地域の踊りを利用したオリジナル体操の創案に関する研究
―「坂戸よさこい体操」の可能性を探る―

Study on Inventing an Original Exercise by Applying a Regional Dance
― Looking for a possibility of “SAKADO YOSAKOI-EXERCISE ―

長谷川千里(女子栄養大学)
hchisato@eiyo.ac.jp
金子嘉徳(女子栄養大学)
鞠子佳香(女子栄養大学)

Chisato Hasegawa(Kagawa Nutrition University)
Yoshinori Kaneko(Kagawa Nutrition University)
Yoshika Mariko(Kagawa Nutrition University)

[Summary]

 The objective of this study is to invent an original exercise “SAKADO YOSAKOI-EXERCISE”for the promotion of fitness by applying a regional dance “SAKADO YOSAKOI”, and to verify its effectiveness. Selecting a subject of a woman, we measured values of METs (Metabolic Equivalent of Task) at the time of exercise for the intensity of physical activities. As a result, the average value of METs was 4.8 (± 1.2), which suggests the exercise has a reasonable intensity for the exercise to promote fitness. We also conducted a questionnaire survey, selecting 273 female students of J-Women’s University as subjects, after carrying the exercise into effect for three weeks as a warming-up exercise. We compared the tendencies by dividing the subjects into three groups according to their consciousness of achievement of the exercise, “high achievement group”, “medium achievement group”, and “insufficient achievement group”. As a result, more than 90 percent of all of them answered, they could enjoy it, they could experience the mood of “YOSAKOI”, and they wanted to re-experience it. Moreover, more than 80 percent of them answered it was easy. These results suggest that the “SAKADO YOSAKOI-EXERCISE” is a pleasant and easy exercise where the mood of “YOSAKOI” can be experienced. We infer from these results that the “SAKADO YOSAKOIEXERCISE” is effective as a exercise to promote fitness.

Keywords:YOSAKOI, Original exercise, MET’s, Fitness promotion

I .緒言

 超高齢少子社会を迎える今日の日本においては,より健康な社会を目指すことが大きな課題となっており,2002(平成12)年に開始された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」5)や2006(平成18)年の「健康づくりのための運動基準2006―身体活動・運動・体力―(エクササイズガイド2006)」4)をはじめとする国民の健康の維持・増進を支える健康施策が進められている。健康の維持・増進を目的とした健康づくりのための運動は,身体的にも精神的にも無理のない適度な運動量であると同時に,継続することが重要である。その運動の中に楽しい,夢中になれるという要素が含まれていることは継続の大きな動機付け3)になると考えられる。
 一方,近年,地域おこしやまちづくり推進のために日本各地で様々な祭りが行われているが,その中でも,全国的に大きな広がりを見せているのが,高知県高知市を発祥とする「よさこい祭り」注1)である。1992(平成4)年に北海道札幌市で「YOSAKOIソーラン祭り」17)が開催されて以降,全国各地で「よさこい祭り」が開催されるようになった。この祭りの最大の特徴は,「踊り」という身体運動を主体とした住民参加型の祭りであることである。手に持った鳴子と呼ばれる鳴り物を鳴らしながら,「よさこい節」や「よさこい鳴子踊り」,地元の伝統民謡等を基調としながら,和太鼓,サンバ,ロック,ジャズ,レゲエなど様々にアレンジした各チームのオリジナル曲にのって踊りを披露し競い合う。このような全国的な広がりを見せる「よさこい」踊りであるが,健康づくりへの活用の事例は「YOSAKOIソーラン祭り」の「健康ソーラン」8-11,12,13)などの報告はあるがまだ少ない。
 埼玉県坂戸市でも2001(平成13)年に市制施工25周年を記念して開催された「坂戸市民まつり」を始まりとした「坂戸よさこい」注2)が毎年8月に開催され,市内外から多くの参加者が集まり,例年大きな盛り上がりを見せている。しかし,坂戸市に住んでいながら,「坂戸よさこい」踊りを踊ったことのない地域住民も多く存在している。その理由として,「坂戸よさこい」祭りを見物する祭りであるととらえていること,コンテスト形式であるため気軽に参加しにくいこと,新規参加したくてもチーム(連)に属することに抵抗があることなどが考えられ,参加したことのない地域住民にとって,祭りへの参加は敷居が高くなってしまっていることが考えられる。そこで筆者らは,「よさこい」踊りの持つ音楽に乗せて身体を動かすことの楽しさを健康づくりに活用し,誰でも簡単に楽しく行うことのできる「坂戸よさこい体操」を創案することとした。

