大学生による体ほぐしの運動実施後の気づき・調整・交流に関する記述

Description by the College Student after the Exercises for Releasing Body
and Mind concerning Awareness, Adjustment and Exchange

                 加藤 享(北海道教育大学大学院教育学研究科)
                 古川善夫(北海道教育大学)
                 村田芳久(北海道教育大学)


Akira Kato (Graduate School of Education, Hokkaido University of Education
)
Yoshio Furukawa (Hokkaido University of Education, Asahikawa Campus)
Yoshihisa Murata (Hokkaido University of Education, Asahikawa Campus)

    

[Abstract]

   Four kinds of Exercises for releasing body and mind was practiced for 24 college students (18±0.4 years old). After practicing each exercise, the comment was called for about that each college student noticed, having adjusted, and having alternated.
  "It rides on a rhythm by two persons."
  16 students noticed about uniting a motion with a friend or a rhythm and the body having got warm, and 13 students adjusted about uniting a motion with a friend or music. Moreover, 12 students had described by considering uniting a motion with a friend, and teaching each other as exchange. In addition, it was realized to be exchange and adjustment to unite a motion with a friend.
  "3 — 6 persons' exercise"
  Ten students noticed about the device of movement, or the confidential relation with a friend, and 15 students adjusted about the device of movement, and the bodily posture. When the number which performs taking communication and movement increased, 12 students had described the pleasant thing as exchange. The devices of movement were realized to be awareness and adjustment.
  "Where do you came from?"
  Ten students noticed about the pleasure of exercising, singing. 14 students performed adjustment which unites a motion with a ball or a song. 12 students had described it to be exchange to hear singing by all the members, and a friend's song. It was realized to be awareness and adjustment to move according to the rhythm of a song.
  "Constructing -gymnastics "
  Five students noticed about a partner's motion influencing itself, and four students adjusted maintaining balance with a friend. 12 students had described communication as exchange.

Key words : Physical Fitness, Exercises for releasing body and mind, Awareness, Adjustment, Exchange

 

