健康増進施設としての公園利用に関する研究 第2報

—タイ、ルンピニ公園の2004年と2012年の早朝運動実施者への 
アンケート調査から健康増進施設としての公園の可能性を探る—

Study on Park-Utilization as Health-Enhancement Facilities -Second Report

– Investigating a possibility of utilizing parks as health-enhancement
facilities based on the questionnaire surveys conducted to the participants
in early-morning exercise at Lunpini Park, Thailand, in 2004 and 2012 –

金子嘉徳(女子栄養大学)
kaneko@eiyo.ac.jp
鞠子佳香(女子栄養大学)
長谷川千里(女子栄養大学)

Yoshinori Kaneko(Kagawa Nutrition University)
Yoshika Mariko(Kagawa Nutrition University)
Chisato Hasegawa(Kagawa Nutrition University)

[Abstract]

 The authors conducted a questionnaire survey to the participants in early-morning exercise at the Lunpini Park, Thailand, in 2004 as a preliminary case study of utilization of parks as health-enhancement facilities. We conducted the survey in 2012 again in order to confirm the change in the state of implementation after years of time passage, and in order to get a hint of extensive usage of parks in Japan. In both cases, the majority of respondents were men over 60 years and women between 40 and 60 years. A large percent of respondents’ occupation included, self-owned business, freelance professional, full-time housewife, and the unemployed. The aim of doing the exercise was mostly “for the enhancement of health”. Most of them participated in the exercise every day or 5 to 6 days a week coming to the park by 6 o’ clock in the early morning and spending 2 to 3 hours in the park. In 2004, popular types of exercise for men were, walking, taijiquan, and qigong. In 2012, they were mainly walking and jogging. For women, both in 2004 and in 2012, popular types were mostly walking and aerobics. The largest merit of continuing the exercise, they answered, was “they have become disease resistant.” The most attractive features of the park, they answered, were, “it was abundant in nature”, and “there were mates to do exercise together”. Almost all of the respondents answered that the exercise at the Lunpini Park occupied a “necessary part in their life”. It was suggested that the early-morning exercise at the Lunpini Park has become their habit as an important part of their life.

Keywords : park, health enhancement, Lunpini Park, early-morning exerciser

I .はじめに

 超高齢化時代を迎えた今日の日本において、健康長寿の延伸は重要な課題となっている。それは個人の幸せだけでなく、年間37兆円にものぼる医療費や介護費の増大化に歯止めをかけることにつながることから、国全体の課題として取り組みが進められている。健康日本21や特定検診などの健康政策が次々に打ち出され、それを受けた各自治体においても有効な対策の模索を続けている。このような取り組みの中でも、特に思うように改善が進まないのが、運動習慣者の増加である。平成23年10月の健康日本21の最終評価においても、意識的に運動を心がけている人の割合は増加したものの、運動習慣者の割合は変わらず、日常生活における歩数量も目標値に達することはできなかった。その結果を受けて、運動・身体活動の重要性は理解しているが、行動に移せない人々へのアプローチが必要であるとしている。
 2011年には文部科学省から「スポーツ基本法」が施行され、厚生労働省からは「健康づくりのための運動指針2006」に続き「健康づくりのための身体活動基準2013」も示されている。しかし「平成23年度国民健康・栄養調査」の結果では、運動習慣のある者の割合は男性35.0%、女性29.2%しかないのが現状である。
 運動の習慣化を難しくしている要因の一つとして、運動場所の問題があると考えられる。生涯を通じて一人一人に合った適度な運動を続けることのできる健康増進施設を整備することが必要である。その一つとして、近年、公園緑地が注目されている。小野(2003)や小坂(2004)によると、初めに公園の運動場化が提案され、運動器具等が設置されるようになったのは明治時代であった。近年は少子化の影響もあり、滑り台やブランコのような子供用遊具の代わりに、運動器具の設置やジョギング・ウォーキングコースを設ける公園がさらに増えてきている。全国に約10万カ所ある生活空間に隣接した都市公園を健康づくりの場として積極的に利用することは、新しい運動施設の建設などに比べコストもかからず、利用者の金銭的な負担もほとんどない。また公園のような屋外の運動には、自然に触れることによるリラックス効果や、人とのコミュニケーションの機会の増加にもつながると、霊山(2010)や森本(2012)らが述べている。さらに高齢者が近隣の公園での適度な運動を継続することができれば認知症予防効果も期待されると肥後(2012)が報告している。
 近年の公園の健康づくりへの利用事例を、日本公園緑地協会(2012)では多数報告しているが、多くの公園ではまだ十分に活用されているとは言えない。朴ら(2011)の報告でも、日本の公園の健康器具の活用実態は、中国などと比較するとまだ改善が必要であると述べている。公園での運動利用の広範化には、運動しやすい公園にするための環境整備というハード面の支援と、設置された運動器具やジョギング・ウォーキングコースの活用のためのフォローアップや健康づくり運動の講習会の開催などのソフト面の支援が必要であると考える。
 そこで、すでに公園が健康づくりの拠点となっている事例の多い東南アジア諸国の公園における運動利用者の実態を調査することで、具体的な改善のヒントが得られのではないかと考えた。すでに中国については李華ら(2008,2009)が、韓国については梁在濬ら(1998)が、台湾については李威儀ら(1995)が、それぞれ公園の利用実態を報告している。これらの国では、早朝に公園に集まり、ウォーキング、ジョギングをはじめ、集団による太極拳、ダンス、ヨガのほか、歌謡、凧揚げなど、さまざまな趣味的活動や仲間との談笑で過ごす者が多くみられる。李ら(2008)による上海市黄浦公園の報告例では、調査期間中の朝6時台から9時台の平均公園利用者は471名で、そのうち35%が武術類、21%がスポーツ類の活動を行っていたと報告している。
 今回の調査地としたタイの首都バンコクにあるルンピニ公園も、このような早朝運動習慣者が大変多い公園である。オフィス街の真ん中にある大きな緑地で、さまざまな設備も整っており、総合的な健康増進施設としてのモデルとなる公園であると考えられる。筆者らは、2004年に1回目の調査を行い、その結果を2007年に報告した。その後バンコクでは、反政府デモの多発など不安定な社会情勢が続き、大きな洪水被害もあった。そのような社会の変化を経て、公園の早朝運動利用にどのような変化が見られるのか、2012年ルンピニ公園で2回目の調査を実施した。これらの結果を基に、日本における健康増進施設としての公園利用の広範化を図るための問題点やその解決の糸口について考えてみたい。