II .目的

 本研究では,埼玉県坂戸市の「坂戸よさこい」祭りで行われている地域の踊り「坂戸よさこい」総踊りを利用して,健康づくりのための運動「坂戸よさこい体操」を創案し,女子大生を対象に,METsの測定とアンケート調査を行い,その有用性の検証と実用の可能性を探ることを目的とした。

III .方法

1.地域の踊りを利用したオリジナル体操の創案
 体操を創案するにあたり,@「健康づくりのための体操として適度な運動強度をもつ」A「簡単で,手軽に,楽しくおこなえる」B「よさこい踊りの雰囲気や祭りの雰囲気が体験できる」の3要素を満たすことを目指し,振付,音楽,用具の検討をおこなった。
1)振り付け
 振り付けは,「坂戸よさこい」総踊りから,筆者らが目指すオリジナル体操の3要素をみたす振り付けパターンを抽出した。「坂戸よさこい」総踊りの振り付けは,表1・図1・表2の通りで,「構え」「ポーズ」「16の振り付けパターン」「ポーズ」という振付構成になっており,多少の繰り返しはあるがほとんどのパターンは繰り返されることがないため,簡単に習得することが難しい。そこでオリジナル体操では,表3の通りで,振り付けを「構え」「ポーズ」「7つの振り付けパターン」「ポーズ」という振付構成にし,振り付けパターンを減少させた。その際「振り付けパターン」として,「坂戸よさこい」総踊りの「パターン1・2・3・4・5・8・16」の7つを使用した。また,繰り返しのある振り付けにすることで習得が容易になるよう工夫した。

2)音楽
 音楽は,「坂戸よさこい」総踊りで使用されている楽曲「坂戸よさこい」を使用した(資料1)。楽曲「坂戸よさこい」は,時間数が4分13秒あり,「セリフ」「前奏」「Aメロ」「サビ」「間奏」「声」「間奏」「Aメロ」「サビ」「後奏」「ラスト」という音楽構成になっている(表4)。楽曲「坂戸よさこい」は同じメロディーの繰り返しが少なく,変化に富んだ楽曲であるため覚えることは容易ではない。そこで,時間数を2分27秒と短縮し,楽曲「坂戸よさこい」らしさは残しつつ,繰り返しのある振り付けがおこなえるよう工夫し,編集した(表5)。



3)用具
 「よさこい」踊りの主な特徴の一つとして,「鳴子」(図2)という田畑の鳥払いの道具を手に持って踊ることが挙げられる。鳴子を持って踊ることは,「よさこい」踊りの雰囲気をよく体験でき,音によって心地よさや満足感が得られ,振り付け習得の助けとなると考え,オリジナル体操においても鳴子を使用した(表6)。


4)名称
 オリジナル体操は,「坂戸よさこい」総踊りの振り付け・楽曲を利用していることから,「坂戸よさこい体操」という名称とした。

2.オリジナル体操の運動強度
 運動強度は,その運動の運動強度が安静時の何倍に相当するかを表すMetabolic Equivalents:METsの測定を行い,
健康づくりの運動として適した運動強度であるかを検討した。
1)対象
 対象者は,女性1名(29歳,身長156cm,46kg)である。
2)測定日
 測定日は,平成20年10月2日である。
3)測定方法
 測定方法は,METAVINE-S(Mヴァイン社)を使用して,「坂戸よさこい体操」実施時のMETsを3回測定し,
運動時の平均METsを求めた(図3)。