T.諸言

 1998(平成10)年に改訂された旧学習指導要領では、児童生徒の体力等の現状を踏まえ、心と体を一体としてとらえることを重視し、従前の「体操」領域の名称は、「体つくり運動」に改められた。また、心と体を一体としてとらえることを重視するという改訂のポイントを体現するため、自己の体に気づき、体の調子を整えたり、仲間と交流したりする運動である「体ほぐしの運動」が、新たに組み込まれた。2008(平成20)年における学習指導要領改訂では、それまで小学校高学年から位置付けられていた「体つくり運動」は、運動に興味を持ち活発に運動する子どもと体育の授業以外の運動時間が極端に少ない子どもの二極化や、子どもの生活習慣が乱れているという指摘を踏まえ、小学校低学年から位置付けられた。
 「体つくり運動」は、「体ほぐしの運動」と「体力を高める運動」の二つから構成されている。なお、小学校中学年までは体力を高める運動ではなく、「多様な動きをつくる運動(遊び)」とされている。その「体つくり運動」の両輪の一つである「体ほぐしの運動」は、小学校1年から高等学校卒業年次までの全ての学年で行われ、運動経験の有無が影響することなく誰もが楽しめる手軽な運動や律動的な運動を通して、運動の得手不得手を越えて、仲間と運動を楽しんだり協力して運動課題を達成したりしていくことできる運動である。また、体ほぐしの運動の行い方の例として、中学校3年から高等学校では「のびのびとした動作で用具などを用いた運動」、「リズムに乗って心が弾むような運動」、「ペアでのストレッチングをしたり緊張を解いて脱力したりする運動」、「いろいろな条件で、歩いたり走ったり跳びはねたりする運動」、「仲間と動きを合わせたり、対応したりする運動」、「仲間と協力して課題に挑戦」が現行学習指導要領で挙げられている。
 体ほぐしの運動のねらいは、自分や仲間の心や体の状態に気づき、体の調子を整え、仲間と交流することで、端的に、気づき・調整・交流という言葉で表されている。気づき・交流については、現行学習指導要領で、小学校第1学年から第4学年、小学校第5学年から中学校第2学年、中学校第3学年から高等学校その次の年次以降の3段階で示されている。調整については、小学校第1学年から中学校第2学年までの段階と、中学校第3学年から高等学校その次の年次以降の2段階で示されている。すなわち、気づきについては「心と体の変化に気づく」→「心と体の関係に気づく」→「心と体は互いに影響し変化することに気づく」の3段階に、調整では「体の調子を整える」→「体の状態に応じて体の調子を整える」の2段階に、交流においては、「みんなでかかわり合う」→「仲間と交流する」→「仲間と積極的に交流する」の3段階となる。
 学校体育実技指導資料第7集「体つくり運動−授業の考え方と進め方−(改訂版)」(以下、「体つくり運動(改訂版)」とする)には、先に示した各段階のねらいに対応して、体ほぐしの運動の学習を通して感じたことについての児童生徒の発言例が載せられている。例えば、気づきの「心と体の変化に気づく」→「心と体の関係に気づく」→「心と体は互いに影響し変化することに気づく」であれば、「リズムに乗るのはおもしろい」→「体を動かすと心も弾んでくる」→「みんなの気持ちが自分に影響すると思った」と記載されている。このように、体ほぐしの運動を活動だけでなく、運動を体験したことによって得られる学習者の具体的な発言や振り返りを集積することは意義あることであり、本研究は運動の実践とその振り返りを報告するものである。
 そこで本研究では、大学生を対象に体ほぐしの運動を実施し、実施後の振り返りを気づき・調整・交流のそれぞれの観点からコメントカードに記述させ、振り返り例として整理した。また、整理した振り返り例と「体つくり運動(改訂版)」に記載されている高等学校その次の年次以降の生徒による発言例を比較し、各体ほぐしの運動の気づき・調整・交流のねらいを検討した。

U.方法

 平成25年度前期において、教員養成大学の「体つくり運動」の授業時間に、4種類の体ほぐしの運動を3回に分けて実践した。4月11日に「リズムに乗って心が弾むような運動」と「仲間と動きを合わせたり、対応したりする運動」を行い、18日には「のびのびとした動作で用具などを用いた運動」を、そして5月23日に「仲間と協力し課題に挑戦」を行った。運動時間は、全て20分から30分程度であった。なお、ここでとりあげた運動は平成13年度から全国学校体育指導者中央講習会、子どもの体力向上指導者養成研修会、教員免許状更新講習会などで行われたものである。

1 対象者
 教員養成大学1年生の男子学生15名、女子学生9名の計24名を対象者とした。年齢の平均は18.4±0.5歳である。なお、高校を卒業したばかりの大学1年生を対象とすることによって、学習内容の段階が高等学校入学年次の次の年以降の気づき、調整、交流と同じであるか、または異なっているかを比較検討することができると考えた。また、本大学の倫理委員会は研究当時に設置されていなかったため、対象者となる学生には本研究の目的などを説明し、コメントカードの記述を研究に用いることへの同意を得た。

2 体ほぐしの運動の内容
(1)2人でリズムに乗って(リズムに乗って心が弾むような運動)
 「2人でリズムに乗って」は、ペアで向かい合い、8呼間×5種類の簡単な動きの組み合わせを音楽に合わせて行った運動である。具体的には、リズムに合わせて手をたたいたり、ペアの人と手をつないで弾んだり、回ったりする動きを組み合わせた。指導のねらいは、学習者がリズムに乗って動くことの楽しさやペアの人と動きが合うと心が弾むということを感じることである。
     