II .研究の目的

 本研究は、タイのルンピニ公園における早朝の運動実施者を対象として、2004年と2012年にアンケート調査を実施し、公園での運動の実態について把握することで、日本における公園の運動利用の広範化に関する基礎的な資料を得ることを目的とした。

III .方法

1.調査地
 タイの首都バンコクにあるルンピニ公園を調査地とした。総面積は57.6万m2で、園内には緑が多く大きな池のある都会の中のオアシス的な公園である (図1)。バンコクは日中暑いため、一日のうちでも運動に適した朝や夕方に運動者が多く見られる。早朝の運動習慣のある華僑の人々をはじめ、朝の公園を訪れると多くの運動者の姿を見ることができる (写真1-3)。公園内の運動施設としては、約2.5kmのジョギング・ウォーキングコース、健康運動器具、バスケットボール場のほか、ユースセンター内にスポーツジム、テニスコート、スイミングプールなどもある。

 
    図1 バンコク、ルンピニ公園周辺


 

2.調査日
 1回目:2004(平成16)年3月23日〜25日
 2回目:2012(平成24)年8月23日

.調査方法
 早朝のルンピニ公園で運動をしていた人々を対象として、無記名のアンケート調査を実施した。調査票は日本語で作成した後、タイ語、中国語による調査票を作成し、運動実施者の回答しやすい言語による調査票に、その場で記入してもらった(資料1)。2004年、2012年ともに同じ調査票を用いて同様の方法で実施した。得られた回答票数は、2004年が54名、2012年が93名であった。

.調査項目
 1) 回答者の属性(3問)
 2) ルンピニ公園での運動の目的ときっかけ(2問)
 3) ルンピニ公園での継続運動年数と公園で運動を始める前の運動歴(2問)
 4) 自宅からルンピニ公園までの所要時間と手段(2問)
 5) ルンピニ公園での運動頻度(1問)
 6) ルンピニ公園への来園時間、在園時間、実際の運動時間(3問)
 7) 一緒に運動をしている人数、誰と運動をしているか(2問)
 8) ルンピニ公園で行なっている運動の種類、毎日の運動内容、誰に教わっているか(3問)
 9) 用具や音楽の使用の有無(2問)
 10) ルンピニ公園以外での運動について(4問)
 11) 今後やってみたい運動(1問)
 12) ルンピニ公園で運動を継続してよかったこと(1問)
 13) ルンピニ公園の魅力(1問)
 14) 日常生活における運動不足感(1問)
 15) ルンピニ公園での運動が生活に占める大切さ(1問)
 以上の計29問である。

.統計処理
 結果は男女別に集計し、2004年と2012年の結果を比較検討した。統計処理にはExcel 2010を使用し、カイ二乗検定の結果、p<0.05を有意水準とした。

.倫理的配慮
 調査協力依頼書を調査票に添付し、本研究の概要、目的、方法、倫理的配慮等について明記した。被験者へは依頼書に沿って口頭での説明を行い、同意を得た。なお、本研究は香川栄養学園実験研究に関する倫理審査委員会の承認(第202号・平成24年3月14日)を得ている。

IV .結果

1.回答者の属性

1)性別(図2)
 2004年の回答者は「男性」17名(31.5%)「女性」37名(68.5%)、2012年は「男性」33名(35.5%)、「女性」60名(64.5%)であった。

2)年齢(図3)
 男性は 「60歳代」 以上の割合が高く、2004年は約9.5割、2012年も約8割を占めた。
 女性は 「40歳代」 から 「60歳代」 の運動者の割合が高く、2004年は約8割、2012年も約7割を占めた。2004年2012年とも男女の年齢構成には有意な差が見られた (p<0.05, p<0.01)

3)職業(図4)
 男性は、2004年、2012年とも「自営業」が最も多く、それぞれ6名(37.5%)、11名(33.3 %)と全体の約3割を占めた。2004年は次いで「自由業」3名(18.8%)、「公務員」2名(12.5 %)、「無職」2名(12.5%)の順であった。2012年は「無職」が11名(33.3%)に増え、次が「自由業」5名(15.2%)であった。
 女性は、2004年、2012年とも「専業主婦」の割合が最も多く、それぞれ13名(35.1%)、26名 (43.3%) であった。2004年は次いで「自営業」11名 (29.7%)、「自由業」7名(18.9%)で、2012年は「自由業」11名 (18.3%)、「自営業」10名 (16.7%) の順であった。2012年の男女の間には有意な差が見られた (p<0.001)。

2.ルンピニ公園での運動の目的ときっかけ

1) ルンピニ公園で運動をする目的(複数回答)(図5-1,5-2)
 男性は、 2004年、2012年とも「健康のために」が最も多く、それぞれ13名(81.3%)、29名(87.9%)と全体の約8割が回答した。次いで「仲間との会話(コミュニケーション)」にそれぞれ7名(43.8%)、16名(48.5%)と約4割が回答した。
 女性も2004年、2012年ともに「健康のために」が最も多く、それぞれ36名(97.3%)、58名(96.7%)とほぼ全員が回答した。次に多かった「仲間との会話」については、2004年の10名(27.0%)に対して2012年は43名(71.7%)と大きく増加した。「気分転換」も2004年の4名(10.8%)から2012年では16名(26.7%)と目立って増加した。