3.オリジナル体操に関するアンケート調査
1)対象
 対象は,J女子大学生273名(管理栄養士養成コース専攻1年生215名,養護教諭養成コース専攻2年生58名)である。
2)体操実施日・実施回数・実施方法
 1年生は2008年7月11日〜25日の間の「健康づくり運動処方演習T」,2年生は2008年10月20日〜11月10日の間の「体力管理学実習」の準備運動として,「坂戸よさこい体操」を3週にわたって実施した(指導を含めて15分程度)。
3)指導方法
 指導方法は,第1週目,第2週目は,「坂戸よさこい体操」の振り付けを習得し,体操の全体像を理解させることを目的として指導した。具体的には,第1週目は,鳴子の持ち方や鳴らし方,振り付けパターンを指導した後,音楽に合わせて,体操を数回実施した。第2週目は,振り付けパターンの復習をおこなった後,音楽に合わせて体操を数回実施し,細かい動作の修正(身体の向きや,手を上げる角度・方向等)をおこなった。第3週目は,2週にわたって「坂戸よさこい体操」を実施したことで,振り付けは,ほぼ習得できたように感じられたので,「坂戸よさこい体操」をかっこよく実施すること,一体感やよさこい祭りの雰囲気を体験させることを目的として指導した。具体的には,全体が揃って見えるコツ(首の向きやポーズの姿勢等)を指導し,さらに,鳴子の音が揃うよう指導した。
4)アンケート調査実施日
 アンケート調査は,3週にわたって実施した最終週(2008年7月22日・25日,11月10日)におこなった。
5)アンケート調査方法
 アンケート調査方法は,無記名のアンケート調査であり,回収率100%である。
6)アンケート調査項目
 調査項目は,体験後の感想,振付の難易度,再体験の希望など14項目である(資料2)。
7)分析方法
 分析は,Microsoft Excelにて単純集計(記述式回答はカテゴリー化),クロス集計後,χ2検定を行い,P<0.05未満を有効とした。

IV .結果

1.オリジナル体操の運動強度
 「坂戸よさこい体操」実施時のMETs測定結果は,3回の平均が4.8(±1.2) METs,最大値は7.0 METsであった(図4)。


2.オリジナル体操に関するアンケート調査
 アンケートの結果を分析するにあたり,対象者を調査票の項目8の回答に従って,今回は、自覚的な意識を元にして,「音楽を聴けば一人で踊れる」と回答した者20名(7.3%)を「高習得群」,「音楽を聴けばなんとなく踊れる」と回答した者134名(49.1%)を「中習得群」,「手本があればなんとか合わせて踊れる」と回答した者118名(43.2%)を「低習得群」と想定し,3群に分け,他項目とクロス集計し傾向を分析した。なお「覚えていない」と回答した者は1名のみであったため例外として除外した。
 その結果,「運動の好き嫌い」と運動習得度の間に有意差はみられなかったが(図5),「ダンスの好き嫌い」については(図6),「高習得群」では「好き」が16名(80.0%),「やや好き」が1名(5.0%)であったのに対し,「低習得群」では「好き」が21名(17.8%),「やや好き」が66名(55.9%)で,習得度が高いほど「好き」の割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.001)。特にダンスが「嫌い」と回答した8名は全員「低習得群」であった。



 「ダンスの経験の有無」については(図7),「ある」が「高習得群」17名(85.0%),「中習得群」74名(55.2%),「低習得群」60名(50.8%)で,習得度が高いほど「ある」の割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.05)。
 「『よさこい』の認知度」については(図8),全体では「実施したことがある」30名(11.0%),「見たことがある」61名(22.4%),「名前は知っている」117名(43.0%),「知らない」64名(23.5%)であった。「高習得群」では「実施したことがある」5名(25.0%),「見たことがある」9名(45.0%)の割合が高く,「低習得群」では「名前は知っている」52名(44.1%),「知らない」38名(32.2%)の割合の方が高くなり,習得度の高い群ほど認知度が有意に高い傾向がみられた(p<0.01)。



 「体験後の感想」については(図9),「楽しい」148名(54.4%)と「やや楽しい」113名(41.5%)の両方を合わせると全体の95.9%であった。「楽しい」と回答した割合は,「高習得群」14名(70.0%),「中習得群」89名(66.4%),「低習得群」45名(38.1%)で,習得度が高い群ほど「楽しい」割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.001)。
 「振付の難易度」については(図10),「簡単」91名(33.5%)と「やや簡単」140名(51.5%)の両方を合わせると全体の85.0%であった。「高習得群」では,「簡単」14名(70.0%),「やや簡単」6名(30.0%)で,「やや難しい」「難しい」と回答した者がみられなかったのに対して,「低習得群」では「やや難しい」28名(23.7%)や「難しい」2名(1.7%)の回答がみられ,習得度が高い群ほど「簡単」の割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.001)。



