小学校中学年を対象とした「体つくり運動」教材の検討
—Gボールを用いた運動指導に着目して—

Study of Teaching Material for "Body Building Exercise", Targeting Pupils
in the Third and Fourth Grades of Elementary School
– with Focus on Exercise Instruction Using G-ball –

                 田村 元延 (筑波大学人間総合科学研究科)
                 古屋 朝映子(筑波大学)
                 高橋 靖彦 (NPO法人アクティブつくば)
                 鈴木 王香 (筑波大学大学院人間総合科学研究科)
                 長谷川 聖修(筑波大学)


 Tamura Motonobu (Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba
)
 Furuya Saeko (University of Tsukuba)
 Takahashi Yasuhiko (Active Tsukuba of Non Profit Organization)
 Suzuki Ohka (Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba)
 Hasegawa Kiyonao
(University of Tsukuba)
    

[Abstract]

   In this study, we aimed at obtaining a basic knowledge to effectively utilize a G-ball as a teaching material for "Body Building Exercise" by devising and instructing an exercise program using a G-ball, targeting 58 pupils in the third and fourth grades of an elementary school. For the research method, the formative class evaluation and the balance-capability measurement (sitting balance and rollover balance) were used.
  As a result, it became apparent in the formative class evaluation that the pupils tended to learn pleasantly, actively and friendly. In the balance-capability measurement, it was shown that the average point for the sitting balance increased significantly through the exercise instruction ( p < .05). On the other hand, the average point for rollover balance did not show significant change before and after the instruction. But in both of the tests, it was observed that a pupil whose point was lower in the first period tended to get a higher point in the fourth period.
  From these results, it was suggested that a G-ball has a possibility to become a teaching material with which many pupils can learn pleasantly and actively, including the fact that even those pupils who are not good at G-ball exercise can achieve the goal of the task.

Key words : pupils in the third and forth grades of elementary school, body building exercise, G-ball, formative class evaluation, balance capability

 

T.諸言

 平成23年度より小学校学習指導要領(文部科学省,2008)が全面実施された.その体育分野における改訂の要点として,「運動する子とそうでない子の二極化」の傾向や生活習慣の乱れが小学校低学年にも見られることから,「体つくり運動」領域の一層の充実が求められている.具体的には,小学校全学年において「体つくり運動」が位置づけられ,低・中学年では「多様な動きをつくる運動(遊び)」が示された.「多様な動きをつくる運動(遊び)」は,児童の基本的な動きを総合的に身につけることをねらいとし,従前の「基本の運動」で取り上げられていた「用具を操作する運動」「力試しの運動」に,「体のバランスをとる運動」「体を移動する運動」を加えて再編されたものである.
 新学習指導要領の本実施に向けた移行期間に,小学校の「体つくり運動」における新たな授業内容が試みられてきた.具体例として,児童の主体性を喚起させるためにゲーム感覚で各種の運動課題をクリアする実践研究(吉野,2009)やコーディネーション理論を基に「縄」や「ボール」を用いた実践研究(北村,2011)などが挙げられる.しかし,「体つくり運動」に関する先駆的な実践研究は始められたばかりである.鈴木(2011)は,「子どもたちにとってやらされるだけのトレーニングの時間になってしまう」と「体つくり運動」の問題点を指摘している.その具体例として,高橋(2011)は,「現場では単調な運動反復や義務化しセット化された『サーキットトレーニング方式』が横行している」と述べている.また,勝亦(2009)は,「体つくり運動」について「単元として実施しても,内容や指導方法が従来通り集団的・画一的であまり変化が現れない.楽しさや発展性にも欠けている」として,指導実践上の問題点にも言及している.
 この状況を踏まえて,高橋(2011)は,「固有の運動様式を特定しない体つくり運動だからこそ指導者の創意工夫が必要だろう.『やらされる体育』でなく,子どもたちが主体的に遊び鍛える運動内容や方法論の開発が求められている」と述べている.このような児童の主体性を引き出す「体つくり運動」を実践するためには,高橋の指摘する「創意工夫」という観点に立った新たな試みが重要であると考える.
 そこで,筆者らは,児童が主体的に運動に取り組むための用具として,Gボールに着目した.Gボールは,小学校学習指導要領解説・体育編(文部科学省,2008)で中学年の「多様な動きをつくる運動」において,「用具を操作する運動」の運動例として,「Gボールに乗って,軽く弾んだり転がったりすること」と示されている.こうした運動は,Gボールが大きな球形で適度な弾性を有するため可能となる.このGボールの特性を活かした運動は,藤瀬ほか(2001)が中学生を対象にGボールを用いた「体つくり運動」の教材として実施しており,形成的授業評価の「楽しさの体験」や「自主的学習」の項目で高い評価が得られている.この結果から,Gボール運動は小学生児童を対象とした場合でも,楽しく,自主的に運動に取り組める用具として活用できると思われる.
 しかし,これまで児童を対象としたGボールに関する研究については,児童の姿勢改善にもたらす効果(長谷川ほか,2006)や座位バウンド運動中の体幹筋群の筋電図から筋活動パターン(板谷ほか,2007)など,主に実験的な研究が行われてきた.小学校学習指導要領解説・体育編(文部科学省,2008)にGボールの運動内容が例示されたにも拘らず,小学校中学年を対象としたGボール教材に関する研究が見当たらないのが現状である.
 そこで本研究は,小学校中学年児童を対象にGボールを用いた運動プログラムを試案・指導し,形成的授業評価およびバランス能力測定を実施することで,Gボールを「体つくり運動」教材として活用するための基礎的な知見を得ることを目的とした.