2) ルンピニ公園で運動を始めたきっかけ(複数回答)(図6-1,6-2)
 男性は、2004年では「家族・友人に誘われて」5名(38.5%)、「通りかかって公園で運動をしている様子を見て」4名(30.8%)、「パンフレットを見て」4名(30.8%)であった。2012年では「家族・友人に誘われて」が最も多く12名(41.4%)で、次いで「通りかかって公園で運動をしている様子を見て」10名(34.5%)であったが、「パンフレットを見て」はいなかった。「その他」9名(31.0%)の内訳は、「医者に運動を薦められた」などの健康上の理由が見られた。
 女性は、2004年では「通りかかって公園で運動をしている様子を見て」が最も多く16名(51.6%)で、続いて「家族・友人に誘われて」11名(35.5%)、「パンフレットを見て」6名(19.4%)の順であった。2012年では「家族・友人に誘われて」が38名(44.2%)で最も多く、「公園で運動している様子を見て」は9名(10.5%)に減少し、「パンフレットを見て」はいなかった。

3.ルンピニ公園での継続運動年数と公園で運動を始める前の運動歴

1) ルンピニ公園で運動を始めてからの年数(図7)
 男性は、 2004年では「16〜20年」6名(37.5 %)、「21年以上」5名(31.3%)で継続年数16年以上が全体の約7割を占めた。2012年になると「21年以上」が13名(39.4%)と最も多く、次が継続年数の少ない「1〜5年」8名(24.2%)であった。
 女性は、2004年では「6〜10年」11名(29.7 %)、「1〜5年」9名(24.3%)で、継続年数10年以下の割合の方が多かった。2012年になると「1〜5年」が17名(28.3%)で最も多く、次が「21年以上」16名(26.7%)、「11年〜15年」11名(18.3%)であった。

2) ルンピニ公園で運動をする前の継続的な運動経験(図8)
 「ルンピニ公園で運動する前にどこかで継続的に運動を行っていましたか」を尋ねたところ、男性で 「行っていた」 と回答したのは、2004年は6名(40.0%)、2012年は13名(46.4 %)で、どちらも「行っていなかった」者の割合の方が高かった。
 女性も「行っていた」と回答したのは、2004年は10名(28.6%)、2012年は15名(25.9%)で、やはり 「行っていなかった」 者の割合の方が高かった。

4.自宅からルンピニ公園までの所要時間と手段

1) ルンピニ公園までの所要時間(図9)
 男性は、2004年では「10分以上20分未満」「30分以上40分未満」が4名(28.6%)で最も多く、次いで「20分以上30分未満」が3名(21.4%)であった。2012年でも「10分以上20分未満」が11名(40.7%)で最も多く、次いで「20分以上30分未満」6名(22.2%)、「30分以上40分未満」10名(14.8%)であった。
 女性の2004年でも「10分以上20分未満」が12名(38.7%)で最も多く、次いで「20分以上30分未満」8名(25.8%)、「30分以上40分未満」5名(16.1%)であった。2012年では「20分以上30分未満」22名(40.7%)が最も多く、次いで「10分以上20分未満」14名(25.9%)、「30分以上40分未満」10名(18.5%)であった。
 男女とも「10分以上20分未満」「20分以上30分未満」「30分以上40分未満」の回答が多く、この3つを合わせると全体の約8割を占めた。

2) ルンピニ公園までの交通手段(図10)
 男性は、2004年では「車」が9名(60.0%)で最も多く、次いで「徒歩」3名(20.0%)、「バス」2名(13.3%)であった。2012年も「車」が14名(42.4%)で最も多く、次いで「バス」8名(24.2%)、「徒歩」4名(12.1%)、「自転車」3名(9.1%)であった。
 女性の2004年でも「車」が最も多く22名(61.1%)で、次いで「バス」11名(30.6%)であった。2012年も「車」が30名(50.0%)で最も多く、次いで「バス」12名(20.0%)、
「徒歩」10名(16.7%)であった。

5.ルンピニ公園での運動頻度(図11)
 「あなたはこの公園に1週間に何回運動をしに来ますか」を尋ねたところ、男性は、2004年では「毎日」が14名(87.5%)で約9割を占め、「週5〜6回」、「週3〜4回」が1名(6.3%)ずつであった。2012年でも「毎日」が19名(59.4%)で約6割を占め、次いで「週3〜4回」6名(18.8%)、「週5〜6回」4名(12.5%)、「週1〜2回」3名(9.4%)であった。
 女性の2004年も「毎日」が27名(79.4%)で全体の約8割を占め、次いで「週5〜6回」6名(17.6%)、「週3〜4回」1名(2.9%)であった。2012年も「毎日」が27名(45.0%)と最も多く、次いで「週5〜6回」14名(23.3%)、「週3〜4回」12名(20.0%)、「週1〜2回」5名(8.3%)で、「月1〜2回」も2名(3.3%)いた。女性は2004年に比べ2012年の方が「毎日」の回答が減少し、運動の頻度が有意に少なくなる傾向が見られた(p<0.01)。

6.ルンピニ公園への来園時間、在園時間、実際の運動時間

1)来園時間(図12)
 男性は、2004年では「4時〜5時前」が6名(37.5%)で最も多く、次いで「5時〜6時前」5名(31.3%)、「6時〜7時前」4名(25.0%)であった。2012年では「5時〜6時前」12名(42.9%)が最も多く、次いで「4時〜5時前」9名(32.1%)、「6時〜7時前」5名(17.9%)であった。
 女性は、2004年では「5時〜6時前」が18名(51.4%)で最も多く、次いで「4時〜5時前」13名(37.1%)、「6時〜7時前」4名(11.4%)であった。2012年も最も多かったのが「5時〜6時前」で29名(49.2%)であったが、次に多かったのは「6時〜7時前」19名(32.2%)で、次いで「4時〜5時前」11名(18.6%)であった。女性は2004年に比べ2012年では来園時間が有意に遅くなる傾向が見られた(p<0.05)。