 「教え方について」は(図11),全体では「わかりやすい」243名(89.3%),「ややわかりやすい」28名(10.3%)で,両方を合わせると99.6%であり,「ややわかりにくい」と回答した者は1名(0.4%)のみで,習得度による差はみられなかった。
 「『よさこい踊り』の雰囲気体験の有無」については(図12),「よく体験できた」105名(38.6%)と「少し体験できた」160名(58.8%)を合わせると97.4%であった。「よく体験できた」と回答した割合は,「高習得群」12名(60.0%),「中習得群」61名(45.5%),「低習得群」32名(27.1%)で,習得度が高い群ほど「よく体験できた」の割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.05)。



 「再体験の希望」については(図13),「是非実施したい」62名(22.8%)と「機会があれば実施したい」186名(68.4%)を合わせると91.2%であった。「是非実施したい」と回答した割合は,「高習得群」11名(55.0%),「中習得群」38名(28.4%),「低習得群」13名(11.0%)で習得度が高いほど「是非実施したい」の割合が有意に高い傾向がみられた(p<0.001)。
 さらに,「坂戸よさこい体操」を実施してみて最も印象的だったことを自由記述式で尋ねたところ(図14),「鳴子の音」に関する内容を回答した者が最も多く(139名,50.9%),「鳴子の音が揃うところが印象的である」,「鳴子の音自体が印象的である」,「鳴子を使って踊ることが楽しい」といった回答を得た。次に,「振付や動き全体」(90名,33.0%),「ポーズや動作」(35名,12.8%)に関する内容を回答した者が多く,「ポーズが印象的である」,「動きが揃うとかっこいい」といった回答を得た。次いで,「音楽」(22名,8.1%),「一体感」(22名,8.1%)であった。


V .考察

1.オリジナル体操の運動強度
 「坂戸よさこい体操」実施時のMETs測定結果の平均4.8(±1.2)METsは,「バドミントン」(4.5METs),「バレエ」(4.8METs),「ジャズダンス」(4.8METs),「かなり速歩(107m/分)」(5.0METs)4)と同程度の運動強度であることから,「坂戸よさこい体操」はオリジナル体操を考案するにあたり目指した@「健康づくりのための体操として適度な運動強度をもつ」ことができたのではないかと推察される。また,「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)」(厚生労働省)4)では,健康づくりの運動として3METs以上の運動を推奨していることからも,「坂戸よさこい体操」は健康づくりのために活用可能と思われる。