U.研究方法

1.調査方法
1)対象
 茨城県つくば市立K小学校
  3年生34名(男子23名,女子11名)
  4年生24名(男子10名,女子14名)
2)場所
 茨城県つくば市立K小学校体育館
3)調査期間および指導時間数
 調査日:平成22(2010)年5月20日,27日,28日,31日
 指導時間数:4時間(1時間の指導は45分)
4)Gボールを用いた運動プログラム
 本研究で実施した4時間の運動プログラムを,表1に示す.運動プログラムは,Gボールの特性を活かして「のる」「はずむ」「ころがる」運動を中心に構成した.

 表1 Gボールを用いた運動プログラム


2.調査項目および調査方法
1)形成的授業評価
 運動プログラムの評価については,高橋ほか(1994)が作成した形成的授業評価を用いた.調査は,毎回の指導後に実施した.その内容を表2に示す.「成果」,「意欲・関心」,「学び方」,「協力」の4次元9 項目からなる調査票を用い,「はい」,「どちらでもない」,「いいえ」の3段階で回答させた.

表2 形成的授業評価の次元・項目と質問内容

2)バランス能力測定
 バランス能力を測定するために,以下に示すG ボール上での座位および横臥姿勢における二つの課題を設定した.測定は,毎回の指導後に実施した.
@ 座位バランス(写真1):Gボールに座位姿勢で乗り,両足を床面から離し,バランスを保持する課題である.実施時間は30秒間とし,バランスを崩し着床した場合(写真2)でも課題を継続することとした.
 測定方法として,撮影した映像から,身体部位の着床回数を計測した.なお,バランス測定は,一回の試行における保持時間を測定する方法が一般的である.しかし,本研究では,Gボール運動を初めて体験する児童が多く,バランス課題に取り組む機会を増やすために,保持時間ではなく,一定時間内の着床回数を求める方法を取り上げた.
A横転バランス(写真3):伏臥姿勢から横転して姿勢を変化させる課題である.具体的には,Gボールに伏臥姿勢で乗り(局面1),床に足を着けたまま横転する(局面2)ことで,仰臥姿勢へ移行する(局面3).再び横転しながら(局面4),元の伏臥姿勢に戻る課題(局面5)である.実施時間は30秒間とした.
 ターン回数の測定方法は,撮影した映像を基に,伏臥姿勢から仰臥姿勢へ移行した時点で0.5回,再び,伏臥姿勢に戻った時点を1回とした.

                  
            写真1 座位バランス         写真2 座位バランス着床の様子
                      写真3 横転バランス

 これらの測定は,測定者の安全を考慮し,近くに補助者を付けて実施した.また,測定者から5m離れた位置にビデオカメラを設置し,課題の様子を撮影した(図1).


図1 バランス課題の撮影方法

3.分析方法および統計処理
 形成的授業評価では,毎回の指導後に行った形成的授業評価を以下の通り点数化した.
  「はい」:3点,「どちらでもない」:2点,「いいえ」:1点
 点数化したデータは,総合評価,4次元9項目毎に平均値を算出した.また,算出した平均値は,長谷川ほか(1995)が作成した評価基準表(表3)に基づき5段階評価に換算した.