2)在園時間(図13)
 男性は、 2004年では「2時間以上3時間未満」が7名(43.8%)で最も多く、次いで「3時間以上4時間未満」「1時間以上2時間未満」がそれぞれ4名(25.0%)で、「4時間以上5時間未満」も1名(6.3%)いた。2012年も「2時間以上3時間未満」が9名(34.6%)で最も多く、次いで「3時間以上4時間未満」8名(30.8%)、「1時間以上2時間未満」4名(15.4%)で、「4時間以上5時間未満」も3名(11.5%)、「5時間以上」も2名(7.7%)いた。
 女性の2004年も「2時間以上3時間未満」が15名(41.7%)で最も多く、次いで「3時間以上4時間未満」11名(30.6%)、「4時間以上5時間未満」6名(16.7%)、「1時間以上2時間未満」4名(11.1%)であった。2012年も「2時間以上3時間未満」が27名(47.4%)で最も多かったが、次に多かったのは「1時間以上2時間未満」19名(33.3%)で、次いで「3時間以上4時間未満」9名(15.8%)、「5時間以上」2名(3.5%)であった。2012年の女性は同じ年の男性や2004年の女性よりも在園時間が有意に短い傾向が見られた(p<0.05,p<0.001)

3)実際に運動をしている時間(図14)
 「公園にいる時間のうち運動をしているのは何分くらいですか」を尋ねたところ、男性は、2004年では「45分位」が6名(40.0%)で最も多く、次いで「1時間30分以上」5名(33.3%)であった。2012年は「1時間位」が14名(45.2%)で最も多く、次いで「1時間30分以上」7名(22.6%)、「45分位」6名(19.4%)であった。
 女性は、2004年では「1時間位」が17名(48.6%)で最も多く、次いで「1時間30分以上」10名(28.6%)であった。2012年でも「1時間位」が24名(40.7%)で最も多く、次いで「1時間30分以上」17名(28.8%)であった。
 2004年の男女では、女性の方が有意に長い傾向が見られた(p<0.05)

7.一緒に運動をしている人数、誰と一緒に運動しているか

1)一緒に運動する人数(図15)
 「あなたは公園でいつも何人ぐらいで運動しますか」を尋ねたところ、男性は、2004年では「6〜10人」が5名(31.3%)で最も多く、次いで「11〜20人」「1人」がそれぞれ4名(25.0%)であった。2012年では「11〜20人」「2〜5人」がそれぞれ8名(26.7%)で多く、次いで「1人」7名(23.3%)であった。
 女性は、2004年では「11〜20人」が19名(51.4%)で最も多く、次いで「21人以上」8名(21.6%)であった。2012年では「2〜5人」が21名(35.6%)で最も多く、次いで「6〜10人」17名(28.8%)、「1人」10名(16.9%)であった。女性の2004年では「11人以上」の回答の合計が全体の約7割を占めたのに対し、2012年では「10人以下」の合計が約8割を占めており、一緒に運動する人数が有意に少くなる傾向が見られた(p<0.001)。

2)一緒に運動をしている仲間(複数回答)(図16-1,16-2)
 「一緒に運動をしているのはどなたですか」と尋ねたところ、男性は、2004年では「同好会(サークル)」が5名(33.3%)と最も多く、次いで「家族」4名(26.7%)、「友人」「隣人」それぞれ3名(20.0%)であった。2012年では「友人」が13名(52.0%)と最も多く、次いで「同好会(サークル)」9名(36.0%)、「家族」4名(16.0%)、「老人会」3名(12.0%)であった。
 女性は、2004年では「友人」が15名(42.9%)で最も多く、次いで「家族」10名(28.6%)、「同好会(サークル)」9名(25.7%)「老人会」11.4%「隣人」8.6%の順であった。2012年も「友人」が32名(62.7%)で最も多く、次いで「同好会(サークル)」10名(19.6%)、「家族」「老人会」がそれぞれ7名(13.7%)、「隣人」6名(11.8%)であった。

8.ルンピニ公園で行なっている運動の種類と運動を教わった相手

1)ルンピニ公園で行なっている運動の種類(複数回答)(図17-1,17-2)
 男性は、2004年では「太極拳」7名(43.8%)が最も多く、次いで「ウォーキング」「気功」それぞれ5名(31.3%)、「ダンス」3名(18.8%)、「ジョギング」「エアロビクス」それぞれ2名(12.5%)の順であった。2012年では「ウォーキング」「ジョギング」がそれぞれ14名(45.2%)で最も多く、次いで「ウエイトトレーニング」5名(16.1%)、「太極拳」4名(12.9%)、「体操」3名(9.7%)の順であった。
 女性は、2004年では「ウォーキング」17名(47.2%)が最も多く、次いで「エアロビクス」15名(41.7%)、「太極拳」13名(36.1%)、「気功」8名(22.2%)、「ダンス」6名(16.7%)、「ストレッチ」5名(13.9%)、「ジョギング」「体操」「ウエイトトレーニング」それぞれ4名(11.1%)の順であった。2012年でも「ウォーキング」が32名(54.2%)と最も多く、次いで「エアロビクス」22名(37.3%)、「体操」15名(25.4%)、「太極拳」12名(20.3%)、「ジョギング」11名(18.6%)、「ダンス」10名(16.9%)、「気功」「ウエイトトレーニング」それぞれ5名(8.5%)の順であった。

2)毎日の運動内容(図18)
 「あなたのする運動の内容は毎日同じですか」と尋ねたところ、男性は2004年では「ほぼ同じ」が13名(81.3%)と全体の約8割を占め、「毎日違う」が3名(18.8%)であった。2012年も「ほぼ同じ」が27名(87.1%)で全体の約9割を占めた。
 女性も2004年では 「ほぼ同じ」 が24名 (64.9%) で最も多く、「毎日違う」 が11名 (29.7%) であった。2012年も 「ほぼ同じ」 が42名 (72.4%) で最も多く、「毎日違う」 が15名 (25.9%) であった。

3)運動を教わった相手(複数回答)(図19-1,19-2)
 「あなたのする運動はどなたに教えてもらいましたか」と尋ねたところ、男性は2004年では「運動の先生」が7名(43.8%)で最も多く、次いで「家族・友人・知人」6名(37.5%)、「本・雑誌」1名(6.3%)であった。2012年では「その他」が13名(41.9%)で最も多く、その内訳を見るとほとんどが「自己流で」という回答であった。次いで「家族・友人・知人」10人(32.3%)、「運動の先生」7名(22.6%)、「テレビ」1名(3.2%)の順であった。
 女性は2004年では「運動の先生」が29名(90.6%)で最も多く、次いで「家族・友人・知人」3名(9.4%)、「本・雑誌」「テレビ」それぞれ1名(3.1%)であった。2012年でも「運動の先生」が30名(50.8%)で最も多く、次いで「その他」17名(28.8%)、「家族・友人・知人」12名(20.3%)、「本・雑誌」3名(5.1%)の順であった。