2.オリジナル体操に関するアンケート調査
【用具について】
 「『坂戸よさこい体操』の印象について」の自由記述で,「鳴子の音」に関する内容を回答した者が最も多かったことから,「よさこい」の雰囲気を体験するにあたり,「鳴子」の使用が効果的であったと推察される。
【指導方法について】
 「教え方について」では,1名を除く271名すべてが「わかりやすい」「ややわかりやすい」を回答しており,習得度に関係なく,「坂戸よさこい体操」の指導法はわかりやすいものであることが推察される。V.方法においても示した通り,「坂戸よさこい体操」は授業の準備運動として3週にわたって実施し,毎週,指導を含めて15分程度実施した。指導の方法は,第1週目,第2週目は,「坂戸よさこい体操」の振付の習得と,体操の全体像の把握,第3週目は,体操実施にあたってのコツの習得と,一体感やよさこい祭りの雰囲気を体験することを目的として指導した。このように,段階をおった指導を実施したことにより,まず体操の全体像をとらえ,その後,細かな部分まで注意を払う余裕ができ,その結果,指導が「わかりやすい」いった回答を得られたのだと考えられる。
【習得について】
 「坂戸よさこい体操」の自覚的習得度と「ダンスの好き嫌い」をクロス集計したの結果,「好き」と回答する者の方が,「やや好き」の回答者に比べ明らかに習得度が高い傾向がみられたのに対し,「嫌い」の回答者は習得度が低かった。これは過去の経験においてダンスが嫌いな学生は,そのことが習得度に影響していると推察される。しかし自覚的習得度と「運動の好き嫌い」との間に関係がみられないこと,「体験後の感想」では自覚的習得度に関係なく95%以上が「楽しい」「やや楽しい」と感じていることから,繰り返し「坂戸よさこい体操」を体験していくことで,苦手と思う壁を乗り越え,習得度も高くなるのではないかと推察される。
また,「『よさこい』の認知度」は「高習得群」ほど高い傾向がみられ,初めて「よさこい」に接する者よりも「実施したことがある」「見たことがある」者の方が習得しやすいことが推察され,指導の前に「よさこい祭り」や「よさこい踊り」の視聴覚情報等を活用するなどの工夫により習得度を上げることができるのではないかと考えられる。
【体験後について】
 「体験後の感想」では,全体の95.9%が「楽しい」または「やや楽しい」と回答していることから,創案した「坂戸よさこい体操」は楽しい運動となっていることが推察される。さらに高習得群ほど「楽しい」の割合が有意に高くなることから,習得度を上げることでより運動を楽しんでおこなえるようになり,運動を継続する動機付けになるのではないかと考えられる。「振付の難易度」では,全体の85.0%が「簡単」または「やや簡単」と回答していることから,簡単におこなうことのできる運動となっていることが推察される。しかし「低習得群」では「やや難しい」と「難しい」が合わせて25.4%おり,振付の中のわかりにくい箇所を把握し重点的に指導するなどの指導上の工夫が必要であると考える。全体としてはオリジナル体操を創案するにあたり目指したA「簡単で,手軽に,楽しくおこなえる」運動という目標をある程度達成することができたのではないかと推察される。
 また,「『よさこい踊り』の雰囲気体験の有無」では全体のほぼ100%近い97.4%が「体験できた」または「やや体験できた」と回答しており,オリジナル体操を考案するにあたり目指したB「よさこい踊りの雰囲気や祭りの雰囲気が体験できる」という目標をある程度達成できたのではないかと推察される。さらに高習得群ほど「体験できた」の割合が有意に高くなることから,習得度を上げることで「よさこい」のもつ動く楽しさを感じ取ってもらうことができ,より運動を楽しんでおこなえるようになるのではないかと考える。
 「再体験の希望」でも全体の91.2%が「是非実施したい」または「機会があれば実施したい」と回答していることから,「坂戸よさこい体操」は健康づくりのための運動に必要な継続につながる体操となっていることが推察される。さらに高習得群ほど「是非実施したい」の割合が有意に高くなることから,習得度を上げることで「坂戸よさこい体操」の継続によりつながりやすくなることが推察される。
 今後の健康作りの可能性して侘美らは,「YOSAKOIソーラン祭り」の参加により,運動量増加と体力の向上8-11) が期待できるだけでなく他世代との交流やQOLの向上にも繋がっていると報告しており,長谷川らも中高年者の転倒防止効果に繋がる14)と報告している。また一般の中高年者が踊りやすくした東京カペラによる「健康ソーラン」12) など健康づくりへの積極的な利用も報告されている。「坂戸よさこい」も市民の健康づくりへの利用が期待されるが,壇上での演技等もあり,敷居が高く感じられ,一般の市民が気軽に参加できている状況とはいえない。しかし,「坂戸よさこい」を誰もが覚えやすく簡単に楽しく行うことができるようにした「坂戸よさこい体操」ならば,「坂戸よさこい」のよさを体験しながら,継続する運動として広く市民の健康づくりに活用できるものと期待される。

VI .結論

 オリジナル体操「坂戸よさこい体操」実施時の運動強度(METs)は,平均が4.8(±1.2) METsで,「バドミントン」「ジャズダンス」等と同程度の健康づくりに適した運動強度であると推察される。
 アンケート調査より,対象者を「坂戸よさこい体操」の習得度別に「高習得群」,「中習得群」,「低習得群」の3群に分け傾向を分析した結果,体操の習得については「運動の好き嫌い」よりも「ダンスの好き嫌い」や「『よさこい』の認知度」によって習得度が異なる傾向がみられた。「体験後の感想」では「楽しい」と「やや楽しい」を合わせると95.9%になり,「振付の難易度」では「簡単」と「やや簡単」を合わせると85.0%となることから,「坂戸よさこい体操」が楽しく,簡単な体操になっていることが推察される。また,「『よさこい踊り』の雰囲気の体験」については,「よく体験できた」と「少し体験できた」を合わせると97.4%となり,「よさこい」の雰囲気を体験することのできる体操となっていることが推察される。さらに,「坂戸よさこい体操」の印象に関する自由記述の結果より,「よさこい」の雰囲気を体験するにあたり,特に「鳴子」の使用が効果的であったことが推察された。「再体験の希望」についても「是非実施したい」と「機会があれば実施したい」を合わせると全体の91.2%となり,運動継続への可能性が示唆された。
 これらの結果よりオリジナル体操「坂戸よさこい体操」は,体操を考案するにあたり目指した@「健康づくりのための体操として適度な運動強度をもつ」A「簡単で,手軽に,楽しくおこなえる」B「よさこい踊りの雰囲気や祭りの雰囲気が体験できる」についてある程度,具現化することができたと推察された。
 しかし,今回の調査で対象とできなかった年齢層や性別を対象とした継続調査,そして対象に合わせた運動内容,指導方法の検討も必要であると考える。今後,考案したオリジナル体操「坂戸よさこい体操」をさまざまな対象に合わせ展開できるよう努めたいと考える。

