「気づきスコア®」の‘身体の調子’に関する検討
―健康体操実施において―

An Investigation of the ‘Physical Condition Scale’ in the “Self-Awareness Score”
- When Gymnastic Exercises Are Implemented -

            三浦玲子(芝浦工業大学工学部非常勤講師)
               remi@doitsu.tv
            小嶋紀子(慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程)
            澤田弘子(健康運動指導士 エンドース ユア ライフ合同会社)

Reiko Miura (Part-time Lecturer, Department of Health and Physical Education, Faculty of Engineering , Shibaura Institute of Technology)
Noriko Kojima (Master course, Graduate School of Business Administration, Keio University)
Hiroko Sawada (Endorse Your Life, LLC)

[Abstract]

 Throughout the many years of gymnastic exercise class instructions, our aim has been to enable subjects to acquire the ability to manage their own health, based on the idea that one should take responsibility for maintaining one’s own health. We believe, as stated by Kawamorita et al., that the ability to self-manage health entails being able to comprehend one’s mental and physical conditions and to practice healthy behaviors in a self-directed manner. We believe that in putting these healthy behaviors into practice, it is important for subjects to be able to ascertain changes in their mental and physical conditions within their day-to-day activities. This act of ascertaining one’s mental and physical conditions is what we have termed “self-awareness”, and we have developed the “Self-Awareness Score” as a scale to monitor changes in the subject’s conditions. We positioned the “Self-Awareness Score” as a scale to monitor any changes in mental and physical conditions resulting from gymnastic exercise. The scale is separated into two factors, the mental condition and the physical condition, and its purpose is to provide a way to visualize and understand subjective evaluations.
 The purpose of this round of research was to focus on and investigate the physical condition scale of the “Self-Awareness Score” by utilizing physical strength and fitness tests, step count recording, and a questionnaire regarding changes in mental and physical conditions. The subjects of the research were attendees of the Health Promotion courses in the Center for Lifelong Learning and Extension Programs at the Shibaura Institute of Technology. The group (all residents of Saitama City) comprised 4 males and 11 females for a total of 15 people. The average age of the males was 53.5 years old, 50.5 years old for females and the group average was 51.3 years old (±11.6). In the period from October 13th through November 17th 2007, in addition to lectures on exercising, a total of five classes were implemented, each comprising approximately 90 minutes of gymnastic exercises.
 The results of this round of research showed no significant differences in the mean values of the measurements taken before and after the course between the “Self-Awareness Score” physical condition scale and each of the following items: physical strength and fitness tests, step count recordings, and results in the questionnaire on changes in mental and physical conditions. No correlation between the above items was found as well. This suggests that there is no relationship between the physical condition scale and the measured items.
 On the other hand, the results from the questionnaire regarding changes in mental and physical conditions and the “Self-Awareness Scores” showed that subjects both actually felt and became aware of changes in their mental and physical conditions. From this, we believe that through self-awareness, subjects were able to comprehend their mental and physical conditions, and that this can lead to the subjects acquiring the ability to manage their own health.

Keywords:Self-Awareness Score, Personal Health Management Ability, Physical Condition Scale, Gymnastic exercise, Measurement

I .はじめに

 長年携わってきた健康体操教室において、自分の健康は自分で守るという自己の健康管理能力の習得を目指してきた。この健康管理能力とは川守田ら(2008)もいうように、心身の状態を把握し、自律的な健康行動をとることと考える。この健康行動を実践するためには、日常生活活動を通して、心身の変化を確認することが重要と考えた。この確認作業は心身の変化の「気づき」であり、この変化を確認する尺度として気づきスコアを発案した(三浦ら,2006)。近年、運動実施における心理的効果の評価尺度として、MCL-3(橋本ら,1995) 、WASEDA(荒井ら,2003)、SEES-J(鍋谷ら,2001)などがあるが、気づきスコアは健康体操による心と身体の変化を確認する尺度と位置付けた。気づきスコアの尺度の項目を心の調子と身体の調子の2因子にわけ、主観的な評価を視覚的に図示し把握する尺度とした。
 先の報告(三浦ら,2007-1,2007-2,2008)では、健康体操実施前後で行った気づきスコアの心の調子と身体の調子は、何れも有意な差がみられた。また気づきスコアは主観的な評価の為、評価の妥当性について、POMS(横山ら,1994)を用いて検討を行った。健康体操実施前後のPOMSの比較では、緊張、抑うつ、怒り、疲労、混乱が有意に低い値を示し、活気は有意に高い値を示した。また気づきスコアの心の調子とPOMSとの相関関係で、健康体操実施
後では緊張、抑うつ、怒り、疲労と関係が得られた。気づきスコアの身体の調子とPOMSとの相関関係では、緊張以外の項目と関係が得られなかった。
 気づきスコアの身体の調子の評価の妥当性について、身体の変化を確認できる尺度や測定との再検討の必要性があった。この検討の機会を、芝浦工業大学生涯学習センターの健康づくり講座において得ることができた。