表3 形成的授業評価の診断基準

 バランス能力測定では,4回すべての測定が可能であった児童33名を分析対象とし,授業時間における平均値と標準偏差を算出した.各平均値を対応のある一元配置分散分析を用いて,主効果を検証した.その後,F値に有意差が認められた場合,Bonferroni法を用い多重比較検定を行った.
 また,各児童の4時間目の測定値と1時間目の測定値の差(以後,「変化量」とする)を算出して,指導前後での変化を統計的に検討した.2変数間の分析について,正規性の認められた変数間では,Pearsonの積率相関係数,正規性の認められなかった変数間ではSpearmanの順位相関係数を算出した.統計解析にはIBM SPSS Statistics(Version21)ソフトウェアを用いた.すべての検定において有意水準は5%未満とした.

V 結果及び考察

1.形成的授業評価
 表4は,形成的授業評価の平均値とその評価を示したものである.
 「総合」の平均値は,3点満点中2.62-2.67点で推移していた.これらの結果を評価基準に照らすと,全ての指導で5段階中「4」と高い評価であった.これらのことから,本研究で実施したGボールを用いた運動プログラムは,児童から肯定的に受け入れられた傾向が明らかとなった.
 こうした「総合評価」を高めた要因として,「意欲・関心」「学び方」「協力」の3次元で,高い平均値および評価を示していたことが挙げられる.
 「意欲・関心」次元では,平均値が2.80-2.90点で推移し,「4」の評価が全指導の75%であった.中でも同次元の「楽しさの体験」項目は,4時間の指導を通して平均値が2.93-2.98点と高い値で推移しており,全ての指導で「4」の評価であった.つまり,児童は,Gボールの特性を活かした運動に楽しさを感じていたと推察する.
 「学び方」次元において平均値は,2.73-2.80点で推移しており,全ての指導で「4」の評価を得た.この次元における「自主的学習」項目では,平均値が2.72-2.84点で推移し,全指導の75%が「5」の評価と9項目の中で最も高い評価を得ていた.これらの結果から,本指導を通じて,児童は自主的に学習に取り組んでいた傾向が明らかとなった.
 「協力」次元では,平均値が2.66-2.83点で推移しており,全指導において「4」の評価を獲得した.項目では,「協力学習」項目において,平均値が2.75-2.93点で推移し,指導後半の3時間目に2.88点で評価「4」,4時間目に2.93点で評価「5」と高い傾向を示した.これは,後半の指導内容が2人組で「のる」「ころがる」課題であり,児童がお互いに協力して学習する機会が多くなったためと推察する.
 このように「総合」や「意欲・関心」「学び方」「協力」等の観点において形成的授業評価が高い平均値および評価を示したことは,中学生を対象とした藤瀬ほか(2001)の先行研究と同様の結果であった.このことから,中学生だけでなく児童を対象とした場合でもGボールを用いた運動は,高い意欲・関心が得られ,自主的に協力しながら学習活動が実践されている傾向が明らかになった.
 しかし,「成果」次元において,平均値は2.27-2.41点で推移し,すべての評価が「3」と他の次元よりも低い傾向を示した.特に「新しい発見」項目では,平均値が3時間目に2.16 点,4時間目に2.18点を示し,評価も両時間共に「2」と低い傾向を示した.この要因として,教師主導による一斉指導に重点を置いて実施したことが考えられる.つまり,このことが,学習課題に対して児童自ら解決方法を探る機会の減少に繋がり,「新しい発見」の評価が低くなったと推察する.

表4 形成的授業評価一覧


2.バランス能力測定
1)座位バランス
 図2は,座位バランスにおける着床回数の平均値を測定毎に示したものである.
 各回の平均値は,1時間目7.4±3.8回,2時間目6.6±3.4回,3時間目6.2±3.7回,4時間目5.6±2.8回を示し,運動プログラムが進むに連れて平均値は減少する傾向が認められた.対応のある一元配置分散分析の結果,各測定回に主効果が認められた(F = 3.1, p < .05).また,多重比較検定の結果,4時間目の平均値は1時間目に対し,有意に低い値を示した(p < .05).このような着床回数の減少は,Gボールにおける座位姿勢でのバランス保持能力の向上を反映していると考える.
 これまで座位バランスは,大学生を対象とした本谷ほか(2000),長谷川ほか(2001)の研究においても,それぞれの運動指導を通じて測定値の向上が報告されている.このことから,小学校中学年の児童を対象とした本研究の結果は,これまでの先行研究と同様の傾向を示したといえる.


