部科学省(2008),体力・運動能力調査報告書,
12)鈴木久雄,徳永敏文他(1998),大学生の日常生活活動量と体育実技教育の関連,岡山大学教育学部研究集録,第107号,59-63
13)田原亮二,中山正剛他(2008),大学生の運動行動に関する現状と授業における身体活動量との関係,福岡大学スポーツ科学研究 第39巻 第1号,123-135
14)中村伸一郎(2002),女子短大生における日常生活の歩行運動が身体組成と有酸素能力に及ぼす影響,鹿児島純心女子短期大学研究紀要,第32号,107-113
15)中村伸一郎(2003),女子短大生における日常生活の歩行運動が身体組成と有酸素能力に及ぼす影響(その2),鹿児島純心女子短期大学研究紀要,第33号,101-109
16)服部恒明,小栗紀美(2003),大学生における運動部活動実施時の身体活動量と身体組成の関連について,茨城大学教育学部保健体育選修・スポーツコース・健康コース卒業研究発表会プログラム
17)歩数計が歩く意欲を高める(2007)http://www.Healthday.com/Article.asp?AID=610202