                    写真1 2人でリズムに乗って

(2)3〜6人の運動(仲間と動きを合わせたり、対応したりする運動)
 「3〜6人の運動」は、3人組の地蔵倒し、サボテン、6人組のメリーゴーラウンドという運動を組み合わせたものである。地蔵倒しは、3人で横並びになり、真ん中の人が地蔵役になって、全身を一本の棒のように緊張させ、左右にいる支持者に向かって交互に倒れていき、支持者は、ゆっくりと地蔵の人の体重を受け、反対方向に押し返していくという形で行う運動である。サボテンは、真ん中の人が左右の支持者の膝の上に立ち、立つ者は体を締めながら両手を広げ、支持者に両足を抱えてもらう形で行う運動である。メリーゴーラウンドは、手をつないで円になり、立っている者と長座の姿勢になるものが交互になるようにして、息を合わせて、同じ方向に回転していく運動である。指導のねらいは、学習者が仲間の動きや力、姿勢に合わせて体を締めたり、動かしたりすることである。
       
                      写真2 3〜6人の運動

(3)あんたがたどこさ(のびのびとした動作で用具などを用いた運動)
 「あんたがたどこさ」は、伝承遊びで行う「まりつき」の行い方と同じである。全員で歌を歌いながら、弾みやすい体操ボールやバスケットボールなどを用いて、集団に合わせてボールをつき、手とボールの間に足を通したりする運動である。指導のねらいは、学習者が集団で動きを合わせることの楽しさや歌いながら動いていくとリズムがとれて調子が出るということを感じることである。
                 
                      写真3 あんたがたどこさ

(4)組み立て体操(仲間と協力し課題に挑戦)
 「組み立て体操」は6人で行い、三段のピラミッドをつくることを課題とした。力の強い人が土台となり、上に乗る人は乗る位置に注意して、コミュニケーションを図りながら工夫して行うことが必要とされる。指導のねらいは、学習者が仲間と協力して、分担した役割を果たすことである。
                    
                        写真4 組み体操

3 コメントカードへの記入
 対象者は、体ほぐしの運動後に感じた内容を、気づきの観点からは、赤色の7.5cm×7.5cmの付箋(以下、コメントカードとする)に1点のみ、自由に記述させた。同様にして調整の観点からは緑のコメントカード、交流は青のコメントカードにそれぞれ1点ずつ記述させた。それらコメントカードは、本研究者らが各体ほぐしの運動ごとに観点別で内容の整理を行った。観点別に3名以上が同じ内容について記述していた場合、その記述を項目として取り上げ、運動ごとに整理した。
         
        写真5 気づきのカードの記述例      写真6 コメントカード集計の様子

V.本実践における気づき・調整・交流についてのコメント

 本研究で実践した体ほぐしの運動のコメントカードの記述から、取り上げた項目の内容と人数を図1〜4に示した。気づき・調整・交流の観点別に、項目の人数の合計を円の大小で表した。なお、異なる観点から同じ内容の項目が取り上げられた場合には、その項目の文中にアンダーラインを引くことで表した。

1 2人でリズムに乗って(リズムに乗って心が弾むような運動)
 気づきのコメントカードの記述から「仲間とリズムが合うと嬉しかった。(8名)」「音楽が入るとリズムが合わせやすく、気持ちが弾んだ。(4名)」、「軽い運動だが、通して動くと体が温かくなった。(4名)」の3つの項目が取り上げられ、仲間やリズムに動きを合わせると気持ちが弾むということや、体が温まったという変化に気づいたということについての記述が多くみられた。その他「自分が間違うと相手に迷惑をかけることもある。(1名)」、「動きを覚えるのが難しかった。(1名)」、「一度つまずくと取り戻せなかった。(1名)」など、運動の難しさについての記述もみられた。調整のカードからは「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。(7名)」、「音楽のリズムに動きを合わせるよう調整した。(6名)」が取り上げられ、仲間や音楽と関連して、動きの調整を行ったことについての記述が多くみられた。その他「手の力加減を変えた。(1名)」、「上手く回れるように調整した。(1名)」など、動き自体を調整する記述がみられた。交流のカードでは「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。(6名)」、「お互いに教えあいながら行うと楽しくなり、交流が深まった。(6名)」が取り上げられ、仲間と動きを合わせることと、教え合うことについての記述が多くみられた。他には「和気あいあいとして楽しかった。(2名)」、「体が触れ合うことで仲良くなれた。(1名)」、「アイコンタクトをして動いた。(1名)」など、雰囲気やスキンシップ、言葉を使わないコミュニケーションについての記述もみられた。
 なお、「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。」という項目において、調整のカードに7名、交流のカードに6名、計13名が記述しており、この運動の特徴であった。
      