9.用具や音楽の使用

1)運動時の用具の使用の有無(図20)
 男性は、2004年では13名(86.7%)、2012年では21名(67.7%)で「使わない」の方が多かった。
 女性も、2004年では22名(61.1%)、2012年では33名(58.9%)が「使わない」の方が多かった。
 「使う」と回答した者に、使用している用具を尋ねたところ、棒、ひも、扇などの手具、ボール、フラフープ、公園内の健康運動器具等が挙げられた。

2)運動時の音楽の使用の有無(図21)
 男性は、2004年では「使う」の方が10名(62.5%)で多かったが、2012年は「使わない」の方が27名(90.0%)で多く、2004年との間に有意な差があった(p<0.001)。
 女性は、2004年では29名(78.4%)、2012年では31名(52.5%)が「使う」と回答したが、2012年の方が2004年よりも「使う」が有意に少なかった(p<0.05)。
 2012年の男女を比較すると、男性の「使う」は有意に少なかった(p<0.001)。

10.ルンピニ公園以外での運動

1)公園の運動の家での実施(図22)
 「あなたはこの公園でしている運動を家でも行っていますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では13名(81.3%)、2012年では23名(79.3%)が「行っていない」と回答した。
 女性も2004年では29名(78.4%)、2012年では42名(71.2%)が「行っていない」と回答した。

2)ルンピニ公園以外の公園での運動実施(図23)
 「あなたはこの公園以外の公園でも運動を行っていますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では10名(66.7%)、2012年では21名(75.0%)が「行っていない」と回答した。
 女性も2004年では29名(80.6%)、2012年では52名(91.2%)が「行っていない」と回答した。
 2012年の男女を比較すると、女性の「行っていない」の割合の方が有意に多かった(p<0.05)。

3)ルンピニ公園以外での講習会の参加(図24)
 「あなたは運動の講習会を公園以外で受けたことがありますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では11名(73.3%)、2012年では21名(75.0%)が「ない」と回答した。
 女性も2004年では31名(86.1%)、2012年では48名(84.2%)が「ない」と回答した。

4)発表会等での発表(図25)
 「あなたはこの公園でやっている運動を発表会等で発表したことがありますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では11名(73.3%)、2012年では21名(77.8%)が「ない」と回答した。
 女性も2004年では27名(75.0%)、2012年では49名(87.5%)が「ない」と回答した。

11.今後やってみたい運動 (複数回答) (図26-1,26-2)
 「現在やっている運動以外で何かやってみたい運動はありますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では「ウォーキング」3名(42.9%)、「ジョギング」2名(28.6%)、「太極拳」「気功」「エアロビクス」「体操」「ヨガ」がそれぞれ1名(14.3%)であった。2012年でも「ウォーキング」が5名(35.7%)で最も多く、次いで「太極拳」「気功」それぞれ2名(14.3%)、「ジョギング」「エアロビクス」「ダンス」「体操」「ウエイトトレーニング」「キックボクシング」それぞれ1名(7.1%)であった。「その他」5名(35.7%)の内訳はバスケットボールが多かった。
 女性は、2004年では「ウォーキング」が11名(40.7%)で最も多く、次いで「太極拳」8名(29.6%)、「エアロビクス」「ダンス」それぞれ7名(25.9%)、「体操」6名(22.2%)、「気功」「ヨガ」それぞれ5名(18.5%)、「ジョギング」「ストレッチ」それぞれ2名(7.4%)、「ウエイトトレーニング」1名(3.7%)であった。2012年では「ヨガ」が10名(34.5%)で最も多く、次いで「気功」「エアロビクス」それぞれ7名(24.1%)、「ウォーキング」6名(20.7%)、「太極拳」「体操」それぞれ5名(17.2%)、「ダンス」4名(13.8%)、「ジョギング」3名(10.3%)、「キックボクシング」1名(3.4%)であった。

12.ルンピニ公園で運動を継続してよかったこと(複数回答)(図27-1,27-2)
 男性は、 2004年では「病気をしにくくなった」が11名(73.3%)で最も多く、次いで「腰痛・肩こり等が解消した」10名(66.7%)、「食事がおいしい」「毎日が生き生きする」「姿勢がよくなった」それぞれ9名(60.0%)、「友達が増えた」7名(46.7%)、「肥満が解消した」「肌がきれいになった」それぞれ6名(40.0%)であった。2012年でも「病気をしにくくなった」が20名(64.5%)で最も多く、次いで「友達が増えた」17名(54.8%)、「食事がおいしい」「毎日が生き生きする」それぞれ14名(45.2%)、「腰痛・肩こり等が解消した」「姿勢がよくなった」「肥満が解消した」それぞれ8名(25.8%)、「肌がきれいになった」5名(16.1%)であった。
 女性の2004年も「病気をしにくくなった」が28名 (80.0%) で最も多く、次いで「毎日が生き生きする」27名 (77.1%)、「友達が増えた」24名 (68.6%)、「姿勢がよくなった」20名 (57.1%)、「腰痛・肩こり等が解消した」19名 (54.3%)、「食事がおいしい」14名 (40.0%)、「肌がきれいになった」10名 (28.6%)、「肥満が解消した」8名(22.9%)であった。2012年も「病気をしにくくなった」が44名 (75.9%) で最も多く、次いで「毎日が生き生きする」38名 (65.5%)、「腰痛・肩こり等が解消した」36名 (62.1%)、「食事がおいしい」29名 (50.0%)、「友達が増えた」25名 (43.1%)、「姿勢がよくなった」24名 (41.4%)、「肌がきれいになった」13名 (22.4%)、「肥満が解消した」8名 (13.8%) であった。