注釈
注1)「よさこい祭り」
 もともと,よさこい祭りは,昭和29年高知県にて,経済振興,地域興しを願い始まった。その主な特徴は,「鳴子」という田畑の鳥払いの道具を手に持って踊ること,「よさこい節」をはじめとする日本独特な曲調や歌詞を伴奏曲として使用すること等が挙げられ,坂戸よさこいもこの特徴を受け継いでいる1,2,15,16)
注2)「坂戸よさこい」
 坂戸よさこいは,平成13年市制施行25周年を記念して開催された「坂戸市民まつり」から始まった。市内外から参加者が集まり,第8回(平成20年)では,105チーム,約6000人が参加した。また,平成18年にはオリジナル曲「坂戸よさこい」が作られ,総踊りとして振りが付けられた6,7,13)

VII .謝辞

 本研究では,「坂戸よさこい」祭りや「坂戸よさこい」総踊り等について,坂戸市関係各所の皆様に大変お世話になりました。そのほかアンケート調査に御協力いただきました学生の皆様やご指導御協力いただいた多くの皆様に深く感謝申し上げます。

VIII .文献

1)伊藤亜人(2007),文化人類学で読む 日本の民俗社会,有斐閣
2)内田忠賢編(2003),よさこいYOSAKOI学リーディングス,開成出版
3)金子嘉徳,鞠子佳香,長谷川千里(2009),健康づくり推進のための運動用具開発に関する研究-食育での活用を意識したオリジナル体操の開発-,体操研究,No.6,10-18
4)厚生労働省,運動所要量・運動指針の策定検討会編(2006),健康づくりのための運動指針2006.厚生労働省
5)厚生労働省(2006),21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」の推進について(平成12年3月31日付健医発第612号厚生省保健医療局長通知).http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/s0.html (accessed 2009,Oct.10)
6)「坂戸よさこい」HP,http://www.sakadoyosakoi.com/(accessed 2009,Oct.10)
7)「坂戸市」HP,http://www.jcp-sakado.net/news/2009.htm(accessed 2009,Oct.10)
8)侘美靖,森谷n(2005),YOSAKOIソーラン祭り参加による運動量増加と体力の向上.日生気誌,42(4),145-157
9)侘美靖(2006),北国における運動の生活化と心身の健康度向上―健脚度関連体力とメンタルヘルス向上からの検討―.北海道大学大学院教育学研究科紀要,99,76-84
10)侘美靖,森谷n(2006),YOSAKOIソーラン祭り参加による感情とメンタルヘルスの改善.日生気誌,43(4),117-129
11)侘美靖,森谷n(2008),YOSAKOIソーラン祭り参加者の取り組み意識と健康づくりへの影響.北海道文教大学研究紀要,第32号,33-47
12)東京カペラ・健康ソーラン,http://www.capella-yosakoi.net/kenko-Lesson.html (accessed 2009,Oct.10)
13)日本共産党坂戸市議団ニュース「坂戸よさこい,6千人が競演」(2008.9.30)
14)長谷川伸,長谷川亜弓(2005),YOSAKOIソーラン祭りと転倒予防効果.CLINICIAN'05,No.539,113-119
15)矢島妙子(2003),『よさこい』系祭りの全国展開の分析―伝播をめぐる統合的枠組基礎として,現代風俗学研究9
16)「よさこい祭り」HP,http://www.yosakoi.com/ (accessed 2009,Oct.10)
17)「YOSAKOIソーラン祭り」http://www.yosakoi-soran.jp/(accessed 2009,Oct.30)

IX .資料

資料1 楽曲「坂戸よさこい」

資料2 アンケート調査項目