                 図1 <2人でリズムに乗って>の項目の内容と人数

2  3〜6人の運動(仲間と動きを合わせたり、対応したりする運動)
 気づきのカードでは「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。(6名)」、「仲間との信頼関係が大切だと感じた。(4名)」が取り上げられ、運動を行いやすくするための工夫や信頼関係について記述が多くみられた。その他「無駄な力は不要だと感じた。(1名)」、「痛い思いをすることもあった。(1名)」、「誰がどの役割をするかを考えた。(2名)」など、運動のコツや難しさ、役割分担についての記述がみられた。調整のカードでは「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。(9名)」、「体を締めてまっすぐな姿勢を維持した。(6名)」が取り上げられ、運動を行いやすくするための工夫と体の姿勢を意識する調整についての記述が多くみられた。その他「動きが仲間と合うようタイミングなどを調整した。(1名)」、「支える人や土台の上に立つ人は、体の大きさに応じて決めた。(2名)」、「失敗した後にすぐに原因を話し合い改善した。(1名)」など、仲間と行う調整についての記述がみられた。交流のカードでは「意見を言い合ったり声をかけあったりしてコミュニケーションがとれた。(8名)」、「人数が増えるとより楽しくなった。(4名)」が取り上げられ、コミュニケーションがとれたことや、運動を行う人数が増えていくことの楽しさについての記述が多くみられた。他には「仲間を信じて体重を預けた。(1名)」、「周りと動きのタイミングを合わせた。(1名)」など、信頼や動きを合わせることについての記述がみられた。
 なお、「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。」という項目において、気づきのカードに6名、調整のカードに9名、計15名が記述しており、この運動の特徴であった。
      
                  図2 <3〜6人の運動>の項目の内容と人数

3 あんたがたどこさ(のびのびとした動作で用具などを用いた運動)
 気づきのカードでは「歌いながら行うと難しくなり、楽しくなった。(5名)」、「 歌のリズムに合うように動いた。(5名)」が取り上げられ、歌いながら運動することの楽しさについての記述が多くみられた。その他「動きを先取りしながら行うとよかった。(1名)」、「足を大きく回すとよかった。(1名)」、「ボールの種類によって跳ね方が違った。(1名)」など、動きのコツや用具についての記述がみられた。調整のカードでは「ボールをつく強さを調整した。(8名)」、「 歌のリズムに合うように動いた。(6名)」が取り上げられ、ボールの操作や歌に動きを合わせるための調整についての記述が多くみられた。その他「リズミカルに動くことができた。(1名)」、「近くの人と動きのリズムを合わせた。(1名)」、「皆に聞こえるように大きな声で歌った。(1名)」など、運動によって調子が整ったり、仲間との関わりについて記述がみられた。交流のカードでは「全員で歌うと一体感が出て、心地がよかった。(8名)」、「仲間の歌を聴くことでリズムを保つことができた。(4名)」が取り上げられ、全員で歌うことの一体感や仲間の歌に動きのリズムを合わせることについての記述が多くみられた。その他「声を合わせて歌った。(1名)」、「仲間と動きのコツを教えあった。(1名)」など、歌や動きのコツについて交流する記述がみられた。
 この運動では、気づき・調整・交流すべてにおいて、歌うということについての項目がみられ、皆で歌いながら運動するという特徴がよく表れていた。なお、「 歌のリズムに合うように動いた。」という項目においては、気づきのカードに5名、調整のカードに6名、計11名が記述しており、この運動の特徴であった。
      