13.ルンピニ公園の魅力(複数回答)(図28-1,28-2)
 「あなたにとってこの公演の魅力はなんであると思いますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では「運動する仲間が多い」が9名(60.0%)で最も多く、次いで「自然が多い」7名(46.7%)、「自宅から近い」4名(26.7%)であった。2012年では「自然が多い」が24名(77.4%)で最も多く、次いで「運動する仲間が多い」20名(64.5%)、「自宅から近い」15名(48.4%)、「美しい」10名(32.3%)であった。
 女性は、2004年では「運動する仲間が多い」が24名(66.7%)で最も多く、次いで「自宅から近い」21名(58.3%)、「自然が多い」20名(55.6%)、「美しい」6名(16.7%)であった。2012年では「自然が多い」が50名(83.3%)で最も多く、次いで「運動する仲間が多い」43名(71.7%)、「自宅から近い」42名(70.0%)、「美しい」26名(43.3%)であった。

14.日常生活における運動不足感(図29)
 「あなたは日常生活の上で運動不足を感じることがありますか」と尋ねたところ、男性は、2004年では「感じない」が12名(80.0%)を占め、「時々感じる」3名(20.0%)であった。2012年も「感じない」が24名(77.4%)を占め、「時々感じる」6 名(19.4%)、「感じる」1 名(3.2%)であった。
 女性の2004年も「感じない」が27名(79.4%)を占め、「時々感じる」6名(17.6%)、「多いに感じる」1名(2.9%)であった。2012年も「感じない」が39名(66.1%)を占め、「時々感じる」19名(32.2%)、「多いに感じる」1名(1.7%)であった。

15.ルンピニ公園での運動が生活に占める大切さ(図30)
 「この公園での運動は、あなたの生活の中でどのくらい大切ですか」と尋ねたところ、男性は、2004年では「とても大切である」が10名(66.7%)を占め、「大切である」4名(26.7%)、「あまり大切でない」1名(6.7%)であった。2012年でも「とても大切である」が21名(67.7%)を占め、「大切である」9名(29.0%)、「ふつう」1名(3.2%)であった。
 女性の2004年でも「とても大切である」が30名(85.7%)を占め、「大切である」5 名(14.3%)であった。2012年も「とても大切である」が43名(71.7%)を占め、「大切である」17名(28.3%)であった。

 

V .考察

1.ルンピニ公園の運動者の特徴
 2004年、2012年とも、男性は60〜70歳代、女性は40〜60歳代の割合が高かった。職業は自営業、自由業という時間に融通のきく職種の者が多く、女性は専業主婦、男性は無職(内訳は退職者が多い)の割合が高かった。これらのことから、毎朝長時間公園で過ごすルンピニ公園の運動者の中心は、働き盛りの会社勤めの男女ではなく、時間にゆとりのある中高年者であることが伺える。
 また、ルンピニ公園で運動を始めてからの年数は、「21年以上」と「16年〜20年」を合わせると、男性の2004年は約7割、2012年は約5.5割、女性の2004年は約2.5割、2012年は約3.5割を占めており、長期の運動習慣者が多いことが伺える。一方「1〜5年」「1年未満」のまだ期間の短い者も男性の2004年は約1割、2012年は約2割、女性の2004年は約3割、2012年は約3.5割を占め、新しくルンピニ公園で運動を始める人々も多いことが伺える。

2.ルンピニ公園での運動の目的ときっかけ、来園手段
 ルンピニ公園での運動の目的は、2004年、2012年とも、「健康のために」が最も多く男性の約8割、女性の約9.5割が回答し、次いで「仲間との会話」で、2012年の女性は約7割の回答があった。健康づくりへの意識が高いこと、人とのコミュニケーションが運動の目的になることが推察される。ルンピニ公園で運動を始めたきっかけは、2004年、2012年とも「家族・友人に誘われて」が多く、コミュニケーションは運動を始める時にも大きな役割を果たすことが推察される。次いで2004男女、2012年男性では「通りかかって公園で運動をしている様子を見て」も多く、公園という運動場所の持つ、運動している様子を外から見ることができるという特徴が、新たに運動をしてみようという人々への動機づけになっていることが推察される。
 来園手段は「車」が多く、自宅からの所要時間も「10分以上20分未満」「20分以上30分未満」「30分以上40分未満」の割合がそれぞれ多い。ルンピニ公園は近所の人が集まる近隣の公園というよりも、健康づくりのために少し遠くからでも通うような公園であることが推察される。

3.公園で運動する頻度と来園時間、在園時間、運動時間
 ルンピニ公園で運動する頻度は、2004年、2012年とも「毎日」と回答した者が最も多く、「週5〜6回」を含めると2004年は男女とも約9.5割、2012年は男女とも約7割を占めた。日常的な運動習慣となっていることが伺える。
 来園時間は大変早く、2004年は男女とも「4時〜5時前」に約3.5割、「5時〜6時」を合わせると男性の約7割、女性の約9割を占めた。2012年も男性は2004年とほぼ同様の結果で、女性はやや遅くなる傾向が見られたものの「4時〜5時前」に約3.5割、「5時〜6時」を合わせると約7割を占めた。来園手段と所要時間を考えるとかなり早い時間に自宅をでて集まっていることがわかる。
 在園時間は2004年、2012年の男女とも「2時間以上3時間未満」が最も多い。しかし実際の運動時間で最も多かったのは2004年の男性では「45分位」、2004年の女性、2012年の男女では「1時間位」であった。これはルンピニ公園での活動が運動することだけに限定されているのではなく、仲間とのコミュニケーションを含め、もっと広い活動であることが推察される。

4.実施している運動の実態
 実施している運動種目を見てみると、男性は2004年では太極拳、ウォーキング、気功、ダンスが多かったのに比べ、2012年は太極拳、気功、ダンスが減り、ウォーキング、ジョギング、ウエイトトレーニング、体操のような個人で行うことのできる種目が増えた。女性は2004年、2012年ともウォーキング、エアロビクスが多い傾向は変わらなかったが、男性同様2004年に多かった太極拳や気功が2012年には減り、代わりに体操、ジョギングが増えた。それによって、公園で行っている運動を誰に教わったかの回答も、太極拳や気功のような指導者を中心として運動する種目が減ったために、指導者に教わる割合が減少し、自己流で運動する者が増加したと推察される。一緒に運動する相手についても友人が増加した。全体として、2012年はウォーキングやジョギング、体操のような個人または友人同士で運動する種目を、自分のペースで運動するといった健康づくりのスタイルが増加しているように見られた。これらの傾向は、むしろ日本の運動者のスタイルに近づいているように思われる。