II .目的

 気づきスコアの尺度項目である身体の調子に着目し、体力測定、歩数記録、心身の変化に関するアンケート調査を用いて検討することを目的とした。

III .方法

1.対象者
 対象者は、芝浦工業大学生涯学習センターで行われた健康づくり講座受講者(さいたま市在住)で、男性4名、女性11名、合計15名だった。平均年齢は、男性53.5歳、女性50.5歳、男女平均年齢51.3歳(±11.6)であった。

2.実施スケジュール
 2007年10月13日から11月17日の期間中、表1のとおりに実施した。


表1 実施スケジュール

講座1回目
10/13
講座2回目
10/20
講座3回目
10/27
講座4回目
11/10
講座5回目
11/7
運動講義
体力測定
運動実技
気づきスコア
アンケート
歩数記録

3.講座内容
1)運動講義
(1)運動の必要性と効果
  ・体重のコントロール
  ・姿勢矯正
(2)筋コンディショニングの具体的方法
2)体力測定
(1)仰臥姿勢下肢屈曲引き上げ:仰臥姿勢で身体の横に両手をおき、両脚(股関節・膝関節屈曲)を上げて準備する。この姿勢より、腰部を床から浮かせ持続時間を記録した。(以下文中腹筋力テストとする)(単位:sec)
(2)長座体前屈:文部科学省の「体力・運動能力調査」に準じ、実施した。(単位:cm)
(3)閉眼片脚立ち:文部科学省の「体力・運動能力調査」に準じ、実施した。(単位:sec)
(4)開眼片脚立ち:文部科学省の「体力・運動能力調査」に準じ、実施した。(単位:sec)
(5)形態測定:身長(cm)、体重(kg)、腹囲(cm)、体脂肪率(%)(タニタ体組成計8電極計測方式)
3)健康体操
(1)全身運動:心拍数を上げる運動と動きの組合せによる調整力の養成
(2)ストレッチ:日常動作を円滑にするための関節可動域の確保
(3)補強運動:筋力の維持向上と日常動作の偏りによる筋力バランスの矯正
(4)歩行運動:正しい姿勢と効率の良い歩き方の学習
4)気づきスコア
 体操指導の現場において、実施者が運動前後の心身の変化をみる質問紙として、心の調子と身体の調子を2因子同時に調査するものである。因子それぞれを5段階にわけ、1を低い5を高い評価基準とした。(図1)横軸に心の調子、縦軸に身体の調子とし、その交わるエリアを図示したものである。(図2)これを毎回の健康体操実施前後に調査した。


図1 気づきスコア評価基準

図2 気づきスコア


5)心身の変化に関するアンケート
 講座5回目に、独自に作成したアンケート全15問を実施した。(図5)内容は、身体面、精神面、社会面、日常生活面に関するものである。
6)歩数記録
 講座1回目に歩数記録表を配布し、毎日歩数を記録し講座5回目に回収した。
4.検定方法

 平均値の差は対応のあるT検定で行った。体力測定は講座の1回目と4回目、歩数記録は1週目と5週目の平均値で行い、気づきスコアは、講座の2回目と5回目の健康体操後で行った。またピアソンの相関係数を用い、講座5回目の気づきスコアの身体の調子の結果と体力測定・歩数記録・心身の変化に関するアンケートとの相関関係をみた。

IV .結果

 平均値の差の検定に関する結果は、講座の1回目と4回目に実施した体力測定で、男性は腹筋力テスト・長座体前屈・閉眼片足立ち・開眼片足立ち全ての種目で、有意な差はみられなかった。女性は腹筋力テストで有意な差(P<0.01)がみられたが、他の種目では有意な差はみられなかった。歩数記録においては、1週目と5週目の平均値で男性、女性ともに有意な差はみられなかった。気づきスコアにおける身体の調子の変化は、講座の2回目と5回目の健康体操実施後で比較したが、有意な差はみられなかった。(図3)また、相関関係については、講座5回目の健康体操実施後の身体の調子の変化と、4回目の体力測定、5週目の歩数記録、講座5回目の心身の変化に関するアンケートとの関係はみられなかった。