                 図3 <あんたがたどこさ>の項目の内容と人数

4 組み立て体操(仲間と協力し課題に挑戦)」
 気づきのカードでは「相手が体を締めると体が軽く感じた。(5名)」が取り上げられ、相手の動きが自分に影響するということについての記述がみられた。その他「土台がしっかりしている必要があった。(1名)」、「重心を捉えるとよかった。(1名)」、「体のどこに乗るのか注意した。(1名)」、「声かけが必要であった。(2名)」など、運動や協力についての記述がみられた。調整のカードでは「お互いにバランスがとりやすいように、姿勢や体の位置などを調整した。(4名)」が取り上げられ、仲間とバランスがとれるように、自分の体を調整していくことについての記述がみられた。その他「すべる素材の衣類を脱いだ。(1名)」、「体を締めた。(1名)」、「力の入れ具合を調整した(1名)」、「安全に行えるよう配慮した(2名)」など、工夫や力加減、安全についての記述がみられた。 交流のカードでは「コミュニケーションをとって工夫した。(8名)」、「仲間と息を合わせるよう意識した。(4名)」が取り上げられ、コミュニケーションをとることや協力して息を合わせることについての記述が多くみられた。 その他「体が密着する中で交流が深まった。(1名)」、「成功すると達成感があった。(2名)」、「みんな楽しそうであった(1名)」、「皆が安全にできて楽しかった。(1名)」など、交流の深まりや達成感、楽しく安全にできたことについての記述がみられた。なお、この運動のみが異なる観点のカードから同じ内容の項目が取り上げられなかった。
      
                  図4 <組み立て体操>の項目の内容と人数

W.本実践における体ほぐしの運動の振り返り例と「体つくり運動(改訂版)」の生徒の発言例の比較

 高等学校学習指導要領解説(文部科学省,2009)では、気づき・調整・交流について次のように示されている。気づきでは「運動を通して、体がほぐれると心がほぐれ、心がほぐれると体が軽快に動くように、自己や他者の心と体は、互いに影響し合い、かかわり合いながら変化することに気付くこと」、調整は「運動を通して、人の体や心の状態には個人差があることを把握し、体の状態に合わせて力を抜く、筋肉を伸ばす、リズミカルに動くなどして、体の調子を整えるだけでなく、心の状態を軽やかにし、ストレスの軽減に役立つようにすること」、交流は「運動を通して、共に運動する仲間と進んで協力したり、仲間が安心して活動できるように緊張をほぐしたりして、お互い失敗を恐れず積極的にチャレンジすることによって仲間を大切に感じたり信頼で結ばれたりするように交流することが大切である」と示されている。これらに対応して「体つくり運動(改訂版)」では、体ほぐしの運動の学習を通して感じたことについての児童生徒の発言例が挙げられている。実際には、気づきで「僕の動きが仲間の動きを変えた」、「みんなの気持ちが自分にも影響すると思った」、「体の調子に合わせた取り組み方がある」、調整では「お互いに体の調子を確かめ合いながら動かすと相手の調子がわかる」、「人の助けを借りると気持ちが安定する」、交流では「不安な気持ちが仲間の助けのおかげで信頼に変化する」、「みんなと動くと仲間は大切だと感じた」などと記載されている。
 本研究では、大学生を対象に体ほぐしの運動を実践し、各体ほぐしの運動の気づき・調整・交流についてのコメント例を整理した。そして「体つくり運動(改訂版)」で挙げられている高等学校入学年次の次の年以降の段階の生徒の発言例と比較検討し、本実践における気づき・調整・交流について考察した。なお、生徒の発言例と本実践のコメントカード例を整理し、表1に示した。