5.運動用具や音楽利用の特徴
 用具の使用は男女とも少なく、2004年の男性は約1割、2012年の男性で約3割、女性は両年とも約4割が「使用する」と回答するにとどまった。しかし用具の内容に、日本ではあまり見られない特徴が見られた。用具の種類は@「棒」「ひも」「扇」などの運動手具A公園の運動器具B「バドミントン」「ボール」などの運動用具に分けられた。ABは日本の公園でも見られるが、@はあまり見ない。手具を利用することは運動にバリエーションを持たせ、体の十分な伸展を促すことができるなどの効果が期待できる。外で邪魔にならない程度の手具を利用した体操を提案することは、公園での運動のバリエーションを増やすためにも有効であると考える。
 音楽の使用は、ウォーキング、ジョギングが多い2012年の男性では1割しか使われていないが、女性は2012年も約5割が音楽を使用していると回答し、これはエアロビクスやダンスを行っている者が多いためと推察される。日本の公園での運動として代表的なラジオ体操でも音楽を使用している。運動に音楽を利用することで、動きにリズムがつけて動かしやすい、動きを覚えやすいなどの利点が考えられる。同時に公園から音楽が聞こえるとそちらに関心が向き、外の人へ運動参加を促す効果も期待される。日本においては、早朝の音楽使用は、場所によって騒音の問題等難しい側面も予想されるが、音量や使用する時間帯を考慮した音楽の利用も、運動参加者の増加や継続につながるものと考える。

6.ルンピニ公園以外での運動活動について
 「公園の運動の家での実施の有無」「ルンピニ公園以外の公園での運動の有無」「ルンピニ公園以外での講習会の参加の有無」はいずれも「行なっていない」の占める割合が高く、日常生活における運動活動が主にこの公園内に限られていることが推察された。

7.公園での運動継続で実感される心身への効果
 ルンピニ公園で運動を続けてよかったと思うことは、「病気をしにくくなった」が最も多く、運動の目的で最も多かった「健康のために」という回答とも一致し、継続した公園での運動の効果が実感されている様子が伺えた。日本の公園における調査でも、霊山(2012)が公園での運動教室参加者は病院の通院回数が減少したという調査結果を報告しており、運動の継続で健康の維持増進が実感されることが認められている。さらに「毎日が生き生きする」という精神的な充実も多くの者が実感しており、ルンピニ公園での運動が心身の健康づくりに貢献していることが推察された。
 また、運動の目的で上位であった「仲間との会話」に対応する「友達が増えた」という回答も多く見られ、コミュニケーションが公園で運動を続けていく上で大きな割合を占めることがここでも推察された。
 日常生活における運動不足感も、「感じない」とする者の割合が高く、また、ルンピニ公園での運動の生活の中での重要度も「とても大切である」と「大切である」を合わせると、ほぼ全員が回答した。ルンピニ公園での継続した運動習慣が健康づくりだけでなく、毎日の生活の中でなくてはならないものになっていることが推察された。

8.ルンピニ公園の魅力と日本の公園での運動利用の広範化に向けて
 ルンピニ公園の魅力を環境の面からまとめてみると、緑豊かな広々とした園内でゆったりと過ごせること、ウォーキング・ジョギングコースや運動器具の設置だけでなく、子供向けの遊具やバスケットゴールなど子供や若者層まで取り込む設備があることである。加えて、老人クラブ、図書館、公共のスポーツジムなどのさまざまな施設がすぐに利用できること、さらにフードコートのように朝から手軽に利用できる飲食の場があることなど、長時間過ごすために理想的な環境を有している。こうした多くの世代の人がゆっくりと過ごせる環境こそが人々の長時間の在園を可能にしている。日本の現状では、地域にこれだけ広い整備の行き届いた公園をつくることは困難であるが、ルンピニ公園の魅力をいくつかでも取り入れることは可能である。「ルンピニ公園の魅力は何であると思うか」との設問に対して、回答が多かったのは「自然が多い」と「運動する仲間が多い」であった。毎日でも来たいと思う公園の魅力づくりには、やはり何よりも自然を生かし、美化に努めることが必要であると考えられる。緑の多い環境は気分をリラックスさせ、気持ちよく体を動かすことが期待できる。また仲間がいることが公園に来る楽しみや運動の継続につながることが期待され、日本の公園においても運動後に座ってゆっくり話のできるスペースの確保等、仲間と時間を共有しやすい空間を作ることは可能なのではないかと考える。さらに公園を広い世代で共有する場として整備することができれば、生涯にわたって近隣の公園に親しむことができ、公園での途切れない長期間にわたる運動習慣にもつなげていけるのではないかと考える。公園での運動利用の促進には、このような広い視野に立ったハードの面の支援が必要であると考える。
 同時に公園の運動利用の仕方を提案する積極的な働き掛け支援というソフト面の支援も重要である。ルンピニ公園のようウォーキングやジョギングだけでなく、太極拳や気功、エアロビクス、ダンス、体操など多様な運動活動を行うグループが存在する公園では、自然にいろいろな運動に接する機会があり、興味をもった種目に参加することが可能である。しかし日本の公園では、なかなかこうした運動のバリエーションを広げる機会がない。公園の運動利用の広範化にはこのような運動の仕方のサポートを行うようなソフト面での支援も大切であると考える。日本の公園緑地の報告(2012)でも、各地のさまざまな取り組みや健康づくり運動の講習会が紹介されていが、今後はさらに求められていくものと考える。特に健康づくり運動については、体操分野から様々な提案をすることが可能である。
 さらに、今後ますます深刻化することが予想される高齢化の側面からも、公園の運動利用は高齢者の健康づくりの一方策として有効であると考える。身体的な健康づくりだけでなく、孤独化の防止やコミュニケーションによる認知症予防などの効果も期待されると考えるからである。特に孤独な状態に陥りやすい高齢者にとって、新しい友達ができ、仲間との会話の機会が作りやすい公園での運動の時間は、体の健康だけでなく心の健康のためにも大変有用な時間になることが期待される。
 今後は日本における公園での運動の実態とも比較しながら、さらに調査を進めていきたい。