図2 座位バランスにおける着床回数の平均値

 しかし,どの測定回においても平均値の標準偏差値が大きく,対象児童のバランス能力について個人差が顕著であった.図3は各児童の測定値について,1時間目の着床回数と変化量を散布図に示したものである.なお,縦軸の変化量は,値が少ない程,4時間目に着床回数が減少することから,上方向に負の目盛りを設定した.
 分析の結果,1時間目の着床回数と変化量との間に有意な正の相関が認められた(r = .66, p < .01).つまり,1時間目にて着床回数の多い児童ほど,4時間目にその回数を減少させる傾向が認められた.さらに,1時間目の平均値(7.4回)を基準に下位の群(n=15)と上位の群(n=18)に別け,それぞれの変化量の平均値について比較した.その結果,下位の群では,変化量の平均値が-3.9±4.1回と減少傾向を示した.こうした傾向について,児童の動作変容に着目すると,測定の初回では,上体が直立した座位姿勢のまま足を離床させる傾向が認められた.そのため,挙げた足はすぐに着床することになった.しかし,座位バランス課題の経験を通じて,上体を後傾させる動作が確認され,身体重心線をボールの中心に重ね合わせることができるようになったと考える.その結果,4時間目の測定では,バランスを維持することができ,着床回数を減少させたと推察する.その一方で,上位の群では,0.0±2.2回と変化が認められなかった.
 以上のことから,4時間目における着床回数の平均値が1時間目に比べ有意に低い値を示した要因として,1時間目に着床回数の多かった下位群の児童が,本運動プログラムを通じてその回数を減少させたことが大きく影響したものと推察する.


図3 座位バランスにおける1時間目の着床回数と変化量の関係

2)横転バランス
 図4は,横転バランスにおけるターン回数の平均値を測定毎に示したものである.
 平均値は,1時間目で3.8±3.0回から,2時間目に4.4±2.8回へと増加したが,3,4時間目では,大きな変化は見られなかった.対応のある一元配置分散分析の結果,各測定に主効果は認められなかった.
 この結果から小学校中学年の児童にとって横転バランスは,姿勢変換を伴う動的なバランス測定であり,座位バランスよりも難しい課題であったと推察する.


図4 横転バランスにおけるターン回数の平均値

 横転バランスにおいても平均値の標準偏差値が大きく,その能力について個人差が顕著であった.図5は各児童の測定値について,1時間目のターン回数と変化量を散布図に示したものである.
 その結果,1時間目のターン回数と変化量との間に有意な負の相関が認められた(r = -.45,p < .01).つまり,ターン回数の少ない児童ほど,4時間目にその回数を増加させる傾向が認められた.さらに,1時間目の平均値(3.8回)を基準に下位の群(n=16)と上位の群(n=17)に別け,変化量の平均値を比較した.その結果,下位の群では,0.9±2.2回と増加傾向を示したのに対し,上位の群では,-1.1±3.7回と減少する傾向が認められた.
 以上のことから,横転バランスにおいて指導前後でターン回数の平均値が向上しなかったのは,1時間目に上位群であった児童が4時間目に測定値を向上させなかった結果が影響したと推察する.この上位群がターン回数を増加させなかったことについて,測定課題に対する児童の対応動作に個人差があり,その要因を特定することは困難であった.


図5 横転バランスにおける1時間目のターン回数と変化量の関係

W.結論

 本研究の目的は,小学校中学年児童を対象にGボールを用いた運動プログラムを試案・指導し,形成的授業評価およびバランス能力測定を実施することで,Gボールを「体つくり運動」の教材として活用するための基礎的な知見を得ることであった.それらの結果として,次のことが明らかとなった.

1. 形成的授業評価における「総合評価」の平均値は,2.62-2.67点と全ての指導において高い値で推移していた.項目別に高い平均値を示したのは,「意欲・関心」次元の「楽しさの体験」項目(2.93-2.98点),「学び方」次元の「自主的学習」項目(2.72-2.84点),「協力」次元の「協力学習」項目(2.75-2.93点)であった.但し,「成果」次元の「新しい発見」項目(2.16-2.48点)では,低い傾向を示した.

2. 座位バランスにおける着床回数の平均値は,運動プログラムが進むに連れて,減少傾向を示した(F = 3.1, p < .05).中でも,4時間目における着床回数の平均値は,1時間目に比べ有意に低い値を示した(p < .05).一方,横転バランスでは,運動指導を通してターン回数の平均値に大きな変化は認められなかった.

3. 座位バランス(r = .66,p < .01)と横転バランス(r = -.45,p < .01)において,1時間目の測定値と変化量の関係に有意な相関が認められた.このことから,両課題において1時間目の測定値の低い児童ほど,4時間目の測定値を向上させる傾向が明らかとなった.