1 気づき
 生徒の発言例である「僕の動きが仲間の動きを変えた。」は、本実践では、<組み立て体操>の「相手が体を締めると体が軽く感じた。」という項目に、自己と仲間の動きが相互に影響しているといった意味で同じ内容であると読み取れる。「みんなの気持ちが自分にも影響すると思った。」は、本実践では、<2人でリズムに乗って>の「仲間とリズムが合うとうれしかった。」と、<3〜6人の運動>の「仲間との信頼関係が大切だと感じた。」に見出すことができる。「体の調子に合わせた取り組み方がある。」、「普段の生活でも運動を組み合わせて行って気分転換したい。」、「体ほぐしの運動を勉強の合間に行ってストレス解消したい。」は、本実践で行った振り返りにおいて記述がなかった。
  本実践では<2人でリズムに乗って>の「音楽が入ると気持ちが弾んだ。」、「軽い運動だが、通して動くと体が温かくなった。」、<3〜6人の運動>の「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。」、<あんたがたどこさ>の「歌いながら行うと難しくなり、楽しくなった。」、「歌のリズムに合うように動いた。」が気づきの項目として記述されていた。これらは、体ほぐしの運動を通して仲間だけでなく音と向き合うことで、楽しさや工夫に気づいていたといえる。このことから、本実践における体ほぐしの運動では仲間、音などの環境と関わり合うことで気づくことができたと考察できる。そして、仲間、音などの環境と関わりあえるような体ほぐしの運動を実践していくことが、児童生徒の多様な気づきを生み出し、ねらいに迫っていくことができる可能性が示唆された。

2 調整
 生徒の発言例である「お互いに体の調子を確かめ合いながら動かすと相手の調子がわかる。」は、本実践では、<2人でリズムに乗って>の「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。」という項目に見出すことができる。また、生徒の発言例の「人の助けを借りると気持ちが安定する。」は、<組み立て体操>の「お互いにバランスがとりやすいように、姿勢や体の位置などを調整した。」と言う項目に読み取ることができる。
 このほか、<2人でリズムに乗って>の「音楽のリズムに動きを合わせるよう調整した。」、<3〜6人の運動>の「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。」、「体を締めてまっすぐな姿勢を維持した。」、<あんたがたどこさ>の「ボールをつく強さを調整した。」、「歌のリズムに合うように動いた。」が、調整の項目として記述されていた。これらのことは、音や物を、自己の体の調子に合わせて調整したことを意味し、音の時間を長くして動きを持続する能力を高める運動につなげたり、体を締める調整は力強い動きを高める運動につなげたりすることができると考えられる。また、ボール操作の調整は巧みな動きを高めるための運動につなげることもできると考えられる。すなわち、本実践における体ほぐしの運動は、自己の状態やねらいに応じて体力を高めるための運動の動機付けや出発点となる可能性を伺わせた。

3 交流
 生徒の発言例である「不安な気持ちが仲間の助けのおかげで信頼に変化する。」は、本実践では<3〜6人の運動>の「意見を言い合ったり声をかけあったりしてコミュニケーションがとれた。」、<あんたがたどこさ>の「仲間の歌を聴くことでリズムを保つことができた。」、<組み立て体操>の「コミュニケーションをとって工夫した。」という項目に、コミュニケーションを取り合って助け合う信頼関係を構築していることが読み取れる。生徒の発言例の「みんなと動くと仲間は大切だと感じた。」は、本実践では、<2人でリズムに乗って>の「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。」、「お互いに教えあいながら行うと楽しくなり、交流が深まった。」、<3〜6人の運動>の「人数が増えるとより楽しくなった。」、<あんたがたどこさ>の「全員で歌うと一体感が出て、心地がよかった。」、<組み立て体操>の「仲間と息を合わせるよう意識した。」という項目に、仲間と動く楽しさや息を合わせるということに仲間の大切さを感じていることが伺える。このことから本実践における体ほぐしの運動では、仲間と交流する中で皆で運動することの楽しさや仲間の大切さを感じ、信頼関係を構築していくことのできるものと推測される。