VI .まとめ

 本研究では、日本の公園の運動利用の広範化のヒントを得るためにタイの首都バンコクにあるルンピニ公園で早朝運動実施者に2004年と2012年の2回にわたりアンケート調査を実施し、以下の知見を得た。

@ 男性は「60〜70歳代」(2004年約9割、2012年約6.5割)、女性は「40〜60歳代」の割合が高かった(2004年約8割、2012年約約7割)。2004年、2012年とも男女間で有意な差が見られた(p<0.05, p<0.01)。職業は「自営業」、「自由業」が多く、合わせると男性の2004年の5.5割、2012年の約5割、女性の2004年の約5割、2012年の約3.5割を占めた。男性は「無職」が2004年約1割、2012年は約3割と多く、女性は「専業主婦」が2004年は約3.5割、2012年は約4割と多かった。2012年の男女の間には有意な差が見られた(p<0.001)。

A ルンピニ公園で運動をする目的は、男女とも「健康のために」が最も多く、男性は2004年、2012年とも約8割、女性は約9割が回答した。次いで「仲間との会話(コミュニケーション)」が多く、男性の2004年は約4割、2012年は約5割、女性の2004年は約3割、2012年は約7割が回答した。

B ルンピニ公園で運動する頻度は、2004年、2012年とも「毎日」と回答した者が最も多く、「週5〜6回」を含めると2004年は男女とも約9.5割、2012年は男女とも約7割を占めた。

C 来園時間は、2004年では男女とも「4時〜5時前」と「5時〜6時」を合わせると男性の約7割、女性の約9割を占めた。2012年も男性は2004年とほぼ同様の結果で、女性は「4時〜5時前」と「5時〜6時」を合わせると約7割であった。

D 在園時間は「2時間以上3時間未満」「3時間以上4時間未満」が多く2004年と2012年の男性、2004年の女性の約7割、2012年の女性の約6割を占めた。その中で実際に運動をしている時間は、最も多かったのは2004年の男性では「45分位」が4割、2012年の男性、2004年と2012年の女性では「1時間位」が最も多くそれぞれ約4.5割、約5割、約4割を占めた。

E 公園で行っている運動の種目は、男性は2004年では「太極拳」(43.8%)、「気功」(31.3%)、「ウォーキング」(31.3%)、「ダンス」(18.8%)が多かったのに対し、2012年は「ウォーキング」(45.2%)、「ジョギング」(45.2%)、「ウエイトトレーニング」(16.1%)と個人で行うことのできる種目の割合が増えた。女性は2004年、2012年とも「ウォーキング」(47.2%,54.2%)、「エアロビクス」(41.7%,37.3%)が多い傾向は変わらなかったが、2004年に多かった「太極拳」(36.1%)や「気功」(22.2%)の代わりに2012年は「体操」(25.4%)、「ジョギング」(18.6%)が増えた。それによって、指導者に教わる割合も男性は約4割から約2割,女性は約9割から約5割に減少した。

F 一緒に運動している仲間は、男性の2004年では「同好会」(33.3%)、「家族」(26.7%)が多く、2012年では「友人」(52.0%)、「同好会」(36.0%)の順に多かった。女性の2004年では「友人」(42.9%)、「家族」(28.6%)、「同好会」(25.7%)が多く、2012年では「友人」(62.7%)、「同好会」(19.6%)の順であった。

G ルンピニ公園で運動を継続してよかったことは、男女とも「病気をしにくくなった」が最も多く、男性の2004年は73.3%,2012年は64.5%、女性の2004年は80.0%、2012年は75.9%であった。次いで「友達が増えた」「毎日が生き生きする」「腰痛・肩こりが解消した」「食事がおいしい」「姿勢がよくなった」の回答が多かった。

H ルンピニ公園の魅力で多かったのは「自然が多い」で、男性の2004年で46.7%、2012年で77.4%、女性の2004年で55.6%、2012年で83.3%であった。「運動する仲間が多い」も男性の2004年で60.0%、2012年で64.5%、女性の2004年で66.7%、2012年で71.7%と多かった。「自宅から近い」は女性で2004年が58.3%、2012年が70.0%と多かった。

I ルンピニ公園での運動の生活の中での重要度は、「とても大切である」が男性の約6.5割、女性の2004年で約8.5割、2012年約7割を占めた。「大切である」を合わせると、男性は約9.5割、女性は10割を占めた。

 ルンピニ公園から得た知見から日本の公園の運動利用の広範化についてまとめると、ハード面では、自然を生かした公園づくり、仲間とゆっくり話のできるスペースの確保、広い世代で共有することのできる場とすることが考えられる。ソフト面では、公園の運動器具やウォーキングコースの等の利用の仕方のサポート、運動のバリエーションを広げるような講習会の開催、孤独化に陥りやすい高齢者への参加の呼びかけなどが必要であると考える。

VII .謝辞

 ルンピニ公園での調査にご協力を頂きました現地日本語研究センター講師池田静子様、並びにアンケート調査にご協力を頂きました皆様に深く感謝申し上げます。

VIII .文献

1) 朴澤泰治,馬佳濛 (2011),公園の高齢者向け健康遊器具の活用方策について―日本の在宅高齢者の健康保持に向けて―その1近隣アジア諸国の設置活用状況と日本の現状.仙台大学紀要,42 (2):115-132
2) 朴澤泰治,馬佳濛 (2011),公園の高齢者向け健康遊器具の活用方策について―日本の在宅高齢者の健康保持に向けて―その2中国における設置・活用事例(青海省および瀋陽市).仙台大学紀要,43 (1):59-74
3) 肥後梨恵子 (2012),認知症予防支援事業としての『公園体操』の可能性―神奈川県E市の取り組みから―.実践女子短期大学紀要,33:47-56
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IX .資料1 アンケート調査用紙