 本研究で実施した全ての指導において「楽しさの体験」「自主的学習」「協力学習」の各項目で高い形成的授業評価が得られた.これらの結果から,「やらされるだけのトレーニングの時間」(鈴木,2011)や「楽しさや発展性に欠ける」(勝亦,2009)という「体つくり運動」領域の課題を解決する方法としてGボールの果たす役割は大きいと考える.
 バランス能力測定については,座位バランスで運動指導を通して測定値が有意に向上した結果は,中学生や大学生を対象とした先行研究(本谷ほか,2000;長谷川ほか,2001;藤瀬ほか,2001)と同様の傾向であった. 一方,横転バランスでは,座位バランスとは異なり測定値が向上する傾向は認められなかった.そのため,実際の指導においては,段階的な指導方法を工夫することが求められるであろう.具体的には,横転バランスの課題を一人で実施する前に,補助者を付けて二人組で行うなど,児童の発達段階に応じた基本的な動作の習得が重要であると考える.
 しかし,両課題において1時間目の測定値が低い児童は,4時間の指導を通して測定値を向上させる傾向を示した.このことは,昨今,社会的な問題となっている「運動する子とそうでない子の二極化」の課題において,Gボール運動は,運動の得意でない子でも課題を達成できる教材として「体つくり運動」領域で活用できる可能性を有していると思われる.

X 今後の課題

 今後の課題は以下の通りである.
1. 今後,Gボールを「体つくり運動」の単元教材として活用するために,「運動」「態度」「思考・判断」に関する単元目標や単元および学習活動に即した評価基準を策定する必要がある.
2. 本研究では,「体つくり運動」の教材としてGボールを取り上げたが,今後は,小学校学習指導要領解説・体育編(文部科学省,2008)に例示されている「竹馬」や「一輪車」等の用具との比較を行い,Gボールの持つ学習効果を検討していく必要がある.
3. 本研究では,座位バランスにおいて一定時間内の着床回数を測定する方法を用いた.しかし,中学生や大学生を対象とした先行研究(本谷ほか,2000;長谷川ほか,2001;藤瀬ほか,2001)では,バランス持続時間を測定する方法を用いていた.今後は,上記の両測定方法についても比較し,検討する必要がある.

Y 文献

1)藤瀬佳香,春山国広,長谷川聖修ほか(2001),Gボールを使用した体つくり運動の教材に関する研究.スポーツ方法学研究,第14巻(第1号):pp.213-220
2)長谷川悦示,高橋健夫,浦井孝夫ほか(1995),小学校体育授業の形成的授業評価票及び診断基準作成の試み.スポーツ教育学研究,第14巻(2号):pp.91-101
3)長谷川聖修,高松薫,本谷聡ほか(2001),体ほぐし,体力向上および姿勢改善からみたGボール運動の効果.体育科学,第30巻:pp.102-114
4)長谷川聖修,本谷聡,池田陽介ほか(2006),Gボールを用いた児童の姿勢つくりの試み−座位バウンド運動による即時的効果に着目して−.スポーツコーチング研究,第5巻(第1号):pp.13-21
5)板谷厚,沖田祐蔵,檜皮貴子ほか(2007),小学生におけるGボールを用いた座位バウンド運動中の体幹筋群の筋電図:習熟された座位バウンド運動の事例から.スポーツ方法学研究,第21巻(第1号):pp.55-58
6)勝亦紘一(2009),海外ではどのような実践が行われているのか?.体育科教育,第57巻(5号),pp.36-39,大修館書店
7)北村佳史(2011),小学校体育科における体つくり運動領域の「多様な動きをつくる運動」の(教材内容)に関する実践研究.滋賀大学大学院教育学研究科論文集,第14号:pp.117-127
8)文部科学省(2008),小学校学習指導要領解説 体育編.pp.42,東洋館出版社
9)本谷聡,長谷川聖修,春山国広(2000),体操ボールに関する研究.スポーツ方法学研究,第13巻(第1号):pp.185-196
10)鈴木秀人(2011),体つくり運動と子どもをめぐる今日的課題.体育科教育,第59巻(1号),pp.10-13,大修館書店
11)高橋和子(2011),「体つくり運動」の生活習慣を糺す.体育科教育,第59巻(1号),pp.9,大修館書店
12)高橋健夫,長谷川悦示,刈谷三郎(1994),体育授業「形成的授業評価」作成の試み:子どもの授業評価の構造に着目して.体育学研究,第30巻:pp.29-37
13)吉野聡(2009),断続的な試行を引き出す多様な動きをつくる運動の教材づくりとその実 践報告.茨城大学教育実践研究,28:pp.1-9