    表1 本実践における体ほぐしの運動の振り返り内容と「体つくり運動(改訂版)」の生徒の発言例の比較
  

X.まとめ

 本研究では、大学生(18.4±0.5歳)を対象に「リズムに乗って心が弾むような運動」は<2人でリズムに乗って>、「仲間と動きを合わせたり、対応したりする運動」は<3〜6人の運動>、「のびのびとした動作で用具などを用いた運動」は<あんたがたどこさ>、「仲間と協力して課題に挑戦」は<組み立て体操>の、4種類の体ほぐしの運動を実践した。それぞれの運動後に、気づき・調整・交流について記述されたカードから各体ほぐしの運動の振り返り例を整理した。また、その振り返り例と「体つくり運動(改訂版)」で挙げられている体ほぐしの運動における生徒の発言例と比較し、体ほぐしの運動における気づき、調整、交流について検討した。

1 2人でリズムに乗って
 気づきのコメントカードの記述から「仲間とリズムが合うと嬉しかった。(8名)」「音楽が入るとリズムが合わせやすく、気持ちが弾んだ。(4名)」、「軽い運動だが、通して動くと体が温かくなった。(4名)」の3つの項目が取り上げられた。調整のカードからは「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。(7名)」、「音楽のリズムに動きを合わせるよう調整した。(6名)」の2項目、交流のカードでは「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。(6名)」、「お互いに教えあいながら行うと楽しくなり、交流が深まった。(6名)」の2項目が取り上げられた。なお、「仲間と声を掛け合ったりしながら息を合わせるように意識した。」という項目は、調整や交流として計13名が記述しており、この運動の特徴であった。

2 3〜6人の運動
 気づきのカードから「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。(6名)」、「仲間との信頼関係が大切だと感じた。(4名)」の2つの項目が取り上げられ、調整のカードでは「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。(9名)」、「体を締めてまっすぐな姿勢を維持した。(6名)」の2項目、交流のカードでは「意見を言い合ったり声をかけあったりしてコミュニケーションがとれた。(8名)」、「人数が増えるとより楽しくなった。(4名)」の2項目が取り上げられた。なお、「ちょっとした工夫で運動がしやすくなった。」という項目は、気づきや調整として計15名が記述していた。

3 あんたがたどこさ
 気づきのカードでは「歌いながら行うと難しくなり、楽しくなった。(5名)」、「 歌のリズムに合うように動いた。(5名)」の2項目、調整のカードでは「ボールをつく強さを調整した。(8名)」、「 歌のリズムに合うように動いた。(6名)」の2項目、交流のカードでは「全員で歌うと一体感が出て、心地がよかった。(8名)」、「仲間の歌を聴くことでリズムを保つことができた。(4名)」の2項目が取り上げられた。なお、「 歌のリズムに合うように動いた。」という項目は計11名が気づきや調整として記述していた。

4 組み立て体操
 気づきのカードでは「相手が体を締めると体が軽く感じた。(5名)」の1項目、調整のカードでは「お互いにバランスがとりやすいように、姿勢や体の位置などを調整した。(4名)」の1項目、交流のカードでは「コミュニケーションをとって工夫した。(8名)」、「仲間と息を合わせるよう意識した。(4名)」の2項目が取り上げられた。

5 本実践における体ほぐしの運動の振り返り例と「体つくり運動(改訂版)」の生徒の発言例の比較
 本実践における体ほぐしの運動の振り返り例と「体つくり運動(改訂版)」の生徒の発言例の比較から、気づきにおいては、仲間、音などの環境とかかわりあえるような体ほぐしの運動を実践することで、児童生徒の多様な気づきを生み出すことができる可能性が示唆された。また、本実践で対象者が音や物に対して、自己の体の調子に合わせて動きを調整したことから、調整は自己の状態やねらいに応じて体力を高めるための運動の動機付けや出発点となる可能性を伺わせた。さらに、交流においては本実践における全ての運動で、皆で運動することの楽しさや仲間の大切さを感じ、信頼関係を構築していくことができるものであった。

Y 文献

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文部科学省(2008),中学校学習指導要領解説 体育編 pp28-40,東山書房
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