            **p< 0.01 *p< 0.05
図3 健康体操前後の気づきスコア「身体の調子」の変化


            **p< 0.01 *p< 0.05
図4 健康体操前後の気づきスコア「心の調子」の変化


図5 心身の変化に関するアンケート結果

V .考察

 今回の結果では、体力測定、歩数記録、心身の変化に関するアンケートのそれぞれと、気づきスコアの身体の調子との関連をみたが、講座前後での平均値の差、相関関係何れも見られず、身体の調子の評価基準と、検討項目との関連性がみられなかったことを示唆する。
 一方で、心身の変化に関するアンケートでは、身体への気づきが意識や行動の変化を促す回答が得られた。「姿勢について意識するようになった(73.3%)」「運動への意識が以前より高まった(66.7%)」「できるだけ歩くようになった(53.3%)」「積極的に身体を動かすことが多くなった(53.3%)」「気分がすっきりしていることが多くなった(53.3%)」であった。(図5)これは、健康体操の実施により、心身の変化を実感したと考えられる。
 気づきスコアの結果は、先の報告(三浦ら,2007-1,2007-2,2008)と同様に心の調子、身体の調子で毎回の健康体操実施前後で有意な差がみられた。また健康体操実施後の気づきスコアの変化では、健康体操初回(講座2回目)と健康体操最終回(講座5回目)の身体の調子は有意な差はみられなかったが、心の調子では有意な差がみられた。この結果は健康体操による心身の変化を確認したと示唆される。(図4)
 運動効果の報告には、身体機能向上のほか、運動意欲への効果、抑うつ感の改善や心理的QOL、脚力、バランス能力に加え主観的健康感の向上などの心理的・精神的効果などがあると渡辺ら(2007)が述べている。本研究では、心身の変化に関するアンケートと気づきスコアの結果において、心身の変化の実感と変化の確認が得られ、気づきを通して主観的健康感の向上がみられた。この心身の変化の実感と確認が得られたことは、心身の状態把握ができていたと考えられ、これが自己の健康管理能力の習得に繋がる(川守田ら,2008)と考えられる。
 今後も、気づきスコアの評価基準の検討を行い、気づきスコアの有用性を目指したい。

VI .まとめ

 健康体操実施後は実施前と比較して心の調子、身体の調子ともに有意に向上することが確認された。講座前後で実施した体力測定では、男性は腹筋力テスト・長座体前屈・閉眼片足立ち・開眼片足立ち全ての種目で有意な差はみられなかった。女性は腹筋力テストで有意な差(P<0.01)がみられたが、他の種目では有意な差はみられなかった。歩数記録では、男性・女性ともに有意な差はみられなかった。また、気づきスコアにおける身体の調子と、体力測定、歩数記録、心身の変化に関するアンケートとの相関関係はみられなかった。

VII .参考文献

1)荒井弘和,竹中晃二,岡 浩一郎(2003)一過性運動に用いる感情尺度―尺度の開発と運動時における感情の検討―,健康心理学研究,Vol.16,No.1,pp.1-10
2)橋本公雄,徳永幹雄 (1995)感情の3次元構造論に基づく身体運動特有の感情尺度の作成 ―MCL-3尺度の信頼性と妥当性―,健康科学,No.17,pp.43-50
3)川守田千秋,渡部鐐二,増田敬子 (2008)健康体操教室参加者の2年間の生活活動の変化,運動とスポーツの科学,Vol.14 No.1,pp.129-134
4)三浦玲子,小嶋紀子,澤田弘子他(2006)体操による健康の自己管理能力を高めるための取組み,レジャー・レクリェーション学会第57号第36回大会発表論文集,p.108
5)三浦玲子,小嶋紀子,澤田弘子他 (2007-1)体操による健康の自己管理能力を高めるための取組み,レジャー・レクリェーション学会第59号第37回学会大会発表論文集,p.70
6)三浦玲子,小嶋紀子,澤田弘子他 (2007-2)体操による健康の自己管理能力を高めるための取組み,日本体操学会第7回大会号,pp.30-31
7)三浦玲子,浜野 学,小嶋紀子他 (2008)心身への影響をみる「気づきスコア」とPOMSの比較,芝浦工業大学研究報告,Vol.42,No.2,pp.193-196
8)鍋谷 照,徳永幹雄,楠本恭久(2001)日本語版主観的運動体験尺度の作成とその適用の試み,スポーツ心理学研究,Vol.28,No.1,p.43
9)渡辺みどり,征矢野あや子,上原ます子 (2007)健康体操教室に長期参加し続けた地域高齢者の経験,身体教育医学研究,Vol.8,pp.45-52
10)横山和仁他(1994)日本版POMS手引,金子書房